異界冒険譚   作:とーふ@毎日なんか書いてる

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第232話『百合ちゃんとの生活(日々)15』

 さて。

 百合ちゃんの口に出来なかった願いに従って、百合ちゃんと一つの布団で寝る事にした俺であるが。

 まぁ、正直な所まったく眠くないので、横になりつつも特に眠る事は無く、ただ時間が過ぎるのを待っていた。

 

「……亮さん。まだ起きてますか?」

「あぁ」

「ごめんなさい。私が、一緒に居るから……ですよね?」

「いや、あんまり関係ないかな」

「そうなんですか?」

「うん。特にコレっていう理由は無いけど、あんまり眠くないからだね」

 

 俺は特に嘘を吐く理由もないし、そのまま正直に話した。

 そんな俺の言葉に百合ちゃんはクスリと笑ってから、こちらを向いて口を開く。

 

「私は、すごい、ドキドキしてますよ?」

「……そう」

「そう。って、スッゴイ適当じゃないですか?」

「そういう訳でも無いんだけどさ。どう返事をすれば良いか分からなくて」

「うーん。確かにそう言われると、そうですね。私もそう言われたらどう返事をしたら良いか分からないです」

 

 百合ちゃんは天井へ視線を移して、うーんと悩み始めた。

 その姿を見ていると、俺は兄として何かをしてやりたい気持ちになった……が、百合ちゃんが悩んでいる原因は俺にある。

 何をどう言って悩みを解決すれば良いか。

 俺が教えて欲しいくらいである。

 

 だが、それはそれとして兄として出来る事はあるはずなので、俺は百合ちゃんにひとまず言葉をかける。

 

「ちょっと、空気を変える?」

「空気、ですか?」

「そう。ちょっと星でも見ようよ」

 

 俺は布団から出ると、縁側の方へとすたすた歩いて行った。

 百合ちゃんも、少ししてから布団を出て、縁側に歩いてくる。

 

 そして、二人で縁側に座り、外に足を下ろしながらどこまでも広がる星空を見上げた。

 

「今日も星が綺麗だねぇ」

「それは、そうですけど……。これでどう空気が変わるんですか? お兄さん」

「さて、どうかな」

「むー。また誤魔化しですか?」

「そういう訳じゃないけどさ。具体的に何かがどう変わるかってのは俺にも分からないんだよ」

「では、何故、星を見ようと?」

「まぁ、星が見たかったから。ですかね」

 

 俺が笑いながら百合ちゃんを見つつ告げた言葉に、百合ちゃんは微妙に不満そうな顔をした。

 頬を膨らませながら、むー。と唸っている。

 

 可愛らしい姿であるが、まぁ不満があるなら解消しなくてはなるまい。

 

「まぁまぁ。そう怒らないで話を聞いて欲しいな」

「むー。まぁ良いですけど? お話。聞きましょう」

「ありがたき幸せ……!」

 

 俺は仰々しく百合ちゃんに頭を下げながら、軽口を飛ばし、そして少し落ち着いてからゆっくりと口を開いた。

 まぁ、俺が話す話で納得してもらえるか分からないが。

 

「俺はさ。星を見るのが好きなんだ」

「それは何となく分かります。何かあると星を見ている気がしますし」

「百合ちゃんはよく見ているなぁ」

「まぁ、そうですね。私も時間があると亮さんを見ている気がします。特に最近は……」

「それは中々恥ずかしいね」

「フフフ、ジィー」

 

 百合ちゃんはいたずらを思い付いた子供の様な顔で俺を見ながら口で擬音を呟いていた。

 そして、そのまま体を俺のすぐ隣まで移動して、ぴったりとくっつく。

 

「ぴた」

「今日の百合ちゃんは甘えん坊だねぇ」

「亮さんが甘えさせてくれますからね。素直になって、素直に甘えてます」

「そりゃ良かったよ。俺も兄として誇らしいね」

「本当にそれだけですか?」

「残念だけどね。百合ちゃんは俺の中で可愛い妹だからさ。妹に邪な気持ちで近づく奴は許せないんだ。例えそれが自分でもね」

「亮さんにも邪な気持ちがあるんですか?」

 

 不思議そうな顔をする百合ちゃんに、俺はフッと笑った。

 俺はそんなに聖人じゃないし、何も感じない男でもない。

 

「当然あるよ。俺だって男だからね。可愛い女の子に邪な感情を抱くことはあるよ。まぁ妹だから抑えてるけどさ」

「別に抑えなくても良いんですよ?」

「そういう事言ってると、その内、怖い目にあうよ」

 

 俺は顔を寄せてきた百合ちゃんの額に二本の指を当ててくいッと押し込む。

 少しは離れてね。という合図だ。

 

 それで、百合ちゃんは少しだけまた距離を作った。

 

「またそれですか?」

「そう。俺は何度でも言うよ。危険だからね。百合ちゃんが傷ついたら悲しいし」

「でも……」

「でも?」

「私、それなりに強いので、襲われても何とかなると思うんです」

「はぁ……」

 

 俺は頭を抱えながら深いため息を吐いた。

 なんという危機意識の無さだろうか。

 

 俺は一瞬百合ちゃんから体を離して、百合ちゃんの両手首を右手で握り、痛くないように百合ちゃんの後頭部を左手で支えながら押し倒した。

 あまり強くは押してないから痛みは無いだろうが、恐怖はあった筈だ。

 もしかしたら、これで嫌われてしまうかもしれないが、兄としては危険を伝えなくてはいけない。

 

「わ」

「どれだけ強くても、こうして抑え込まれたら、逃げられないでしょ? 抵抗だって難しい」

「……」

「だから、いくら百合ちゃんが強くても、危ない所はいっぱいあるんだよ」

 

 俺はジッと俺を見上げる百合ちゃんを見降ろしながら話すが……百合ちゃんは不思議そうな顔をするばかりだった。

 なんでそんな不思議そうな顔になるんだ。

 おかしな事は何も言ってないと思うんだが……。

 

「あのー、百合ちゃん? 俺の言ってることは届いてるよね?」

「え? あ、はい。届いてますよ」

「じゃあ、なんでそんな不思議そうな顔をしてるの?」

「だって……私よりも亮さんの方が強いのは分かっていますし。それで……亮さんにこうして押し倒されるのは当然の事かと思ってました」

「……なるほど」

「それに、亮さんに好きになって貰いたくて、色々とやってましたし。こうなるのはむしろ嬉しいというか……?」

「嬉しいって……百合ちゃんはこれから何をされるか分かってるの?」

「え? と……。その、一緒に寝る……とかでしょうか?」

「一緒に寝ると、どうなるの?」

「どうなる……?」

 

 心底よく分からないという様な顔で首を傾げる百合ちゃんに、俺は「はぁ」と深くため息を吐いた。

 何となく分かっていた事ではあるが、百合ちゃんの性知識はそこまで多く無いらしい。

 まぁ、よくよく考えてみれば百合ちゃんはヤマトを抜け出してから、セオストで冒険者をひたすらやっていた訳だし。

 そういう知識を得る瞬間はあまり無かったのかもしれない。

 

 そして、現在に至るまで知識は曖昧なまま来てしまった。

 という様な所か。

 何とも難しいものだ。

 

「セオストに戻ったら、大事な勉強をしようか」

 

 俺は百合ちゃんを起こしながら、ため息と共にそう告げた。

 しかし、肝心の百合ちゃんはよく分からない。という様な顔をしていた。

 

「えと、はい。大事な勉強ですね。分かりました!」

「うん。是非覚えて欲しいね。ついでに危機感も付けて欲しいかな」

「危機感……ですか?」

「そう。一番大事だからさ。特によく覚えて欲しいよ」

「わかりました!」

 

 元気よく手を上げて返事をする百合ちゃんに、俺はため息を吐きながら笑い返した。

 そして、そろそろ寝ようかと俺は布団に向かう事にした。

 

 本当は星でも見ながら落ち着こうかと思ったんだが、思いも知らないところで頭を白くする事になってしまった。

 いや、逆に考えればこのお陰で余計に百合ちゃんに邪な感情を抱く機会は消えたというワケだから。

 良かったと言えば良かったか。

 

「じゃあ、そろそろ寝ようか」

「はい!」

「……」

「あ。腕に抱き着いても、良いですか?」

「良いよ」

「え!? あれ!? 断られるかと思いましたが」

「まぁ百合ちゃんが本当に子供だという事がよく分かったからね。純粋な甘えだってよく分かったよ」

「え!?」

「じゃ、おやすみ」

 

 俺はふぅと小さく息を吐きながら目を閉じて夢の世界に旅立っていった。

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