百合ちゃんの家で食事をご馳走になり、風呂や部屋も貸してもらった為、俺は恩返しに魔物を狩って食料を贈る事にした。
そして、百合ちゃんに魔物が出現する場所まで案内して貰ったのだが。
現れた魔物は俺の想定を遥かに上回る存在であった。
「これが、ヤマトの魔物か……! なんたって、こんな事になってるんだ?」
「はい。ヤマトは多くの人が神刀を持つ侍なので、冒険者が適宜狩ったりはしないのです」
「それで、自由に生きてる間にこんな大きさになったって事か」
「そうですね。このくらいの大きさならヤマトでは平均くらいです」
百合ちゃんの言葉に、俺は俺を縦に3人合わせた様な大きさの魔物を見上げる。
魔物なのだから、当然と言えば当然の話であるが、凶暴そうな顔をしており、グルルと喉を鳴らしながら俺たちを見据えていた。
「こんな見た目だけど、実は大人しい。みたいな話は」
「無いですね」
「まぁ、だろうね!!」
俺は神刀を抜き、後方に跳びながら神刀を構えた。
そして、百合ちゃんも魔物と自分の間に距離を作りながら、神刀を構える。
お互いに臨戦状態のまま、犬か……キツネ。
いや、オオカミの魔物に刃を向ける。
「さて。じゃあお前には悪いが、狩らせて貰うぞ」
俺は地面を強く蹴りながら魔物へと飛び込んで、刃を振るう。
魔物は巨大な腕を振り上げて俺を叩き落とそうとしたが、その腕に刃を振り下ろす事で、逆に腕を切り落とした。
正直な所、サイズとしては規格外であるが、強さはそれほどではない。
俺が片腕を落とす間に百合ちゃんも魔物に接敵して、目を斬り、そのままオオカミの魔物の体を飛び越えて首へと刃を落としていた。
「うーん。これで終わりかぁ」
「どうしました? 何か、不満が?」
「いや、不満は無いんだけど。ほら、ヤマトの人たちってみんな強いでしょ? それなのに、魔物は思っていたよりも弱いんだなって思ってさ」
「それは……やっぱりさっきも言った様に、魔物狩りが盛んでは無いからだと思います」
百合ちゃんは神刀を振るい、血を落とすと、布で刃を拭って鞘に納めた。
俺も同じ様にしながら神刀を納刀し、百合ちゃんと共に解体作業を始めながら言葉を交わす。
「魔物狩りが盛んじゃないっていうのは、何となく理解したんだけど。それで魔物が弱いのはどういう事なんだろう? セオストは魔物狩りが盛んだけど、別に魔物が生きて帰れる訳じゃないから、戦闘経験を詰んでいる訳じゃないでしょ?」
「それは確かにそうなんですけど。セオストでは、小さな魔物が積極的に狩られてますよね?」
「……まぁ、そうだね」
「そうなると、小さな魔物を餌にしていた大きな魔物が食料を得られず、大きな魔物同士での争いが始まると思うんです」
「あー。なるほど。人間の冒険者との争いは無いけれど。魔物同士での争いがあるのか」
「はい。その点、ヤマトは魔物狩りもあまり行われない関係上、狙うのは大きな魔物が主となりますので、小さな魔物は変わらず大きな魔物の餌になっている様な状況なのでは無いかと」
「ふむ」
「あっ! いや! 勿論、私の勝手な思い込みという話もあるんですけど!!」
「そんなに焦らなくても大丈夫だよ。俺としては結構分かるなぁ。って話だったし」
「そ、そうですか?」
百合ちゃんは焦った様な顔をしながら、自分の話した言葉を一生懸命否定する。
しかし、俺は百合ちゃんの言葉をやわらかく否定して、その言葉は正しいよ。と頷いた。
やはり、というか。
百合ちゃんの自己肯定感の低さは実家に戻ってからも特に変わっていないようだ。
無論、いきなり桜やジーナちゃんの様に自信満々になる必要は無いだろうとは思うけれど。
それなりに、自分の意見も正しい物として話す事が出来ればそれが一番だとは思う。
「しかし、魔物の生態か。ちょっと興味が出て来たね」
「たまに研究している人もいるみたいですね」
「そうなんだ」
「はい。彼らの事が分かれば、生活も安定しますから」
「確かにね……。セオストも現状で正解を出している訳じゃないだろうし。魔物被害を考えればより良い方向の対策が見つかれば良いなと思うよ」
「そうですね。何が正解か。分かれば生活も安定しますもんね」
ゆったりと微笑む百合ちゃんを見ながら、俺はふと良い笑顔になったな。と思った。
こんな事を言うと、また百合ちゃんのご家族に何を言われるか分かったものじゃないし。
心の中だけで留めておこうと思うワケだ。
「うん。じゃあ解体も出来たし。持って帰ろうか」
「そうですね!」
「あー、そういえば、ヤマトは骨とか内臓はどうするの?」
「えー、っとですね」
「うん」
「実は、なんですけど」
「うんうん」
「その辺りに放置しますね」
「何となくそんな気はしたよ」
俺は少なくない時間、ヤマトの民と触れてきた事を思い出しながら、あまりにも予想出来た答えに頷いた。
いや、しかし、それがある意味でヤマトの民らしいというか。
「あー、いや、でもそれが正しい所もあるのか。ヤマトでは」
「えと、どういう事でしょうか?」
「いや、ほら。ヤマトはさ。小さな魔物が元気に生きているじゃない? それは俺達冒険者みたいな人が居ないからっていうのも理由にあるんだろうけどさ。同じくらいに食料がいっぱいあるっていうのもあるんじゃないかって思って」
「あぁ、ヤマトの人たちが放置している内臓や骨を食べて小さな魔物が繁殖しているという事ですね?」
「そういう事。だからさ。俺もそれに倣って、ここに放置していくとしようか」
「はい。それが良いと思います」
という訳で、俺は残された魔物の体の一部に手を合わせ、その場を後にした。
ちょっと気になるし、明日また来てみても良いかもしれない。
経過観察では無いけれど、魔物の生態が少し分かるかもしれないしな。
「じゃあ、帰ろうか」
「そうですね」
「今から走って行けば、夜までには帰る事が出来るかな」
「多分余裕があると思います。荷物が増えたとは言っても、それほどの量ではありませんし」
百合ちゃんはかなり膨らんだリュックを見ながらそんな事を言うが、うーん。どうしたものかなぁ。
正直な所、百合ちゃんは自分と同じくらいの量を背負っている訳だけど。
それは普通の子が持てる量では無いんだよ。
特に戦闘を終えて、解体作業をした直後に持つのはかなり大変なんだ。
だから、百合ちゃんの行動や発言は自分の百合ちゃんのランクから考えると結構異常なんだけど。
どうかな。
これは伝えた方が良いんだろうか。
この辺りは百合ちゃんがあまり意識していない辺りなワケなんだけど。
教えた方が良いんだろうか?
難しい所だな。
……。
いや、あまり踏み込み過ぎるのも良くないか。
この辺りはゆっくりと考えていけば良いかと俺は考えて、百合ちゃんへの言葉を飲み込んだ。
そして、百合ちゃんと共に百合ちゃんの家まで走って帰宅し、大量の肉を百合ちゃんのお母さんに渡してから、百合ちゃんのお兄さんと鍛錬をし。
百合ちゃんのお父さんが一人で遊んでいた将棋の様なゲームを一緒に遊ぶのだった。
なるべくね。
百合ちゃんのご一家への好感度は高くしておきたいからね。
出来る事は何でもやっていこうと思う。
「ふむ。なかなか筋が良いな」
「私も以前、似たような物で遊んだことがありますからね」
「そうか。経験者か。なら、また付き合ってくれるか?」
「えぇ。勿論ですとも」
「ではまた、明日お相手をお願いしようか」
「はい」
そして、順調に百合ちゃんのお父さんとも友好を深めて、今日の頑張りを胸に抱きながら俺は夜に部屋の布団で目を閉じた。
横には百合ちゃんが当たり前の様に寝ている。
……。
本当にこれで良いのか?