百合ちゃんと魔物についての研究を始めようと決めた日の翌日。
俺たちは魔物狩りではなく、魔物調査をするという事で出かける事を百合ちゃんの家族に告げた。
「魔物の調査?」
「はい。少し興味がありまして。朝から夜まで観察して来ようと思います」
「それは、構わないが……百合も一緒に行くのかね」
「うん。私も興味があるから」
「……そうか」
どこか寂しそうな顔で呟く百合ちゃんのお父さんに、俺は百合ちゃんだけでも残って貰おうかと百合ちゃんに話そうかとしたが、百合ちゃんのお母さんが介入してきた事で口を噤む。
「何落ち込んでるのよ。百合が興味あってやってみたいって言ってるんだから、応援してあげなさいな」
「いや、分かっている。だが、まぁ、そんなに毎日行かなくても良いんじゃないかって思ってな」
「駄目だよ。お父さん。変化は毎日起こってるんだから。それに夜になったら帰ってくるから」
「……うむ」
「いやだよ。この人ったら。百合が帰ってきて嬉しいのは分かるけど。百合には百合の人生。やりたい事があるんだからね。そえに、その内百合だってお嫁に行っちまうんだよ?」
「嫁! 嫁!?」
「ま、まだ行かないよ。もうちょっとゆっくりしたら、セオストには帰るかもだけど」
「まだ百合に結婚は早い!」
「いつかの話だよ。いつか」
「亮殿! 百合の事を、どうか頼みますぞ! 百合はまだ子供ですからな! 子供!」
「わ、分かってますよ」
俺は両肩を掴まれて、叫ばれながらも、何とか頷いた。
そして、朝食を食べ終わってから、昨日と同じ様に、魔物狩りをした場所へと向かう。
まずは最初に大型の魔物を仕留めた場所だ。
草むらから隠れて様子を伺ってみることにする。
「今日も……来てるね」
「そうですね。昨日より数も増えている気がします」
「確かにね……」
俺は百合ちゃんの言葉を受けて、ざっと昨日の記憶を思い出しながら魔物の骨や内臓に群がる小さな魔物を見据えた。
確かに、言われた通り、増えている様な感覚がある。
「んー。これは」
「何か新しい発見ですか?」
「いや、新しいというか。ある意味で当然というか。逆に安心したというか」
「……?」
「今日現れた魔物たちは、餌を探してここに来たと思うんだけど。魔力を探知する理論が正しいとしても、歩き回っている内に、餌を探知してここに来た。という可能性と、偶然通り掛かって餌を食べているというのと、同じくらい可能性は変わらないんじゃないかなって思ってさ」
「まぁ、ぶっちゃけて言うのなら、何も分からないという事が分かったという話かな」
なんて、俺は笑いながら、語る。
百合ちゃんも俺の話を十全に理解して、これが冗談の様な話なのだと悟り、笑ってくれた。
「まぁ、所詮俺たちは素人だからね。分からないなりに調べていこう。という所だね」
「そうですね!」
百合ちゃんと軽く言葉を交わしてから、俺たちは最初の狩場を離れ、次の狩場へと向かった。
しかし。
何と言うべきだろうか。
「ここも……状況としては同じかな。珍しい。というか、前の場所と違う点は、群がっている小さな魔物の数が向こうよりも多いって事くらいかな」
「そうですね。それに種類も少し違うみたいですね」
「うん?」
百合ちゃんに言われて、群れている魔物を見てみれば。
確かに種類が違う。
向こうに居たのは、ウサギとかへびとかだったが、こっちに居るのは鳥が多い。
翼の生えている奴ばっかりだ。
「魔物の種類が違う? なんでだ? この辺りには鳥が多いとか?」
「そういう事も無いとは思いますが……あそこに居る魔物以外は鳥を見ませんし」
「確かにね。となると、この辺りに住んでいるという訳ではなく、魔物の餌があるから、近寄ってきたという様な感じなのだろうか」
「鳥は遠くまで飛べますもんね」
「そうだね……いや、そうか。鳥か」
「どうしました?」
俺はふと思いついた事を口にしながら、鳥をジッと観察する。
鳥たちはどれも地面を走るイエローチキンとは違い、空を飛ぶタイプの魔物だ。
つまり、彼らは空を飛んできたという事になる。
「もしかして、彼らは空を飛びながら獲物を探しているんじゃないだろうか」
「確かに。その可能性は高い気がしますね。でもそうなると目で見て探しているという様な事なのでしょうか?」
「いや、流石に上空から目で探すのは無理があるから、多分、魔力を探知しているんだと思うんだよね。偶然というのも考えにくいし」
「あぁ、そうですね。確かに。地面を走っていて、偶然餌を見つける。という事はあっても、空を飛んでると、降りてこないといけないですもんね」
「そういう事。だから、多分魔力探知器官があると思うんだけど……もうちょっと色々調べてみたいね」
「そうですね!」
しかし、それはそれとして、ひとまず大きな情報だと俺は頷いた。
これで、昨日俺が言った偶然説は弱くなって、魔力を探知できる説が強くなった。
なら、これを実証する為にも、色々と実験をしていけばいいという事になる。
まぁ、何をやれば良いかは分からない訳だけれども。
やっぱり、何かペットでも飼った方が話は早いのかなぁ。
しかし、魔物によって探知器官がある、ない。強い、弱いの問題はあるだろうし。難しいな。
「でも……不思議ですね」
「何が?」
「向こうの魔物には鳥が一匹も居なかったじゃないですか」
「……確かに」
「昨日の魔物と二日前の魔物の距離はそこまで離れていないですし。向こうの魔物を鳥が見つけられなかったという事は無いと思うんですよね」
「それはそうだろうね。探すなら広範囲で探すだろうし」
「という事は、何かしらこっちの魔物にしか来なかった理由があるんじゃないかって思うんです」
「……ふむ」
言われて初めて気づいたが、確かにそうだ。
鳥の活動範囲から考えれば、ある意味で当然の話である。
まぁ、そういう話をすると、こっちにはウサギやらへびやらが居ないし。
魔物の縄張り的な話がちょうど合いそうな気もするけれど。
しかし、小さな魔物が縄張りを作る理由は何だろうか。
天敵がいるとか……?
いや、でもな……。
「もしかして、鳥の魔物は、蛇やウサギの魔物に食べられてしまう、とか?」
「うーん。そうだね。あり得る話としてはそれだろうけど。それなら、こっちにウサギやへびが居ないのは不思議じゃない?」
「確かに。それはそうですね。餌は実質こっちの方が多くなるワケですし」
「そう。そこなんだよ。へびとかにすれば、活動範囲を広げれば、広げる程餌は増えていくんだからさ。ここに居ないのはおかしいんだ……いや、おかしいって言う程でもないのか?」
「うーん。何かがあるというのは分かる気がします」
「そうだね。ここの場所だけがおかしいのか。もしくはそれぞれの魔物がそれぞれの場所に入れない理由があるのか」
「調査が必要! ですね?」
「うん。そういう事だね。とにかく調べてみない事には分からないな。これは」
「はい! では、続けて調べてみましょうか!」
「そうだね。じゃあ、どうするか……」
「むー」
「うーん。今度はウサギたちがいた場所の向こう側に行ってみる? ウサギを中心にして、ここのちょうど反対側とか」
「良いと思います!」
「よし。じゃあ行ってみようか」
俺は百合ちゃんの返答を聞いて、ここまで来た時の様に勢いよく反対側へ向けて走り始めた。
百合ちゃんも、俺と同じ速度で付いてきてくれる為、かなりの速さで目的地に着くだろうと思う。
まぁ、でも、目的地に着いたら、まずは食事かな。
そろそろ昼も近いし。
ちゃんとご飯も食べないとね。