一応周りを気にしながら教会兼孤児院の前に立った俺達であったが、教会の中は静まり返っていた。
ここまでにあった歓楽街とは違い、ここはどこか落ち着いている空気がある。
「留守にしてるのかな?」
「んー。そうかもしれない」
「そうか」
ソラちゃんも把握していないんだなと思いながら敷地の中に入ろうとした俺だったが、桜がそれに待ったをかけた。
が、服を掴んで引っ張る桜の手が震えていない事から、そこまでの危機は無いと判断する。
「まぁ、虎穴に入らずんば虎子を得ずって言うしな」
俺は桜とソラちゃんを入り口の外に置いて、教会の中に足を踏み入れた。
瞬間、俺に周囲から視線が集まり、何かが飛んできた。
それはおそらく、魔術という奴で。
桜やソラちゃんではなく、俺に向かって放たれていることから、敷地に足を踏み入れた者への防衛反応的な物だと思われる。
だから俺は、自然な流れで腰に差した刀の鯉口を切り、近づいてくる魔術を全て切り裂くのだった。
「っ、そこか……!」
そして、回転する様に刀で周囲の魔術を切ってから近くにある木に向かって走り、幹を足場にしながら駆け上がる。
目標は木の上に居る事が分かったから……なのだが。
「ひゃっ!?」
「!?」
上から聞こえてきた声は小さな子供の声で。
俺は急いで刀を納めながら落ちてきた小さな影を受け止めて地面に降りた。
そして、俺が地面に降り立った瞬間、周囲にあった木や、俺の真上にある木から多くの子供たちが飛び降りて、俺の傍に駆け寄ってくるのだった。
「エリー!」
「大丈夫か!? エリー!」
「う、うん。だいじょうぶ」
俺はまだ小さな女の子を地面に下ろし、子供達から離れ、遠くで見守っていた桜たちを呼び寄せた。
二人は周囲を警戒しながらもゆっくりと歩いてきて、俺の近くで立ち止まる。
「お兄ちゃん。この子達。悪意はないよ」
「うん。そうみたいだね」
「お兄さんは気づいてたの?」
「あぁ、まぁ、魔術に殺意が無かったならね」
「さつい?」
「そう。水をただぶつけるだけ。風をただぶつけるだけ。それじゃ怪我はしても、俺をどうにかする事は出来ないからな」
「……なるほど」
「だから、まぁ、事情を聞きたいところではあるな、と思っているよ」
俺はひとまず落ち着いたであろう子供たちに近づいて、話を聞くべく口を開いた。
怖くない様にしゃがみ込んで視線を彼らよりも低くすることも忘れない。
「あー。君たち。お兄さんと少し話をしてくれないかな」
「……な、なに」
「お兄さんたちは、ちょっとした用事があってここに来ただけなんだ。だから、魔術が飛んできてビックリしちゃってね。何があったのかな。ってお話を聞きたいんだ」
「あ、あの! あのね! ヴィルお兄ちゃんがね!」
「おい、エリー! 止めろって!」
「でも、このお兄さん悪い人じゃないよ」
エリーちゃんという子が戸惑っている周りの子を説得し、俺に向き直ってから口を開いてくれた。
「あのね。いつもはね。ヴィルお兄ちゃんとアレク君が居てくれるんだけど。今日は、二人ともお出かけしてるから、エリー達が教会を守ってるの」
「そうなんだ。偉いね」
「……うん!」
俺はエリーちゃんに微笑みながら、ふと思考を巡らせる。
ヴィルお兄ちゃん、アレク君。
そして、ソラちゃんがここに来たがっていた事。
それらが全て繋がってから俺は、ソラちゃんに振り返り、一つの確認をした。
「ソラちゃんの目的は、ヴィルヘルムさんとアレクシスさん?」
「……う、うん」
「そうか。あの人たちに会いに来たんだね。という事は二人はここに住んでいるのかな」
「そうみたい」
「なるほどね」
俺はとりあえず状況は理解したと、子供たちの方に向き直り、口を開いた。
「今日は驚かせちゃってごめんね。お兄ちゃんたちは、ヴィルお兄ちゃんとアレク君に会いたくてここに来たんだ。同じ冒険者の仲間だからさ」
「その、タグ……」
「そう。冒険者のタグなんだ。昨日から冒険者になってね」
とりあえず、今日はこれ以上無理だろうと俺は子供達にまた別の日に来る事を告げる事にした。
しかし、そんな俺達の所に教会から一人の女性が走り寄ってくるのだった。
「あら、あらあら、お客様が来ていたの!? みんな」
「シスター!」
「ヴィルお兄ちゃんとアレク君にお客さんだって」
「そうなの!? これはこれは失礼をしまして。今ちょうど二人は出かけてましてね」
「いえいえ。お気になさらないで下さい。また後日に……」
「良いんですよぉ! 二人とも今日は遊びに行っているだけですからね! すぐに呼び戻しますから!」
「あー」
俺は凄い勢いで駆け寄ってきて、話すだけ話して去って行ったシスターさんに何も言えないままただ、見送った。
そして、どうやら呼び出してくれるらしいとソラちゃんに告げ、大きく息を吐いた。
「さて、どうやらこれからヴィルヘルムさんとアレクシスさんが来るみたいだけど、来るまでどうするかな」
「……っ、ね、ねぇ」
「ん? あぁ、エリーちゃん。だったね。どうかしたかな」
「あの、ね。一緒に遊んで欲しい、な」
「遊ぶ? 良いけど。何かしたい事はある?」
「な、なら、おままご……」
「兄ちゃん! さっきの奴やってよ! ぶわーって奴!?」
「さっきの奴? もしかして刀の奴かな」
「そうそう! もう一回見たい!」
「おれも! 俺も見たい!」
ふむ。と考えながら、とりあえずエリーちゃんのおままごとを優先させるか、少年たちのキラキラとした瞳に応えるか考えていた俺は、服を引っ張る桜の気配に振り返った。
「いいよ。お兄ちゃん。私がエリーちゃんと遊んでてあげるから。向こうをお願い」
「良いのか?」
「うん。このくらいはね」
「分かった。ありがとうな」
俺は桜の頭を撫でながら、エリーちゃんに桜やソラちゃんと遊んで貰えるかお願いし、少年たちと戦いごっこをするのだった。
最初の警戒が何だったのか。
少年たちは俺が魔術を刀で弾くたびに歓声を上げ、どうやるのかと問う。
「基本的には剣速だ。風も水も物理現象な訳だから、風圧で消す事が出来るっていう訳だな」
「えっと?」
「あー。要するにだな。ちょっと軽く水をこっちに向けてくれ」
俺は少年たちから借りた木剣を手に、刀を振るうよりも早く鋭く振り抜いた。
瞬間発生した風が水を周囲に吹き飛ばし、俺から遠い場所を濡らす。
「と、まぁ。こんな感じだね」
「おー!」
「すげー! 俺もやってみたい!」
「俺も俺も!」
「はい。やるなら危険が内容に濡れるだけの水にするんだよ」
俺は木剣を渡しながら少年たちに微笑み、子供達から離れようとしたが、背中の向こうから感じた視線に腰に差した刀に左手をかけ、鯉口を切る。
そして、遠くに見えた人影から放たれた何かに対して意識を集中した。
「面白い事してるな! リョウ!!」
その声と共に聞こえてきた銃声は、銃弾から大規模な魔術に変わり俺の元へ飛んできた。
おそらくこのまま無視していても、俺や子供たちが水に濡れるだけだが、桜が濡れるのは気に入らない。
だから、俺は腰の刀を抜き、その大規模魔術を切り裂くのだった。
しかし、俺が想像していた物とは違い、魔術は両断される事はなくそのまま何もなかったかの様に消え去った。
「流石、ヤマトの神刀は凄いな。これを切り裂くとはな」
「え、えぇ。俺もちょっと驚きました」
「あぁ、ヤマトじゃあ魔術をあんまり見ないのか。確かにな」
孤児院に入ってきたアレクシスさんとヴィルヘルムさんは、子供たちに囲まれながら俺に笑いかけた。
「珍しい所であったな。どうした?」
「まぁ、ちょっと用事がありまして」
「ふむ?」
俺は遠くにいた桜とソラちゃんに目線を送りながら頷くのだった。