自然薯を手に入れる為、まずは山の中をさ迷い歩き、自然薯の花を探す。
自然薯という山芋は、地面の中にその体が眠っている為、地面を歩いているだけでは分からないのだ。
というか、下を見ながら歩いていたとしても分からないという話だ。
なので、地面よりも上にある花を探すという訳だ。
自然薯の花は前に何度も見ているから、そこまで探すのは難しく無いだろうと思う。
思う……。
思っていたのだが、思っていたよりも見つからない。
頭上にはよく分からない花や木が生えているだけで、それらしいモノが見えないのだ。
うーん。
こうなってくると困ったなぁ。
こう、サクッと見つかるかと思ったんだが、世の中そうそう甘くはないという事か。
何か、こう……冷静に戻った様な、酷くガッカリした様な微妙な気持ちだ。
しかし、微妙に諦めきれない為、木々の深い場所の方へ移動し……そして、ソレを見つけた。
木々の上の方。
ツタの先に咲いている自然薯の花である。
いや、時期外れだからイマイチ確証は無いけれど、多分アレだと思う。
というか、春に花を咲かせているかどうかも定かではないので、自信は無いけれど。
おそらくは合っているハズだ。
前におじさんに見せて貰った奴はこんな感じだった。
いくつかの小さな花が集まって咲いている感じ……ただ色とかが少し違う様な気もするから不安ではあるが。
まぁ、どちらにせよ、だ。
違うなら違うで良いと思う。
何せ他にはそれらしいモノは見つかっていないし。
今の所、有力候補はコレだ。
という訳で、俺はまず花から伝わるツタの先を探す事にした。
軽くツタを揺らしながら、何となく周囲のツタの状況を見つつ、その先を探す。
ツタは無数に存在していて、どれが自然薯と思われる物のツタか分かりにくいが、何とか特定し、その先へと視線を運んだ。
少しずつ、少しずつ特定してゆき……やがてここだろうという地面を見つけ出して、俺はその周辺の土を軽く掘り起こした。
そして、見つけたのは土の中から僅かに触れる固い感触。
手の先、指で触れているソレは間違いなく石や土ではない。
触れた感覚から言えば、芋であると思われた。
芋の専門家ではない為、正直な所、何となくそうだろうとしか言えないが。
これは芋だ!!
たぶん。
「……うん。ほぼ間違いなさそうだし。周りを少し綺麗にするか」
俺は地面に伏せながら芋の存在を確かめて、起き上がってから近くに置いておいた神刀を抜く。
そして、周囲にある余計なツタや草木を一気に切り払った。
大きな草木は神刀で斬れば良いが、小さなモノは手で抜いてゆくしかない。
その為、俺は地道に周囲の枯れた草木を手で取り払い、たまに小型のシャベルを手に、軽く周囲の土を掘り起こす。
何度か綺麗にする作業を繰り返し、俺は自然薯を掘り出す前の前準備を終わらせる事に成功するのだった。
周囲を見渡せば、厚い草木の中にすっぽり大人三人くらいが寝る事の出来るスペースが出来ていた。
最悪はここで眠るという選択肢もあるという事だ。
いや、どれだけ時間が掛かるか分からないからこれだけの広さを作ったが……冷静に考えるとそれだけ時間が掛かるのなら、先に百合ちゃんに話をするべきだろう。
一人でこんな山の中で待たせるわけにはいかないし。
「……まずは合流するか」
俺はひとまず、この場所に目印を残して、百合ちゃんを探すべく山の中を歩き回ることにした。
山自体はかなり広いし、すぐに見つかるか分からなかったが、思っていたよりも早く百合ちゃんを見つける事が出来た。
「百合ちゃん!」
「あ、亮さん! ……わ、わわ」
百合ちゃんは何故か俺を見ながら、慌てた様に口をパクパクとしていた。
何だろうかと俺は自分の状態を見ながら首を傾げる。
「えと?」
「あの、その、あんまり、気落ちしないで下さい! 山菜というのは、採取するのが非常に難しい物でして! 慣れるとそうでも無いのですが!」
「えーっと。百合ちゃん」
「え? あ、はい!」
「実はさ。結構採ったんだけど、ちょっと離れた所に、今まとめて置いてるんだよ」
「あ、あ! な、なるほど! そうでしたか! ま、まぁいっぱいあると重いですもんね! 私は軽い物ばかりですけど!」
何故か俺の言葉に百合ちゃんはわたわたと焦りながら、自分の荷物を必死に隠そうとしていた。
が、かなり大量に入っているリュックは百合ちゃんの体では隠せない程に大きい為、悲しい程に無意味な動きを繰り返していた。
「うん。別に意地を張ってる訳でも、誇張している訳でも無いからさ。とりあえず向こうに行っても良いかな?」
「も、勿論です! 亮さんは初心者さんですからね! 量とか、質とかは全然気にしなくても良いと思うんですね! 私は!」
必死に俺のフォローをしている百合ちゃんに、俺は悲しい気持ちを抱えながらも、先ほど自然薯と思われる物を見つけた場所へと百合ちゃんを連れてゆくのだった。
そして、到着してから俺は百合ちゃんに最初の収穫物を見せた。
真実、山の様に盛られた山菜の数々を。
「凄いフォローしてたけどさ。どうだい? こんなに集まったよ」
「いや、本当に凄いですね……この辺りは毒草、毒キノコなんかがかなりいっぱいあるのに、見事にそれを避けてます」
「百合ちゃんのメモが凄かったからね。ふふん。流石は百合ちゃんだよ」
「あの? 気が付いたら私が褒められてるんですが……今のは亮さんの自慢話だったハズでは……?」
「俺の自慢なんかしてもしょうがないでしょ。褒められるべきなのも、称えられるべきなのも百合ちゃんだよ」
「うぅん。なんか頭が混乱してきますね」
「そう? いつもの事だと思うけどね」
「それはそうなんですけどね。だからと言って、それに慣れるかはまた別の話なので」
「それはそうか」
俺は百合ちゃんの言葉に納得しながら頷き、百合ちゃんが凄いという話は終わらせた。
そして、各種キノコやら野草やらの説明を終わらせてから、いよいよ本命の話を始める。
「それでさ。ここまでが山で採って来た奴なんだけど」
「ここまで?」
「そう。実はさ。凄い大物を見つけたんだよ」
「大物、ですか」
百合ちゃんは何だろうかと首を傾げながら周囲を軽く見渡した。
明らかに、俺が神刀などを使って伐採した広い場所をクリクリした目で見つめる。
そんな可愛らしい百合ちゃんに俺は緩やかな笑みを浮かべると、目標を見つけた場所まで百合ちゃんを連れて行き、軽く掘った穴を指さした。
「コレ。大物」
「これ……? でも、キノコも野草も何も……って、まさか!」
「ふふふ」
百合ちゃんは目を見開いて、地面に座り、俺が掘った穴に手を向ける。
そして、手でソレを見つけたらしくあわわと驚きながらその名前を口にした。
「こ、ここ、これ! 自然薯じゃないですか!」
「あぁ。やっぱり自然薯なんだね。ふふふ。頑張って見つけたんだよ」
「是非掘り起こしましょう!」
「でも、大きさによっては時間が掛かっちゃうかもしれないけど」
「大丈夫です! 亮さんがこの辺りを整地して下さいましたし。問題はありません!」
「本当に大丈夫? 家で百合ちゃんのお母さんが待ってるんじゃない?」
「そちらも問題はありません! お母さんもすぐに必要という訳ではないので! それに、自然薯を持って帰って来たという話なら何日か帰らなくても大丈夫だと思います!」
「な、なるほど」
「そうと決まれば準備が必要ですね!」
百合ちゃんはキラキラとした顔で笑いながら、自分が持って来たバッグへと走り、様々な道具を地面に置きながら自然薯を掘る準備を始めるのだった。
そして、百合ちゃんの準備が十分に終わり、俺は夜寝る為のテントを立てて、いよいよ自然薯へと向き合う時間が来たのであった。
「では、始めましょうか!」