楓ちゃんに案内され、俺たちはフソウの城の中へ入り、木製の階段を上って最上階へと向かった。
そして、姫巫女様と聖女様専用の部屋に入ると、適当に荷物を置いてくれという楓ちゃんの言葉に従って、部屋の端に置くのだった。
一応汚れは外で一回払ってきたが、荷物の下には綺麗なタオルを敷いておく。
そして畳のある和室である為、正座をしながら楓ちゃんに向き直った。
「ん? あれ? リョウさんにリリィさんも、不思議な座り方するのね?」
「あぁ、二人とも。そうかしこまらなくても良いぞ。わらわ達以外は誰もおらんしな。モモとリンも楽にしてくれ」
「そうですかー? じゃあお言葉に甘えて」
「失礼しますね」
モモちゃんとリンちゃんは、楓ちゃんの言葉に頷いて足を崩して座る。
しかし、リリィちゃんはガチガチに固まったまま正座をしていた為、俺もリリィちゃんに合わせて正座するのであった。
一人だと目立つしな。
「なんじゃ。二人とも。わらわが良いと言っているのに」
「まぁ、楽にした姿がコレなんですよ」
「そうか? まぁ、そう言うのなら良いがの」
楓ちゃんは仕方ないかという様な顔で笑うと、分かったと頷いてくれるのだった。
そんな楓ちゃんの反応にもリリィちゃんはビクッと震えながら怯えていたが、視線がリリィちゃんから外れた事で小さく息を吐いていた。
だいぶやられているな。
このまま無理はさせずに、影でひっそりとしてて貰おう。
という訳で、俺も息を潜めながら、楓ちゃんとモモちゃん、リンちゃんの話に耳を傾ける。
「では、改めて神樹について話そうかの」
「はい」
「とは言っても、じゃ。実はそこまで複雑でも、難しい話でもない。我らヤマトで大切にされておった神樹が最近元気が無くての」
「えー、っと、ですね。大変失礼な事を言うのですが」
「うむ。なんじゃ? どんな言葉でも構わんよ。色々な意見が欲しいからな」
「では、失礼しまして。真珠の元気がないというのは……寿命ではないのでしょうか?」
「一応その可能性もあるが、正直それは無いと思っておる」
「そうなのですか?」
「神樹は数千年の昔からヤマトにあっての。つい二年前までは元気だったんじゃよ。数千年も生きてて、そんな急に元気が無くなるじゃろうか?」
「残酷な話をするようですが、無くはないですよ。人の入らない深い森の奥では、数千年生きる樹木もありますが、環境によって突然枯れたりする事もあります」
「そうなのか!」
「はい。外からは分からないのですが、内側が少しずつ弱っていて、ある日突然。という事はあり得ます」
「そうか……それは困るのぅ」
「ただ、見てみないと分からない事もあるので、実際に見る方が良いかなと思います。聖女の力を持った人が二人いますし。力を合わせれば、木の寿命を増やす事も出来ますよ」
「あら、そんな事が出来るんですか?」
「はい。聖女の力は生命と魔力に直接干渉出来ますから。魔力を整えて、内部の腐食した部分を癒す事は可能かと思います」
「それは素敵ですね」
モモちゃんの話は専門的な話も多く、何となくは理解できるが、何となくしか理解出来ない話である。
まぁ、魔力がどうのという話を除けば、木の寿命とか、雨とかの影響で腐食したとかそういう話なのだろう。
しかし、それを魔力があればどうにか出来るというのは凄い話である。
「ひとまず神樹の状態を見てみたいですね」
「そうじゃな。まずは専門家に見てもらうのが一番か」
楓ちゃんは、うむと言いながら立ち上がると、部屋の隅にあるふすまを開く。
「ここにはセシル様が作ってくれた転移門がある。これで直接神樹のある場所まで行けるという訳じゃ」
「あら。それが凄いですねぇ」
「では行こうかの」
そして、楓ちゃんは床が光る小さな部屋の中に入り、一瞬で姿が見えなくなった。
それからモモちゃん、リンちゃん、リリィちゃん、俺、セシルさんと順番に光の中に入ってゆく。
俺は眩い光の中で独特な浮遊感に体が包まれるのを感じながら、最後にスッと落ちて見知らぬ場所に移動した。
「……ここは」
「ここは、ヤマトの最奥にある霊刀山の近くですね」
「霊刀山、ですか?」
「はい。担い手の居ない神刀を納めている山になりますね」
「なるほど」
「ちょうど、縁側の所から見えるのが、霊刀山ですよ」
「はぁー。アレがそうですか」
俺は遠くに見える薄く煙がかった山を見て、頷いた。
雲では無いと思うんだが……霧だろうか。
霧にしては濃すぎる様な気もするが。
「あの霧はいつも山にかかっているんですか?」
「そうですね。霧とは少し違うようですが、常に山を覆うように存在している様です」
「それは、不思議ですね」
ここで、セシルさんがふふと笑いながら少し悪戯っぽい笑顔で俺に小声で囁く。
その姿は妙に色気があって、ドキドキする物だった。
「実は霊刀山には幽霊が出るという話があるんです」
「そうなんですね」
「あら。あまり怖がってくれないんですね」
「まぁ、俺も大人ですから。それに俺は兄ですからね。幽霊に怖がっていては兄になれないかなと」
「ふふ。不思議な理屈ですが、納得してしまう面白さがありますね」
「そうですか? 喜んで貰えると嬉しいですね」
ふふ。と笑うセシルさんと俺は縁側で並びながら山を見据える。
何だかいい雰囲気である!!
「おい! 亮! 何遊んでおるんじゃ!」
「あぁっと、申し訳ないですね。楓ちゃん」
「こっちに来んか! わらわの護衛をするんじゃろ!」
「はいはい。分かってますよ」
俺は縁側の向こう側からプンプン怒った楓ちゃんの声が聞こえ、そちらに視線を向けてから、縁側の下にある下駄を履く。
そして、転移してきた先の家から見える庭にある大きな桜の木へと向かった。
楓ちゃんは木の近くで地団太を踏みながら、俺を呼びよせており、桜の木の近くではモモちゃんとリンちゃんがクスクスと笑っているのだった。
「まったくもう! 亮はわらわの護衛なんじゃろ!」
「分かってますよ。ちゃんと周囲の気配は見てますから」
「そういう事じゃないじゃろ! ちゃんと近くに居て欲しいのじゃ!」
近くにはリリィちゃんが居るし。
問題になる様な事にはならないだろう。
なんて言葉はひとまず飲み込んで、俺は楓ちゃんの近くで背筋を伸ばしながらピッと立った。
その姿を見て楓ちゃんはひとまず安心したのか、桜の木へと顔を向けた。
「コホン。それでな。これが神樹じゃ」
「すごく綺麗な木ですね。それに……見た事のない種類です」
「うーん。植物の専門家でもそうなんじゃなぁ」
「まぁ、でも、そんなに心配しないで下さい。私は植物の専門家ですし。リンは癒しの専門家ですから。何かしら方法を見つけますよ」
「おぉ、頼むぞ!」
モモちゃんと楓ちゃんのやり取りを聞きながら、俺も桜の木……もとい、神樹を見上げる。
上の方を見ると、首が痛くなる様な高さで、かなり立派な木であると同時に、奇妙は程綺麗な木だなと思った。
桜の木に限らないだろうけど、木って、もっと左右に伸びたり、うねったりすると思っていたのだが。
ここにある桜の木はただひたすら真っすぐに伸びて、左右に大きく枝と花を広げているのだ。
日の光とかの影響なんだろうか。
いや、でも神社で見た気はこんな感じだよなと思いつつ、舞い散る桜の花びらを見つめる。
「どうじゃ? 亮。美しいじゃろう?」
「そうですね。神樹と呼ばれているのも納得です」
「そうじゃろう。そうじゃろう」
「しかし、綺麗な花が咲いていますが、これで元気がない状態なんですか?」
「あぁ。数年前、母様たちと見た時は、もっと盛大に咲き誇っておったんじゃ」
「なるほど」
それはどれほど美しい光景だっただろうか。と俺は頭の中で想像して小さく息を吐くのだった。