異界冒険譚   作:とーふ@毎日なんか書いてる

228 / 436
第228話『百合ちゃんとの生活(日々)11』

 何事にも限度という物がある。と俺は思う。

 いや、今まで色々と抑圧されてきた子が、不意に何でも出来ると言われて、何でもをやってみようとするのは良い事だと思う。

 挑戦してみるのが一番だと俺も思う。

 

 しかし。

 しかしだ。

 物事には何事も限度があるだろう。

 

「駄目だよ。こんな所で、服を脱いだりしたら、はしたないだろう?」

「でも、誰も居ないんですよね?」

「俺が居るでしょ。俺が」

「でも、私が居るって言っても、亮さんゴロゴロしてましたし。同じなのかなと思ってました」

「それを言われると、反論が難しいけどさ。でも、俺がゴロゴロ寝てるのと、百合ちゃんが服脱いで川で遊ぶのは、影響が違うでしょ。影響が」

「影響、ですか?」

「そう。影響だよ」

 

 俺はうんうんと頷きながら、不満そうな百合ちゃんに一つずつ語った。

 いや、まぁ。本当にどの口が語ってんだ。って感じかもしれないが、言わなければいけない事はある。

 

「百合ちゃんが川で泳いでて変な奴に襲われたらどうするの? 水着ならまだしも、持ってきてないんじゃ、服を着たままになるけど。それじゃ乾かす時に肌着を脱がなきゃいけないでしょ」

「でも、ここには亮さんしか居ませんし」

「俺に襲われたらどうするの。危険でしょ?」

「もし、襲うつもりがある人なら、こんな事言わないと思いますが……」

「分からないでしょ! こういう事を言って、味方のフリをしているだけかもしれないでしょ!」

「……むー」

 

 世の中というのは怖いのだ。

 その辺りの事が百合ちゃんも、桜もよく分かっていない様な気がする。

 

 まぁ、ココちゃんも分かっては居ないだろうが、ココちゃんは基本的に家の中に居るから現状はまだ大丈夫だろう。

 しかし、百合ちゃんも桜も外へ出るのだ。

 危険があるという事は知っている必要があると俺は考えて居た。

 そう。男は危険なのだ。

 

「でも、亮さんが襲うつもりなら、セオストに居る時に、もう襲われているんじゃないですか?」

「油断させる為に、何もしなかったという可能性があります」

「むー。じゃあ! どうすれば安全って判断出来るんですか!?」

「それは勿論。相手と恋人同士になるとか。家族になるとか。そうなってからでよろしい。無暗に肌を見せるものじゃない」

「……じゃあ、亮さんは問題ないですね! 亮さんは私のお兄さんみたいな人ですし!」

「みたいな! だから駄目なんだって! みたいじゃ駄目なの! 本当のお兄さんなら良いけど!」

「ではお聞きしますけど」

「うん?」

 

 百合ちゃんはジトっとした目で俺を見ながら言葉を続ける。

 最近、百合ちゃんと仲良くなってきたからか。こういう顔も見せてくれて嬉しく思うが。

 それはそれとして、今、この瞬間に出されると困った物でもあった。

 

「亮さんの中で、お兄さんとお兄さんみたいな人の違いって何ですか?」

「何って、そりゃあ……血の繋がりとか? いや、まぁ養子とかもあるから、明確な家族としての繋がりじゃない。みたいな感じだと思うけど」

「そうですよね?」

「う、うん」

 

 百合ちゃんは言葉をしっかりと捕まえたぞ。という様な顔をになると、両手を腰に当ててハッキリとした言葉で俺に言い放つ。

 

「では、例え私の裸を見たとしても問題はないワケです」

「いや、問題はあるでしょ?」

「ありません! 何故なら、亮さんはお兄ちゃんと同じなんですよね? 違うのは血の繋がりだけ。そういう事なら、私の何を見ても問題は起きない訳です」

「そんなバカな……」

「でもおかしな理屈ではありません! お兄ちゃんは私に酷い事をしませんし。亮さんも私に酷い事はしません!」

 

 どうだ!

 とでもいう様に、百合ちゃんは自信満々に言い放ったが、俺としては何とも心中複雑である。

 しかし、こういう話の流れになった以上、あんまり押さえつけるのも良くないのかもしれないと思い、一応一つだけ確認をして、俺は大人しく引き下がる事にした。

 

「……ちなみにだけど、百合ちゃんは恥ずかしいみたいな気持ちはないの?」

「うーん。あんまりないですね。何度も桜ちゃん達とお風呂に入りましたし。今更特に恥ずかしがる事はないかなと」

「いや、あるでしょ? 同性異性は違うよ」

「でも、亮さんはお兄さんじゃないですか」

「……まぁね」

 

 それを言われるともはや俺は何も言えん。

 兄が妹に手を出す事は絶対にない。

 そういう想いの柱が俺の中心にある以上、兄を警戒しろとも言いにくいのだ。

 

 いや、言っても良いのだけれど。多分百合ちゃんは納得しない。

 それだけはよく分かった。

 

 という訳で、俺は百合ちゃんが遊ぶであろう場所から少し離れた場所に釣り場所を移動し、小さくため息を吐いた。

 

 やや離れた所では百合ちゃんが一枚ずつ丁寧に服を脱ぎながら石の上に畳んで置いていた。

 良いのだろうか。

 いや、良くないだろう。

 

 俺の中に居る俺と俺の言い争いはどこまでも、良くないという方に傾いていたが、あんまり百合ちゃんの気持ちを否定するのも良くない。

 それに、だ。

 何だかんだと引っ込み思案だった百合ちゃんが遊びに対して前向きに挑んでいるのだ。

 それを肯定せずに、何が兄か。とも思う訳だ。

 

 という訳で、俺はこの川の近くに近づく気配を調べながら、百合ちゃんの冒険を見ない様に見守る事にするのだった。

 

「亮さん!」

「……どうしたの?」

「亮さんも一緒に遊びませんか? って誘いに来ました!」

「いや、俺は良いかな。釣りを今は楽しみたいからね」

「あー。それは残念です」

「そうだね」

「ところで……なんでそっち向いてるんですか?」

「そりゃ、俺が見ないという事でさっきは納得したからね。何も見ないよ」

「……むー。もし、魔物が襲ってきたらどうするんですか?」

「そりゃ戦うよ。俺は目を瞑っていても気配だけで戦えるからね」

「……」

「ね」

「てりゃ」

「甘い!」

 

 俺は頭に向かって下ろしてきた百合ちゃんの手刀を手で受け止める。

 無論目は閉じたままだ。

 

 まぁ、この程度容易い事だ。

 

「むー」

「ハハハ。俺に隙は無いよ」

 

 目を閉じたままでも、気配を感じればこの程度は容易い。

 伊達に、長年目を閉じたまま桜を風呂に入れてはいないのだ。

 

 という訳で俺はコソコソと後ろに回り込んでいる百合ちゃんの気配を頭の中で捕まえたままフッと笑った。

 目を閉じているのだから、背後に回ろうと関係はない。

 浅はかな事だ……。

 

 襲ってきた瞬間に、また受け止めてみせよう。

 

「む……なんという張りつめた空気」

「常在戦場。俺が気を抜く事はないよ」

「でも目は閉じてるじゃないですか」

「目を閉じていても気配を探れば分かる事も多い。例えば、今、百合ちゃんが俺の背後に回り込んでいる事もね」

「……! で、では!」

「うん?」

「私の体も全て見えているという事ですか……?」

 

 よわよわしい声で問いかけてきた百合ちゃんの言葉に、俺は顔をバッと上に上げて叫んだ。

 無論、目は開けて居ないが、気持ちは半分くらい焦って走り出していた。

 

「いや、そういう事は見えていない!」

「はい。隙だらけですよー」

 

 ハッとなった時には既に遅く百合ちゃんは俺の背中に抱き着いていた。

 そして、耳元で甘えた声を出している。

 

「兄さーん。一緒に遊びましょうよー」

「駄目です」

「でも、今、隙だらけでしたよね? 私、勝ちましたよ?」

「今の隙を反省して、もう隙を出さない事に決めたから大丈夫だよ」

「もう! 妹が心配じゃないんですか?」

「何か起きてもすぐに対応できるから、心配は要らないって思ってるんだよ」

「あぁ言えばこう言う!」

「それが兄という物だよ。ハハハ」

「なら、こっちも手段は選びませんよ!」

 

 恐ろしいセリフを聞きながら、それでも俺は地蔵の様に石の上から動かぬ覚悟を決めた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。