霊刀山の頂上で、俺たちは楓ちゃんから、魔物についての話をまずは聞く事にした。
というのも、モモちゃんとリンちゃんがまだ完全に回復しておらず、ダウンしている状態だからである。
モモちゃんもリンちゃんも横になりながら、楓ちゃんの話に耳を傾けていた。
「申し訳ございません。姫様」
「良いんじゃ。頼みごとをしているのはこちらじゃからな。そのまま聞いてくれ」
「……ありがとうございます」
「うむ。それでな。例のモンスターについてじゃが、実はそこまで詳しい事は分かっていないんじゃよ」
楓ちゃんは少々困った様な顔で、頬を掻きながら申し訳なさそうに語る。
しかし、霊刀山に居るという事が分かっているのであれば、山狩りをすれば良いだけだし。
そこまで気にする様な事でもないと俺は思う。
「分かっておる事は、霊刀山にいるという事と、聖女様に懐いているという事かの」
「そうなると、どうしましょうか。難しいですね」
「そうなんじゃよ。聖女様に懐いているとはいえ、呼んだら来るわけでもないしの」
「ふむ」
確かに難しい問題だ。
呼び寄せる手段は無く、霊刀山に住んでいるらしいという情報しかない。
霊刀山を隅から隅まで見る事が出来れば、ある程度負担も減らせるんだろうけどな。
「あ」
「んー? どうしたんじゃ? 亮」
「あー、いや。例えばなんですが、霊刀山にいる侍に手伝って貰う事は出来ないんでしょうか?」
「なるほど。それは確かに妙案かもしれませんね。彼らなら山の隅々まで移動出来ますし」
「そう言われると確かにそうじゃが……亮は構わんのか?」
「構わないのか? というのは……?」
「連中はきっと、探すのは構わないが、自分たちと戦えというじゃろう」
「……」
またそれか。
ヤマトでは戦闘が通貨の代わりだったりするのだろうか。
いや、それが一番手っ取り早いのなら、そうするのだけれども。
「まぁ、それで解決するのなら、俺も手伝いますけれど」
「いや。それでは亮の負担が大きすぎる。別の手段の方が良いじゃろ」
「そう言っていただけると嬉しいですが、先ほど見ましたが、霊刀山も中々広いですし。見つかるか微妙ですよ?」
「ううむ。そこが困った所なんじゃ」
楓ちゃんは腕を組みながら悩み、唸っていたが、答えは出ずに傾いていた。
そして、そのまま横にコテンと倒れる。
「うーん」
「楓ちゃん。はしたないですよ」
「うむ、すまない。セシル様」
楓ちゃんはセシルさんに起こしてもらいながら、再びレジャーシートの上に座って唸りながら左右に揺れる。
この調子ではまた倒れてしまいそうだが、今度は倒れる前に何かを思いついたらしく、手を叩いてそうじゃ! と口にした。
「あやつは魔力が好きじゃから。何か魔力を発生する物を用意すれば、来るかもしれん」
「魔力を発生するもの。ですか」
俺は何かあったかな。と山頂まで持って来た荷物の中身を漁り、これか? あれか? と魔力を生み出しそうな物を探す。
しかし、それらしいモノは見つからず、首を振って、残念ながら持ってなかったと皆に告げた。
「駄目ですね。それらしい魔導具は持ってないです。家に帰れば何かしらあると思うのですが、ヤマトへの旅で持ってきてませんでした」
「そうか……ヤマトも、魔力に関する物はあまり無いからのぅ。うーん。魔力魔力」
「そ! そ、それなら……!」
俺と楓ちゃんが悩んでいると、恐る恐るという様な様子で、リリィちゃんが手を上げた。
そして、震える様な声を出しつつアピールをする。
「わ、わた、私は、魔術師ですので、ここで魔術を使えば、その魔物が来るのでは無いでしょうか」
「ふむ?」
「ひとまず試してみますか?」
「そうじゃな。リリィ。頼めるか?」
「はい! お任せ下さい!」
ガチガチに緊張しているが、リリィちゃんは大丈夫だと大きく頷いて、そして魔術を使う為の準備を始めた。
とは言っても、魔術用の杖を両手で持ち、大きく深呼吸してから、魔術杖を天に突き上げるだけではあるが。
そして、おそらくは魔術を使う為の呪文を唱え始めた。
「吹き抜ける風よ。集まれ」
「おぉ、これが魔術か」
「そうですね。風の魔術を使っているのではないでしょうか」
「まぁ、風がどうのと言っておったしな」
「そうですね」
リリィちゃんは、周囲の視線と意識が集まっている事を気にしているのか、少々を頬を染めながら魔術を使い続けた。
そして、一つの魔術を実現させる。
リリィちゃんの使用した魔術は周囲から空気を集めて、圧縮した空気の塊をリリィちゃんが持っている杖の上部に作り出した。
しかし、それ以上何かをする様な事はなく、空気は杖の上で静かに留まっている。
「これはどういう魔術なんじゃ? リリィ」
「こ、これは攻撃用の魔術なのですが、風の力を借りて、空気を圧縮し、相手にぶつける事で攻撃する事の出来る魔術なんです……っ!」
「なるほどのぅ」
「圧縮した空気という事ですが、物理的なダメージを与える様な物という事でしょうか」
「はい! そうですね! ぶつかると、相手は竜巻を受けた様なダメージを受けて、体をねじられながら、吹き飛ばされれる事になり、さらに竜巻なので、貫通力も高まっています」
「よく分からんが、凄い事が分かるのう」
楓ちゃんはリリィちゃんの説明に、面白そうな顔をしながら、魔術の詳細を聞く。
そして、リリィちゃんは楓ちゃんに緊張しながら言葉を返し、ゆっくりと言葉を重ねながら、慎重に魔術を動かして、杖から俺たちの真ん中に下ろしてきた。
「これは、大丈夫なのかな。危険はない?」
「は、はい。大丈夫です。もし仮に私が制御出来なくなっても、魔術が消えるだけですので。特に危険性はないです。あ! でも、触ると危ないので、触らないようにだけ気を付けてください!」
「まぁ、見るからに危なそうじゃからの。触らないようにするぞ」
楓ちゃんは風の魔術を近くで見ながら、楽しそうにワクワクとした顔で笑う。
万が一の事があっても、セシルさんが居るし、大丈夫だとは思うが……。
一応俺も危ない事があったら、すぐに刀を抜ける様にはしていた。
そして、そのままの状態でひとまず止まり、魔物が現れるのを待った。
が、いつまで経っても魔物は現れず、世界は沈黙したままなのであった。
山は静かで、何も動く気配はない。
「……何も、起こりませんね」
「そうですね」
「ううむ。魔術だけでは呼べんか……難しいのぅ」
楓ちゃんは、少しがっかりした様に呟き、リリィちゃんも申し訳ないという様な顔で、肩を落とした。
そして、次の作戦を練ろうと、楓ちゃんが魔術を消したのを確認してから口を開こうとしたが、どこからか何かが暴れている様な音が響き、俺は顔を上げた。
「……何かが、近づいてきていますね」
「そうなのか?」
「はい。音が……おそらくは木々がなぎ倒されている様な音がこちらに向かってきています」
「おぉ! という事は、奴が出たのかもしれんな!?」
「可能性は高いですが、万が一違う場合、被害が出る可能性もある為、俺は迎撃の準備をしますね」
「うむ。では、頼む」
俺は楓ちゃんから許可を貰って、立ち上がって神刀を構えながら、みんなの前に出た。
山頂からは見えないが、崖の向こう側からは何かが高速で近づいてくる気配があった。
音も、激しい破壊音と共に近づいてきている。
何かが、こちらに迫ってきているのだ。
「……来ます!」
そして、崖の向こう側から何かが飛び出して、空に舞い上がり……土煙を巻き上げながら地面に降り立った。
その姿は、確かにセオストで現れた魔物の姿そのもので。
しかし、セオストに出てきた物よりも、遥かに小さな物であった。