異界冒険譚   作:とーふ@毎日なんか書いてる

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第226話『百合ちゃんとの生活(日々)9』

 釣り。

 釣りである。

 

 俺も昔は山の近くで生活していた為、何度か兄さんと共に近くの川に釣りに行ったものだ。

 兄さんは本当に何でも出来る人だったから、当然の様に釣りも上手くて。

 俺は兄さんに色々と聞きながら釣りをして楽しんだなぁーと昔を思い出しながらシミジミと流れてゆく川を見るのだった。

 

「うーん。餌はこんな感じで良いのでしょうか?」

「うん。良い感じだと思うよ」

「なるほど。ではコレをコネコネして、針の先に付けて」

「後はていっと、川に向かって餌とウキを投げる感じ。こう、竿を使って……こんな感じ」

 

 俺は釣竿を上手く動かして、餌の付いた針を遠くの川に飛ばした。

 そして、百合ちゃんに腕の動かし方と、遠投のやり方を教えるのだった。

 

「てい!」

「おー! うまいうまい」

「えへへ。そうですか?」

 

 百合ちゃんは釣竿をしっかりと握ったままニコニコと笑う。

 なんだか普段よりも楽しそうだなと思いながら、俺は続きの説明をするのだった。

 

「後は、あの浮いているウキは分かる?」

「はい。よく見えます」

「あれが沈んだら、魚が餌に食いついた合図……だったりするから、そこで引き上げたら魚が釣れるんだ」

「だったりする? というのは」

「いやぁ、川の流れが激しいと……ほら、俺の釣竿の先にあるウキは沈んだり、浮いたりしてるでしょ? 分からないんだよ」

「なるほど」

「後は魚の方が頭が良くて、針に当たらない様に餌だけ食べてるという場合もある」

「むむ。かなり難易度が高いんですね」

「そうだね。だからまぁ、釣れた釣れないはそこまで気にしないで、気楽にやろう」

「はい!」

 

 それから。

 俺は家から持ってきたクッションを百合ちゃんに手渡し、俺もクッションを石の上において座った。

 前の世界では小さな椅子に座っていたが、まぁ、石の上に座るというのも滅多に無い経験だし、良いだろうと思う。

 

 クッションを通しても、何となく石が暖かいのを感じるし。

 体が何となく温まるのを感じて心地よさもあった。

 

「あー」

「……? 亮さん? どうしました?」

「いや、何でもないよ」

 

 俺は釣竿を握ったままゴロンと仰向けになって転がった。

 心地よい空気だ。

 のんびりと釣りをして、何も焦る事なく、空を流れる雲を見つめる。

 

 こんなにゆっくりとしていて良いのだろうか。

 という様な気持ちにもなるが、ポケットに入っている通信機は何も反応を示していないし。

 俺たちの昼飯も既に用意はしてある。

 

 ただ、意味もなく釣りをしているのだ。俺たちは。

 

 そう考えると、このまま風の様な水の様な。

 ただ、そこにある物を楽しみたいという様な気持ちになるのだった。

 

「……はー」

「亮さん?」

「あぁ。ごめん、ごめん。俺は大丈夫だよ。ただ、何もしない。をやっているだけだからさ」

「えと……? 何もしないを、やっている?」

「そう。何となく寝転がってさ。流れていく雲を見て、ボーっと過ごす。そんな時間が楽しいんだ」

「なるほど」

「百合ちゃんも、どう?」

 

 俺は寝転んだまま、少し遠くから聞こえる百合ちゃんの声に、言葉を投げた。

 百合ちゃんは、なんだか戸惑っている様な空気だった為、俺はムクリと上半身を持ち上げて、百合ちゃんの方を見ながら再度話しかけた。

 

「まぁ、誰に見られている訳でも無いし。気になるならやってみよう!」

「そ、そうですか? でも、はしたないですよ?」

「まぁまぁ。誰も見てないからさ」

「亮さんが見ているじゃないですか!」

「あー。確かに。じゃあ、ゴローン」

 

 俺はわざわざ寝るというアピールをしながら横になった。

 仰向けで寝ながら空に流れる雲を眺める。

 いい天気だ。

 

「あ! もう……」

 

 百合ちゃんは俺の行動に文句を言いながらも、横になった様だった。

 まぁ、気配でしか分からないし。本当にやっているかは分からない。

 

 見られたくないと言っていたし。見ない様にする。

 

「……」

「どう?」

「えと……これは釣りなんでしょうか?」

「まぁ、釣りではないね」

「ですよね?」

「でも、釣りであるともいえる」

「……? どういう事ですか?」

「食料を求めている訳じゃないから、釣りという行為を全力で楽しんでいる状態という事かな」

 

 我ながら意味の分からない事を言っている様な気がするが、百合ちゃんは特に気にした様子を見せず、なるほどと小さく呟いているのだった。

 まぁ、言葉ではなく想いが伝わったという奴かもしれん。

 

 と、そんなこんなでゴロゴロとしていた俺であるが、不意に釣竿が激しく引っ張られるのを感じて、飛び起きた。

 

「来た!」

「っ!? な、なんですか!?」

「魚がかかった! このまま釣り上げるよ!」

 

 俺は強く釣竿を起こして、餌に食いついた魚と格闘する。

 かなりの大物が掛かった様で、引く力は相当に強いが、こっちも負けてはいない。

 

 釣竿を掴みながら、勢いよく引き、魚を釣り上げようと力を入れ続けた。

 が、どれだけ引っ張ろうと、魚は水面に現れる事はない。

 

 水底に引っかかってしまったのかとも思ったが、ぐいぐいと引っ張られている所から、何かが糸の先に居る事は確かだった。

 

「ぐ、ぐぐ」

「りょ、亮さん! 糸が切れちゃいますよ!」

「くっ! 確かに! こうなったら!」

 

 俺は一瞬だけ力を抜いて、魚を自由に泳がせた。

 そして、すぐに脱力していた力を全て戻し、一瞬の力で魚を釣り上げるのだった。

 

 俺が大きく振り上げた釣竿の先、キラキラと輝く糸の先には一匹の魚が空に舞い上げられていた。

 魚は陽の光に照らされて、キラキラと輝きを放っている。

 全てが輝いていた。

 

 が。

 

「おっと……」

 

 両腕で、魚を受け止めてみると、その魚は思っていたよりもずっと小さかった。

 両手で抱える必要などまったくないという様なサイズ感である。

 

 いや、それでも持っていればそれなりに重量は感じるし、手ごたえも確かにあった。

 しかし、見た目はそこまで大きくない魚である。

 

 なんというか、ガッカリなサイズであった。

 

「うーん」

「すごい! 本当に釣れましたね! って、どうしたんですか? 亮さん」

「いや、なんか凄い盛り上がりながら釣り上げたけど……思っていたよりも小さかったなと思ってさ」

「あー、まぁ、そう言われると確かに小さめな気もしますが……良いんじゃないですか? この子だって立派な魚ですよ!」

 

 まぁ、そうね。

 分かる。

 言いたいことはよく分かる。

 だが、しかし。

 

 昔、兄さんが釣り上げた魚はもっと大きかったし。

 漁港に行った時に見た魚はさらに大きかった。

 

 もっと大きなサイズの魚は居るのだ。

 特にこっちの世界は前の世界よりも大きな生き物が沢山いるのだから。

 魚だってもっと大きな魚が居る筈なのだ。

 

 という訳で俺は釣り上げた魚を借りてきたバケツの中に入れ、次なる獲物を探して針に餌をつけた。

 そして、川に再び放るのだった。

 

「……今度は、さっき以上の大物を手に入れるよ」

「おぉー。気合が入ってますね」

「まぁね! 今度こそ本当の釣りって奴を見せてあげるよ!」

 

 それから。

 俺は釣竿を足で器用に挟んで石の上に寝転んだ。

 空にはプカプカと雲が流れており、どことなく気楽な空気が流れている。

 

「あー」

「……? えー!? あれー!? 亮さん!?」

「どうしたんだい? 百合ちゃん」

「え!? いや、さっき、凄い気合入れて! 大物を釣るぞ! ってやってたのに!? 寝てて、えぇー!?」

「まぁ、それはそれ。コレはコレって奴だね。ハハハ」

 

 俺は軽く笑いながら、穏やかな空気の中で目を閉じるのだった。

 今日も世界は平和である。

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