無事夕食も食べ終わり、昨日同様にテントを用意した俺たちは眠りについた。
まぁ、俺だけは昨日と違ってテントの外で眠る事にしたワケが。
「小僧……いや。亮」
「どうしたんですか? 雷蔵さん」
「さっきは助かった。俺は自分の技術を伸ばす事ばかりを考えていて、姫様を楽しませる事を忘れていた。お前の肉は俺にそれを思い出させてくれたぜ」
「それは良かったです。あと、俺もただ肉を焼くという行為に、ここまで極める要素があるのだと教えてもらいました」
「ふっ、互いに収穫があったという事か。ならば必要以上の礼は不要だな」
「えぇ」
俺は雷蔵さんの礼に軽く返事を渡しながら笑った。
そして、雷蔵さんが作った巨大なキャンプファイヤーを見つめながら横になる。
あまりにも大きすぎるキャンプファイヤーはどれだけ時間が経っても燃え尽る気配を見せず、ごうごうと燃え続けていた。
どうしたもんかな。
「話は変わるんですけど」
「あぁ」
「コレ、どうするんですか?」
「どうと言われてもな。当分は燃えてるんじゃないか?」
「消すって訳にもいかないですよね?」
「ヤマトは姫様の庭だ。姫様の庭にゴミを残すわけにはいかないだろう」
「まぁ、でしょうね」
俺はキャンプファイヤーをジッと見つめながら、もう寝るかと目を閉じた。
何かあれば騒ぎで起きるし。
このままだと眠る事も出来ずに朝を迎える事になりそうだ。
という訳で眠りの世界に旅立とうとしたのだが……。
「なんだ。もう寝るのか? 夜はまだまだ長いぞ」
「俺は旅であまり寝てないので、さっさと寝ます」
「それは無いだろう。せっかく互いにぶつかり合って、実力を認め合ったんだ。話でもしようじゃないか」
「明日にしてください。明日に」
「面白くない奴だな。仕方ない。俺が話をしてやろう」
「いらないです」
「そう。俺が天才と呼ばれる様になったのは、先代様がヤマトを治めていた時代だった」
寝ると言っているのに話を始める雷蔵さんに面倒だなと感じつつ、俺は話に耳を傾けながら眠り始める。
これだけ元気ならずっと起きてるだろうし。
何かあれば起こそうとするだろう。
「そう。先代様だ。今は楓様がヤマトを治めていらっしゃるが、以前は先代様がヤマトを治めていたんだ。まぁ、当然の事であるがな」
「あぁ……そうなんですねぇ」
「あぁ、それで、先代様はとても素晴らしい方でな。俺みたいな、はぐれ者にも仕事を下さって、生きる場所を下さったのさ。瞬が追放されずにヤマトに残れたのも先代様がいて下さったからだ」
「なる……ほど」
「だからこそ、先代様を守れなかった事は、今でも悔やむ事さ。あの時、もっと俺たちに力があれば、と思わなかった日は無い」
「……」
「先代様と楓様、桜様がいらっしゃった時が一番良かった。先代様もとても幸せそうだったし。楓様も子供らしく、桜様と共に先代様に甘えていたよ」
「……あぁ」
「せめて桜様が生きていて下さればな。なんて、夢みたいな話だが、まだ桜様のご遺体は見つかっていない。可能性はあると思いたいものだ」
半分以上眠っている世界の中、雷蔵さんの話を聞いていた俺は、少しずつ静かになっていく中で夢の世界に落ちて行った。
それから、完全に眠った俺は、昨日までの疲れを完全に回復させてから目覚めた。
「おはようございます」
「おぉ、起きたか。亮」
「はい。ってアレからずっと起きてたんですか?」
「いや? 何度か寝たよ」
「起きたり寝たりって感じですか」
「そうだな。まぁ、姫様が外に出ている時はいつでも動ける様にしているんだ」
昨日なんとなく聞いていた話の中で、雷蔵さんの後悔を聞いた様な気がする。
しかし、記憶は非常に曖昧である為、俺はあまりそこは突っ込まないまま話をするのだった。
「ですが、昨日の夜はだいぶ静かだったようですね」
「まぁ、ここはかなりフソウに近い場所だからな。魔物もあまり出てこないさ」
「もうそんなにフソウは近いんですか?」
「あぁ。ここから歩いてすぐだよ。昨日は姫様がキャンプをしたがっていたからな。ここでキャンプをしただけさ」
「なるほど」
そういう事情だったかと頷き、俺は伸びをして体をほぐしてからキャンプファイヤーの残り火を使って朝食の準備を始めた。
作るのは余った肉とコンソメスープを合わせた物だ。
「朝食か?」
「えぇ。野菜のスープと肉を合わせた料理で、肉の方を強くして野菜を食べやすくした物ですね」
「……姫様の為か」
「まぁ、昨日は無理をさせてしまいましたからね。朝は好きな物の方が良いかと思いました」
「それは助かるな。姫様には旨いモノを食べて頂きたい」
「気持ちは分かりますよ。俺も楓ちゃんと同じくらいの年頃の妹が居ますから」
「そうなのか」
「えぇ。俺が料理について色々考えてたり、冒険者をやっているのは妹を喜ばせたいからですしね」
「お前は、相当な妹好きなのだな」
少し呆れた様な姿の雷蔵さんを流しつつ、俺はひとまずスープを完成させて味見をしてみた。
かなり野菜の味は消えて、肉の旨さだけの状態になった様に思う。
俺は朝食が出来た事で、リリィちゃん……はもう起きているみたいだから。
モモちゃんとリンちゃん、そして楓ちゃんとセシルさんを起こす事にした。
「亮さん。朝食作ってくれたんですね!?」
「まぁ、朝食は結構余裕があるからね。出来る事はやっておきたかったんだ」
「なんじゃ? 亮が朝食を作ってくれたのか。すまんのぅ」
「良いんですよ」
「うぇ!? しかし、野菜のスープか、また……」
「あぁ、大丈夫ですよ。楓ちゃんが昨日頑張ったから今日はどちらかと言うと、お肉のスープになってます」
「お肉のスープ? 本当か?」
訝し気な楓ちゃんに、俺は少しだけスープをカップに入れて手渡した。
大丈夫だよという様に笑いかけてから、飲んでみて。という。
楓ちゃんは不安そうな顔をしていたが、勇気を振り絞ってカップに口を付けて……一口。
すぐにビックリした顔になると俺に視線を移した。
「こ、これは!?」
「朝は肉を直接食べるのは難しいですからね。野菜のスープに混ぜて食べやすくしつつ、お肉多めにして味をお肉よりにしたんですよ」
「おぉー! すごいのじゃ! 流石は亮じゃな!?」
「まぁ、これも全部調整しやすい様に作ってくれたリリィちゃんのお陰……なんだけど」
リリィちゃんへと視線を向けたが、リリィちゃんはテントを片付ける作業を行っているらしくやや離れた場所に居るのだった。
真面目。というのもあるだろうが、多分楓ちゃんと対面するのが気まずいんだろうな。
そんな訳で、紹介するのは出来なかったけど、満足している楓ちゃんにちゃんとスープを渡し。
モモちゃん、リンちゃん、セシルさん、雷蔵さん。
そして、テントの片づけが終わったリリィちゃんにスープを渡し、俺たちは朝食を食べて、十分に体力を回復させてから出発の準備をするのだった。
いよいよヤマトのフソウという城を目指して、最後の冒険である。
とは言っても、もうすぐそこにフソウはあるらしいから、冒険も何も無い訳だが。
まぁ、気分の問題だ。
「ではフソウへ向けて出発じゃー!」
「「おー!」」
楓ちゃんの言葉にモモちゃんとリンちゃんが手を上げて応える。
そして、三人を中心として、すぐ後ろにセシルさん。
四人の左右に俺と雷蔵さんが立ち、一番後ろにはリリィちゃんが立った。
これで何かがあってもすぐに対応できるだろうし。
中央に居る四人とリリィちゃんには傷一つ付けずに進む事が出来るだろう。
まぁ、そこまでする必要は無いのかもしれないが、冒険は家に着くまでが冒険だからな。