異界冒険譚   作:とーふ@毎日なんか書いてる

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第197話『ヤマトという国の影(見えないところ)

 フソウの城の入り口で俺は神刀を抜きながら、ヤマトの危険人物と向き合っていた。

 板間から土間へと足を踏み入れた、時道さんと呼ばれる人は薄い笑みを浮かべながら神刀を構える。

 互いに地面を踏みしめながら距離を探った。

 最も最適な距離を。

 

「慎重だな……しかし、このままでは何も始まらないだろう?」

「……」

「こちらから動かせて貰おうか」

 

 時道さんは、神刀を構えたまま無防備に俺へ向かって一歩踏み出し、そのまま俺の領域の中まで容易く踏み込んでくる。

 その動きに反応し、俺は斬りかかりそうになるが、踏み出してはいけないと俺の中の何かが叫んでいた。

 しかし、このまま待っていても勝ちは奪えない。

 

 俺は覚悟を決めて、右足を一歩踏み出して振り下ろした。

 だが、やはりというか俺の神刀は時道さんの神刀に受け止められて、そのまま弾かれそうになってしまう。

 ここで戦ってもいずれ敗北してしまう為、俺はあえて力を抜き、弾かれつつ時道さんの腕に向けて蹴りを向けた。

 

 流石にこういう動きは予想外であったらしく、時道さんはやや焦りながら後方へと跳んだ。

 

「っ! なるほど。曲芸の様な動きをするな。これが異国の侍か」

「まぁ、勝つ為なら何でもやりますよ。俺は」

「確かにそうだな。勝つ為ならあらゆる手段を講じるべきだ。型も大事だが、そればかりでは厳しいだろう」

「……」

「しかし、まぁ。それは俺たちも同じ思考だ。と、まぁ、これは言わなくても分かるかな」

「えぇ」

 

 時道さんは、神刀を上段で構えるとピリッとした殺意を真っすぐに俺へと向ける。

 その殺意に、俺は背中にジワリと汗が流れるのを感じた。

 しかし、負けてしまえば。

 ここで気持ちが折れてしまえば、おそらくは助からない。

 

 そう感じたからこそ、俺は刀をいつもの様に構えて、大きく息を吐いた。

 

「逃げないか。良い覚悟だ」

「……!」

「いくぞ……! 異国の侍、亮!!」

「……来い!」

「力を見せろ! 『神風』!」

「っ!」

 

 おそらくは、時道さんが神刀の銘と思われるモノを叫んだ瞬間、恐怖が一気に膨れ上がり、大きな力となって俺に襲い掛かって来た。

 避けられない。

 隙を突くのは不可能だ。

 受け止めるしか……ない!

 だが……!

 

「神凪!!」

「うぉぉおお!! ――!」

「そこまでだ!!」

 

 俺が正面から振り下ろされる神刀を受け止めようと、神刀を前に振り下ろした瞬間、どこからか高速で突っ込んできた影が、俺と時道さんの腕を捕まえて、動きを無理矢理止める。

 その力はあまりにも強いもので、俺は腕を少しも動かす事が出来なくなってしまうのだった。

 

「……雷蔵か」

「ったく。姫様の前で過剰な流血現場を見せるなよ? 時道」

「すまない。少々面白い相手でな」

「面白いで暴走するな。まったく」

 

「それに、亮。あんまり誰とでもやるなよ。時道はヤマトで上位の侍だと言っただろう?」

「それはそうなんですが……逃げる事も出来なくて」

「出来ないって事は無いだろう。何が何でも逃げると決めれば逃げられただろうが」

「確かに。そうですね。でも、ほら。気持ち的に逃げられない時ってあるじゃないですか」

「……どうしようもない奴だな。お前は」

 

 はぁ。とため息と共に俺達の手を離した雷蔵さんは、俺たちから離れて楓ちゃんの所へ向かった。

 そして、板間に座布団を敷いて座っている楓ちゃんに話しかける。

 

「大丈夫ですか? 姫様」

「あぁ、大丈夫じゃ。でも、凄く驚いたのぅ」

「申し訳ございません。アホ共が」

「いやいや。良いと思うぞ。二人とも、強さを純粋に求めているのじゃろう?」

「だとしても、その様な物は修練場で行えばよい話。この様な所で行うなど、信じられませんよ」

「わはは。雷蔵は心配性じゃのう」

 

 楓ちゃんがケラケラと笑っている姿を見ながら、やってしまったなと思いつつ神刀を納刀する。

 そして、時道さんと軽く視線を交わしながら、俺も楓ちゃんの所へと近づこうとした。

 しかし、その前に時道さんから話しかけられた。

 

「小峰亮と言ったか」

「はい?」

「すまなかったな」

「いえ。俺も途中で止められませんでしたから」

「そうか。お前も瞬や俺と同じなのだな」

「お二人ほど、強くはありませんよ」

「……! なんだ。瞬の事も知っているのか?」

「えぇ。セオストで何度かお会いしましたし。一緒に戦った事もあります」

「そうか! 瞬は強かっただろう!?」

「はい。そうですね。圧倒的でした」

「そうかそうか。やはりな。瞬は圧倒的だったか」

 

 時道さんは俺と戦った時の張り詰めた様子から一変し、キラキラとした子供の様な顔で喜び瞬さんについて語る。

 

「瞬はな。俺と同じ年の生まれでな。昔から天才と呼ばれた侍だったんだ」

「そうなんですね」

「あぁ。同年代など比べ物にもならない。圧倒的な才能の持ち主だった」

 

 遠い空の向こうを見る様な目で、時道さんは語る。

 見ているのは瞬さんの昔の姿……いや、瞬さんと時道さんが共に居た日々の事だろうか。

 

「しかし、どれだけ優れていようとも、勝てない物がある」

「それは?」

「ヤマトという国だ。狭い考えと、古い慣習に縛られた愚かな弱い老人が力を握る国だ。奴らが居なければ……瞬は」

「……時道さん?」

「っ! っと、すまない。少々話が逸れたな。まぁ今聞いた事は忘れてくれ。大した話ではない」

「そうですか。分かりました」

「うむ。では、姫巫女様を頼む。私はまた出かけなくてはならないからな」

「お忙しいんですね」

「まぁ、これでも私はこの国を支える十二刀衆の第一刀だからな。色々と決めなくてはいけない事も、やらなくてはいけない事も多いのさ。では、また会おう。小峰亮」

「はい。また」

 

 時道さんは出会った時とは違う笑顔で城の入り口から外へと去って行った。

 その姿は非常に接しやすい好青年の様に映るが、先ほど見せた殺気は……俺へ向けた物よりも、重く深いものだった。

 

 ヤマトという国も色々と複雑なようだ。

 と、俺は時道さんの背中を見ながら思う。

 

「亮さん。大丈夫ですか? 怪我はありませんか?」

「あぁ、うん。大丈夫だよ」

「まったく。ビックリしたわよ。いきなり姫様抱えて城に走ったかと思えば、知らない人と戦ってるんだもの」

「ごめん。ごめん。あの場所に居ると、また終わらない戦いが始まりそうで」

「でも、こっちに来ても戦ってたじゃない」

「それを言われると困るね。いや、ホントに」

 

 俺はモモちゃんとリンんちゃんに言い訳をしつつ、遅れてやってきたリリィちゃんと共に楓ちゃんの所へ向かった。

 楓ちゃんは俺たちの戦いも特に気にした様子は見せず、雷蔵さんやセシルさんと楽しそうに話をしていた。

 

「楓ちゃん」

「おぉ、亮。すまんな。時道が」

「いえいえ。俺も止められませんでしたから」

「はっはっは。亮は本当に戦いが好きなんじゃのう。瞬や時道と同じじゃ」

「いえ。姫様。侍は皆、似たようなものです」

「いや。俺は別に戦いが好きという訳では無いのですが」

 

 一応否定はしたが、それが受け入れられる事はなく、軽く流されて消えていった。

 そして、楓ちゃんはよし。と膝を叩くと板間に上がり、俺達を呼ぶ。

 

「靴は外で脱いできてくれ。ここからは土足厳禁でな」

「分かりました」

「やっぱりヤマトってそうなんだねぇ」

「うん。リョウさんの家も同じだったものね」

「まぁ、ウチはヤマト式の家だからね」

 

「ほー。亮はセオストにヤマトと同じ家を作っておるのか」

「はい。ヤマトの建築に詳しい職人が居まして」

「しかも! 温泉があって、プールもあるんですよ。姫様」

 

「ぷーる?」

「凄く広い部屋の中で湖みたいに水がいっぱいある場所なんです」

「泳げるんですよ」

「ほぉ! それは凄い! 是非、亮の家に行ってみよう!」

「行くにしてもすぐは無理ですよ。楓ちゃん」

「そうそう。護衛部隊を準備して、セオストにも話を通さないと」

「むー。面倒じゃのう!」

 

 楓ちゃんは頬を膨らませながら不満を訴えた。

 が、どうしようも無い事である故。不満が解消される事は無かったのである。

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