夜遅くまで百合ちゃんと他愛もない話をして、ゆっくりと布団で朝まで寝てから、俺は体力が万全の状態で目を覚ました。
寝る場所が客間しかないという事で、百合ちゃんも同じ部屋で寝る事になったが、特に何も起こってはいない。
百合ちゃんは妹の様な子なのだ。
今更何かが起きるという様な事は無いだろう。
という訳で、一人朝陽が上がる時間と共に目を覚ました俺は、布団をたたみながら、神刀を持って庭に出た。
どんな時、どんな場所に居ても、鍛錬は欠かさない。
朝、鍛錬をするかしないかで一日の過ごし方も変わってくるし、これは大事な物だ。
「……!」
神刀を抜いて、まずは基本の型を繰り返す。
体に覚えさせれば、イザという時、意識しなくても動く事が出来るからな。
という訳で今日も今日とて、毎日変わらない修練に励むのだった。
そして、意識を集中させながら神刀を振るっていると、部屋の方から何かが動く気配があり、百合ちゃんが起きたかなと俺は部屋の方に向かって歩いた。
縁側から部屋に上がり、百合ちゃんの方へ視線を向けると、既に起床していた様で布団の上に座り込んでいた。
しかし、まだ完全に目を覚ましている訳では無いのか。目をこすりながら、ボーっとしていた。
「百合ちゃん。おはよう」
「あー、おはようございまふー」
「まだ眠いのなら寝てても大丈夫だと思うよ?」
「いえ……ちゃんと起きないと……むにゃ」
いつもの百合ちゃんは、朝でもパッと目を覚ましているイメージだが、久しぶりに実家に戻ってきたからか、安心しきって眠気の方が強いようだ。
まぁ、ずっと気を張っているのも疲れるだろうし。眠い時は眠る方が良いと思うのだけれども。
「ほら。まだ寝てなって」
「あっ! いえ! 起きないと、朝食の準備もありますしー。むにゃ」
起きようとしているが、体はふらついているし、目は閉じたままである。
この状態で動く方がよっぽど心配だ。
俺は百合ちゃんを一度抱き上げると、そのまま布団の上に寝かせた。
「ほら。休める時に休むのが、冒険者の鉄則だろう? 今日まで頑張ってきたんだから、実家にいる時くらいはゆっくりとしなさい」
「でもぉ……おきない、と」
普段は凄く聞き分けが良いのに、今日はやけに強情だな。
と思いながら、俺は百合ちゃんの額を撫でてから立ち上がろうとした。
しかし、百合ちゃんに意識を集中していた事が悪い買ったのか、扉の向こうにいる気配に気づかず、バッと開かれた扉の向こうにいる、百合ちゃんのお母さんと目があってしまう。
「あらー。朝から元気ですこと。お取込み中。失礼」
「ち、違っ! 違いますよ!?」
「良いんですよ。私は気にしませんよ? 百合が幸せなら。ただ、百合もまだ体が小さいですからね。子供はもう少し後の方が良いかなと思いますね」
「だから、そういう事では無くて!」
「ほほほ。お風呂も使えますから、ごゆっくりどうぞー」
言いたいだけ言って、部屋から去って行った百合ちゃんのお母さんに、俺は額に手を当てながらため息を吐いた。
百合ちゃんは、周囲の状況に気づかぬまま幸せそうに笑って、俺の手を握り、嬉しそうに微笑んだ。
その顔を見ていると、まぁ多少の問題くらいは良いかぁと思えるから不思議だ。
やはり妹というのは兄にとって最大の活力であるらしい。
という訳で、誤解されたままという状態であるが、朝の鍛錬で流れた汗を風呂で洗い流し、俺は朝食に呼ばれて居間に向かった。
既に百合ちゃんのお兄さんとお父さんは起きている様で、食事を食べながらチラリと俺に視線を向ける。
「昨日はゆっくり眠れましたか?」
「えぇ。ぐっすりと。とても過ごしやすかったです」
「そうですか。それは良かった」
どこかよそよそしい様子のお父さんに、俺は笑顔を向けながら友好的な言葉を向ける。
争いたいワケではない。
どちらかと言えば親交を深めたいのだ。
「そういえば、亮殿」
「なんでしょうか?」
「朝、鍛錬をされておりましたな。後で、仕事を終えてから私ともどうですか?」
「良いですね。やりましょうか」
お父さんの方はかなり溝を感じるが、お兄さんの方は今のところかなり友好的である。
やはり決闘をしたのが良かったのだろうか。
あんまりそういう友情の深め方は好きじゃないんだが、結果として良い関係を築けるのなら、手段はそこまで問う必要はないだろう。
という訳で、お兄さんと、時折お父さんと会話をしながら、俺は朝食を楽しんで。
食事が終わり、食後のお茶を飲んでいる時に、百合ちゃんがドタバタと居間に駆け込んできた。
「お、おはようございます!」
「おはよう。百合ちゃん」
「あれ? お父さんやお兄ちゃんは」
「もう食事を終えて、仕事に行ったみたいだね」
「あ、あぁ……寝坊してしまいました。不覚です」
百合ちゃんはガッカリしながら、台所へと向かい、食事を持ってきて、俺の隣に座った。
広い部屋なのだから、どこに座っても良いと思うのだが、隣に座ると妙な感じだ。
いや、別に嫌という事では無いのだが。
「そういえば、百合ちゃん」
「はい。何でしょうか」
「百合ちゃんもしばらくは実家でノンビリしていると思うんだけど、俺はちょっと出かけてこようかと思って」
「どこか、ご用事ですか?」
「あー、うん。ほら。食事をいただいているし、部屋も風呂も借りてるしね。何か返そうかなって思って魔物でも狩ってこようかなって思ってたんだ」
「そういう事なら、私も一緒に行きますよ」
「別に百合ちゃんは家でゆっくりしてても良いんだよ? 俺が百合ちゃんの分も取ってくるし」
「いえ。ご迷惑をかけ続けるというのは申し訳ないですし、それに……」
「それに?」
「霞……、えと、私の神刀と、もうちょっと仲良くしようかと思いまして」
神刀と仲良くするという言葉に、俺は疑問符を返すが、百合ちゃんはゆっくりとその言葉の意味を語ってくれた。
「私、どこか霞の事を苦手に思っていたんです。あの子は悪くないのに、あの子と繋がってから家族と微妙な関係になってしまったので」
「あぁ……」
「なので、もう少し仲良くなろうと思いました」
「そっか。ならついでに俺も神刀と仲良くなって、名前でも聞こうかな」
俺は百合ちゃんに微笑みながら、そんな事を言って。
百合ちゃんが朝食を食べ終えて、少ししてから一緒に魔物が出る場所へ向かう準備をする。
「あら? 二人でお出かけ? デートかしら」
「いえ。魔物を狩ってこようかと思いまして」
「魔物? もしかして食事足りなかった?」
「そういう訳では無いのですが、食事をいただいてますからね。少しでも恩返しをと思いまして」
「あらー悪いわねー。こういう所で気が利くなんて、素敵な婿様だわ」
「……客人として、当然の事ですよ」
「まぁそうね。今はまだ、ね」
何とも反応しにくい事を言うな、と思いながらも俺は笑顔でその言葉を流し、百合ちゃんと一緒に出かける事にした。
百合ちゃんは最初から神刀を持っており、魔術杖は特に使うつもりは無いらしい。
まぁ、神刀と仲良くなりたいと言っていたし。その一環かな。
「では、魔物が居る場所まで向かいましょう」
「うん」
「町からは少し離れていますが、フソウに行くよりは近いので、行って、狩って、帰ってきても今日中に終わると思います」
「それは良かった。お兄さんと修練の約束があったし。帰ってきてからやれば良いかな」
「そうですね。あ、でも、修練をやるのなら、早い方が良いですし。少し急ぎ目で行きましょうか!」
「了解だよ」
百合ちゃんは歩きから、速足で軽く走る様な状態になり、俺も百合ちゃんと共に軽く走りながら、目的の魔物が出る場所まで急ぐのだった。