百合ちゃんと同じ布団で一晩を過ごし、俺はいつもの様に起きて、朝の訓練を始めた。
何度か神刀を振っていた所で、百合ちゃんのお兄さんが起きてきた為、俺は一緒に訓練をする。
「やはり、亮殿は強いな」
「まぁ、日々訓練してますからね。ある程度の強さは保っていたい物ですよ」
「その強さである程度……か。亮殿の目標は高いな」
「世界には俺なんかじゃ足元にも及ばない方が多く居ますからね。より高みを目指していたいんですよ」
「……なるほど」
「まぁ、それはそれとして、大切な人を護るためには少しでも多くの力が欲しいと考えているからですね」
俺は正面に立つ百合ちゃんのお兄さんに笑い掛けながら、自分の気持ちを真っすぐにぶつけた。
そんな俺の言葉に、百合ちゃんのお兄さんは笑みを浮かべながら俺が寝ていた部屋をみる。
そこにはまだ布団で寝ている百合ちゃんがおり、そんな百合ちゃんを見て、お兄さんは優しく微笑んだ。
「その護りたい人の中には百合の事も入っているのかな?」
「えぇ。入っていますよ。俺にとっても、百合ちゃんは妹ですからね。血は繋がっていなくとも」
「ふふ。私としては亮殿が弟になっても構わないがな」
「まぁ、それは、まだ分かりませんよ。俺も未来の事は分かりませんからね」
「……そうだな」
「ただ……百合ちゃんが幸せなら俺はそれが一番だとは思っているので、百合ちゃんの幸せに繋がる様な行動はするつもりですよ」
「それはありがたい」
百合ちゃんのお兄さんは、深い笑みを浮かべながら「そうか」と呟いた。
それから俺たちは軽く打ち合って、朝食を食べる為に居間へと向かった。
そして、百合ちゃんのお兄さんと話をしながら朝食を食べ、朝食を食べ終えてから今日はどうするかと考えていると、百合ちゃんが部屋に飛び込んできた。
何か、前にも同じ様な事があったなと思いながら、台所から百合ちゃんのご飯を居間まで運ぶ。
「はい。朝ごはんだよ」
「あ、ありがとうございます。って、そうじゃなくて!」
「百合。騒いでないで朝ごはん食べちゃいなさい」
「あ、う……はぁーい」
百合ちゃんは文句を言いたそうな顔をしていたが、百合ちゃんのお母さんに怒られて、シュンとしながら朝食を食べ始めた。
しかし、目はジィーッと俺を見つめたまま口を尖らせていた。
そんな百合ちゃんの食事が終わるのを待ちながら、俺は百合ちゃんが何に怒っているのか予想しつつお茶を飲むのだった。
そして、急ぎ過ぎず、かと言って遅すぎず、百合ちゃんは朝食を食べ終わると、怒っていますという顔で俺の前に座った。
「何か怒っているみたいだね」
「はい!」
「理由を聞いても良いかな」
「良いですけど! まずは亮さんに考えてもらいたいですね!」
「なるほど」
俺は百合ちゃんの言葉に頷きながら腕を組んでうーんと考えたが、コレ、という明確な答えは浮かばなかった。
いやまぁ。それでもいくつか候補は浮かぶワケだが。
「うーん。そうだねぇ。俺が先に寝て起きちゃったから怒ってるとか?」
「う……! い、いや? そんな理由ではありませんが?」
「そうなんだ。じゃあ、俺だけ百合ちゃんと一緒に寝ていても何も意識してなかったから。とか?」
「うぅ……!」
百合ちゃんはダメージを受けた様な顔をしながら体を揺らす。
どうやら、二つとも正解であったらしい。
まぁ俺が寝る瞬間まで百合ちゃんは落ち着かない様子だったから、そういう事かなと思っていたが、まさかその通りだったとは。
知識や見た目は子供だが、精神は成長しているんだなぁ。と、少しばかり感動する。
「正解だったのかな」
「ち、違います!」
「そうか。それは残念だね」
と言いながら俺は話を逸らしてゆく事にした。
このまま話を続けても百合ちゃんにとっていい流れにはならないだろうしね。
「ところで百合ちゃん。今日はどうする?」
「え? あ! そ、そうですね! 今日はどうしましょうか!」
「あら。二人は今日も自由に動けるの? じゃあ山に行って何か採ってきて貰えるかしら」
「分かったよ。何でも良いの?」
「えぇ。食べられる物なら何でも良いわ」
百合ちゃんは百合ちゃんのお母さんから必要な物を聞いて、指を順番に折りながら何があるか等と話しているのだった。
俺はひとまずよく分からないので、いつもの荷物を運ぶ要員と、護衛として向かおうと考える。
そして、母娘の話し合いも終わり、俺は百合ちゃんと共に山へ向かう事にするのだった。
「今日は山の幸だね。しかし、ヤマトは食料が豊富だね。色々な場所にある」
「はい。そうですね。そこはヤマトの凄い所だと思います。土地が広いので色々な物があるのが良いんでしょうか」
「そうだね。セオストとは比べ物にならない程大きいしね。山もあるし。川もあるし。平原に魔物は色々居るし。食料は豊富だよね。後、農業とかもやってるんだもんね」
「やってますね。特にお米や野菜は町でも村でも食べられますし。ヤマトでは重宝されてますね」
「ふむ。セオストでも農業はやってるんだろうけど、ヤマトよりも規模は小さそうだし。安定もして無さそうだよね」
「セオストは魔物に襲われますからね」
「……ヤマトを参考にして、襲われない農場を作るのもセオスト的には良いかもしれないね」
「確かに……。でも、そうすると冒険者の仕事も一つ減ってしまいますね」
「あー。そうか。農場の防衛も定期依頼であるんだっけ」
「はい。そこまで依頼料は高くないですけど。その依頼のお陰で何とか活動出来ている方も居るので……」
「なるほど。そう考えると何でもかんでも便利にすれば良いってものでも無さそうだね。不便の中にも必要なモノはあるのか」
うぅむと唸りながら、俺は百合ちゃんに言われた言葉を改めて飲み込む。
セオストがより一層便利になればと思って口にしたが、逆にそれで不便になってしまうという。
世界という奴は、不便な様で上手くいっている所もあるというのが難しい。
まぁ、不便な状態をそのまま放置する人はそれほど居ないだろうし。
頭の良い人たちが多くいるセオストならば、それも良い方向に転換する事も出来たという事だろう。
「うまい事出来てるもんだねぇ」
「そうですねぇ。依頼の報酬とは別に食料とかも貰えるという話もありますので、ギリギリの時は亮さんも利用してみてください。とは言っても亮さんがギリギリになる事なんて無いかと思いますが」
「うん。そうだね……って、それだけ良い依頼なら、百合ちゃん達も結構やったの?」
「あー、いや。私たちは……一回だけ、ですね」
「そうなの? 食料も貰えるのなら、前に聞いたみたいな喰い詰める様な事にならなかったんじゃないの?」
「それはそうなんですけど……実は依頼を受けて現地で防衛をしていた際にですね……家の方から、息子さんとの交際を激しく勧められまして」
「……」
「私もフィオナも断ったのですが、冒険者よりも安全で良い稼ぎだと、かなり強く迫られまして……依頼を受けるのは遠慮してしまったんです」
「その農家ってどこの家? セオストに戻ったら話に行くよ」
「え」
「百合ちゃんとフィオナちゃんにそんな迷惑を掛けるなんて、許し難いからね。是非とも話を……」
「いえ! 昔の話ですから! 本当に!」
「二人がまだ小さい頃に、そんな言葉を掛けてくるなんて、信じられないな。滅ぼした方が良いんじゃないかな」
「えぇー!? だ、駄目ですよ! 農家さんが居なくなったらセオストの食糧事情が大変な事になっちゃいます!」
「じゃあ、命を取らない程度に痛めつければ良いっていう話だね」
「いや、それじゃ農業出来なくなっちゃいますからね! 駄目ですよ!」
百合ちゃんの叫び声を聞きながら、セオストに戻ったら絶対にそのふざけた農家に文句を言ってやると心に決めた。
「……」
「駄目ですからね!」