異界冒険譚   作:とーふ@毎日なんか書いてる

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第231話『百合ちゃんとの生活(日々)14』

 百合ちゃんと共に家に帰り、風呂に入ってから俺は夕食を自室の縁側で食べていた。

 あまり行儀が良いとは言えないが、何となく夜空を見ながら食べたい気分だったのだ。

 まぁ、食事が昼と同じ肉とおにぎりであったというのも理由の一つだ。

 

 手で食べる食事だったし、もう少しだけ遠足気分を味わいたかったのだ。

 

 そんなこんなで部屋の電気を消し、外の星灯りだけで夕ご飯を楽しんでいた俺であったが、どこからかヒソヒソと声が聞こえてきた事で、無意識のウチにそちらへと意識を向けてしまう。

 盗み聞きなどあまり行儀は良くないのだが、まぁ、聞きに行ったわけではなく、聞こえて来ただけだしな。

 もしかしたら俺に関係ある話かもしれないし。

 

 という訳で自分への言い訳も出来た事で、俺は遠慮なく耳をすませた。

 

「……大丈夫。もう寝たみたいよ」

「本当に?」

「えぇ。だって部屋の電気消えてたもの。それに亮さんは朝も早いでしょ? なら、もう寝てるわよ」

「う、うん……」

 

 本当に俺の話だった!

 いや、俺起きてるんですけどね?

 本当に聞いちゃって大丈夫な話か!? これ!

 

「それで? どうだったの!?」

「どう、って言われても……」

「迫ってみたんでしょ!? 何か反応は無かったの!?」

「あんまり……というか、全然」

 

「あらー。駄目だったのー。本当に脈が無いのかしら。もしくは他に好きな人が居るとか?」

「そういう事は無いと、思うよ? ただ、魅力が無かったとか、そういう事じゃないかなぁ」

「百合で魅力無かったら、もう女神様を探すしか無いでしょうよ。アプローチが弱かった、とかじゃない?」

「え、ええー? でも、アレ以上は……無理。絶対に無理」

「アレ以上は。って何をやったの」

「その……裸で一緒に水浴びした」

「……」

 

「お、お母さん?」

「いや、よくやったわね。百合。恥ずかしくなかったの?」

「恥ずかしかったよ! 恥ずかしかったけど! なんか勢いで頑張ったの!」

「そう。成長したわね。百合」

「嫌な成長だなぁ」

「うーん。でもそれで無反応だったのよね。そう考えるとやっぱり難しいわね」

「うぅ……だよね」

 

 百合ちゃんと百合ちゃんのお母さんが話している話を聞いていた俺は、昼間起こった百合ちゃんの暴走が意図的に発生した物であると知った。

 なんてこったである。

 

 しかし、別にまったく無反応という訳では無かったのだけれど。それを言うのも野暮か。

 それはそうだろう。

 百合ちゃんは美人で、可愛らしい子だからな。

 そんな子が裸で迫ってくれば、そりゃ俺だってドキドキする。

 

 だが、そういう感情を全て兄としての矜持でねじ伏せただけだ。

 兄が妹に欲情してどうなる。

 兄とは妹を護るための存在だ。決して傷つける為の存在ではない。

 

 が、それはそれとして、非常に厄介な問題だなとも同時に思った。

 

「んー。そうなったら次はどうするべきかしらね。裸以上のインパクト……いっそ寝込みを襲うとか?」

「出来る訳ないでしょ! 家を追い出されちゃうよ! 今回だって、変な女だって思われないか怖かったのに!」

「まぁ、確かに。同居という優位は捨てたくないわよね」

「優位って言っても、同じ家に女の子、いっぱい住んでるけどね」

「まぁ、アレくらいの良い男ならそのくらい当然よ。甲斐性もあるみたいだし。全員受け入れてくれるわよ」

「それは……そうかもしれないけど」

 

 重婚にも程があるだろう。

 何人いると思っているんだ。

 それも全員妹みたいな子だし。

 どうしようもなくなったら引き取るけど、基本は外で誰かと幸せになって貰いたいがね。

 兄としては。

 

「大事な事は百合が幸せになる事よ」

 

 それはそうである。

 

「だから、亮さんに気に入って貰わなきゃ。義理とかじゃなくて、愛して貰うのよ」

 

 それは別に拘らなくても良いんじゃなかろうか?

 俺以外にも良い男はいっぱい居ますよ。

 まぁ、俺程度に勝てない様じゃ百合ちゃんは渡せないけど。

 

「う、うん! 私、がんばるよ!」

「その調子よ。百合!」

 

 うーん、だ。

 うーんである。

 

 そういう努力を容認するべきかどうか悩む所だ。

 いや? 兄としては妹に悩みがあって、その解決を手伝ってほしいと言われれば喜んで協力するよ?

 でも、これはちょっと違うんじゃなかろうか。

 

 いや、違う事も無いのか。

 要するに、俺を使ってアプローチの練習をしたい訳だし。

 

 しかし、俺が反応しないと百合ちゃんはどんどん過激化していく訳で。

 そうなると、百合ちゃんは過激なアプローチばかり覚えてしまう。

 

 うーん。

 これは中々困ったね。

 

 俺はゴロンと仰向けで寝転びながら、遠く向こうの空に見える星々へと思いを馳せた。

 世の中という奴は、いつもままならないモノである。

 

 こうであって欲しいと願いながら、そうはらないのが現実という奴で。

 そうあって欲しいと願っていても、人はその人の想いのままに進んでゆくのだ。

 

 それは俺も同じだし。

 百合ちゃんも同じだ。

 

 だから、百合ちゃんがどういう道を選ぶのか。それを決めるのは百合ちゃんであるし。

 俺が何を言っても、何を思っても、結局の所最後には百合ちゃんが思った通りの結果になるだろう。

 

「……はぁ。難しいね。世の中って奴は」

 

 独り言として呟いた言葉は、誰にも届くことはなく、そのまま夜闇にのみ込まれて消えて行った。

 しかし、どうやら世界は俺を一人にするつもりは無いらしく、静かな部屋に小さな足音が響き、なるべく音を立てない様にしながら一人の女の子が部屋に入って来た。

 

「……亮、さーん。もう、寝ちゃいましたかー?」

「いや?」

「っ! お、起きていたんですか!?」

「うん? うん。そうだね。何か目が覚めちゃってさ。星空を見てたんだよ」

「な、なるほど……もしかして、聞いてました?」

「何を?」

「いや! 聞いてなかったのなら、全然大丈夫なんですけど!」

「ふぅん? 何か気になるな……悪い話をしてたんじゃないだろうね?」

「そ、そんなのする訳無いじゃないですか! 全然何も悪い話なんてしてなかったですよ!?」

 

 ワタワタと焦りながら百合ちゃんは手を振って、誤魔化していた。

 その姿を見ながら俺は、まだまだ子供の様な子なんだし、無理して迫る様な真似をしなくても良いのにな。と思ってしまった。

 いくら百合ちゃんの行動を百合ちゃんが決めるものだとしてもだ。

 

 俺は兄として、百合ちゃんが大人になるまで静かに見守っていたいのだ。

 そう。百合ちゃんの行動を百合ちゃんが決めるのなら。

 俺の行動も、俺が決める。

 

 ただ、それだけの事なのだ。

 

「と、ところで、ですね! 亮さん」

「ん? どうしたの?」

「そ、その! そのですね!」

 

 しかし。

 しかしだ。

 俺は何だかんだ兄であり、妹には幸せでいて欲しいと願っている男である。

 だからこそ、妹でもある百合ちゃんが困っているのならば、その手助けがしたいと考えているのだ。

 

「……う、うぅ、その!」

「ねぇ、百合ちゃん」

「は、はひ!? なんでしょうか」

 

 俺は焦った様な顔をしながら、ぐぬぬと何も喋れずにいる百合ちゃんに笑いかけた。

 そして、緩やかに口を開いて、百合ちゃんの願いを先に貰う。

 

「話をしようとしてた所、悪いんだけどさ。もう今日は眠いから寝ようかと思うんだ」

「な、なるほど」

「それでさ。百合ちゃんが良いのなら、一緒に寝るかい? たまにはそういうのも良いだろう?」

「い、良いんですか!?」

「もちろん。百合ちゃんが良いのなら。だけどね」

「はい! 私は大丈夫です!」

「なら、一緒に寝ようか。今日は百合ちゃんもだいぶ甘えん坊みたいだしね」

 

 俺は軽く笑いながら、百合ちゃんを布団に招いた。

 そして話した通り、隣に百合ちゃんが寝ている状態で深く息を吐いて、目を閉じる。

 

「……亮さん」

「うん?」

「ありがとうございます」

「良いんだよ。百合ちゃんは俺の大切な妹なんだからさ」

 

 俺はフッと笑いながら、天井を見て微笑んだ。

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