異界冒険譚   作:とーふ@毎日なんか書いてる

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第237話『百合ちゃんとの生活(日々)20』

 自然薯掘りというのは重労働かつ、非常に繊細な仕事だ。

 自然薯というのは、山芋の一種であるのだが、非常に折れやすくちょっとした事でポキッといってしまう。

 折れてしまうと、その部分から変色したりするらしい。

 味が落ちるなんて話も聞いたことがある。

 

 まぁ、実際に食べたワケじゃないから分からないが……折らない方が長持ちするらしいから、折らない方が正義というのは間違いないだろう。

 

 という訳で掘る作業には、さながら化石の発掘並の慎重さが必要となってくるというワケである。

 まぁ、化石なんて掘った事はないのだが。

 気分の問題である。

 

「では早速始めましょうか」

「そうだね」

「自然薯堀りは、初めてですか?」

「いや、前にも何度かやった事があるよ」

「そうなんですね! それは心強いです。自然薯堀りは遺跡を発掘するのと同じくらいの繊細さが必要だと聞きます。魔ぁ、私は遺跡の発掘をした事が無いので、逆に遺跡発掘がよく分からないワケですが」

「そうだね。俺も同じだよ。でも、何となく意味が伝わるから良いかなって感じかな」

「はい。ゆっくりと、しかし大胆に、掘り進めてゆきましょう」

 

 百合ちゃんはまず目標となる自然薯の周囲に目印を置いて、そこから少し離れた場所を慎重に掘ってゆく。

 俺も百合ちゃんの近くで、広く土をどかしながら、大穴を作っていった。

 しかし、それでいて、木の支えを置ける程度には範囲は小さくだ。

 

「あまり横には伸びていないようですね」

「そうだね。かなり素直に真っすぐ下に伸びてるみたいだ」

「これは味が期待できますよ! フィオナと二人で掘った時もとても美味しかったのを覚えています」

「……って事はセオストにも自然薯があるの?」

「はい。セオストから少し離れた山の中にありますね。ただ、魔物が多く居るので、護衛は居た方が良いと思います」

「まぁ、そうだろうね」

 

 魔物と戦いながら自然薯掘りとは……落ち着かない作業になりそうだな。

 まぁ、ヤマトでは襲われないから良いけれど。

 

「……」

「……? どうしたんですか? 亮さん」

「いや、何となく掘り始めてみたけどさ。もし夜になって中断する事になって……寝ている間に魔物に食べられちゃったらどうしようかと思ってさ。夜通し見張ってても良いんだけど」

「あぁ。それなら問題は無いですよ」

「何かいい手が?」

「はい。この場所に魔物避けの魔導具を置きましょう。それでこの周囲には魔物が近寄らなくなります」

「おぉ……それは凄い」

「ただ、小型の魔物はそれで遠ざけられるのですが、大型の魔物は近づいてきてしまうので……」

「流石に大型のが近づいてきたら分かるから大丈夫だよ。その時は起きて迎撃する」

「まぁ……そうですね。では、その時は一緒に迎撃しましょう」

 

 百合ちゃんはそう言いながら魔導具を自然薯のすぐ近くにあった木に取り付けて、スイッチを入れる。

 魔導具は木に貼りついた状態で、グググと震えながら動き始めた。

 そして、何かふわりといい匂いが周囲にし始める。

 

「これは……?」

「ある大型の魔物が興奮している時に出す香りだそうです。同種の魔物であれば引き寄せられますが、小さな魔物は怖がって逃げてしまうとの事で」

「便利だねぇ……。これは冒険者に人気のアイテムって奴かな」

「あ、いえ。全然人気ないです」

「え?」

「冒険者は基本的に小型の魔物を狩って、大型の魔物から逃げる生活をしてるんですよ? なのに、逆の事してどうするんですか」

「あぁ、まぁ。それはそうか」

 

 俺はそういえばそうだったな、と百合ちゃんの話を聞きながら思い出し。

 そうね。と呟いた。

 

 そんな俺に、百合ちゃんは呆れた様な顔を向けて、ため息を一つ落とす。

 

「もう、亮さんは本当に冒険者の事を何も分かってませんね。みんながみんな亮さんみたいに強いワケじゃないんですよ?」

「申し訳ない」

「本当に、気を付けて欲しい物です」

「はい……!」

 

 と、俺は反省しました。

 のポーズをしていたのだが、途中でふと頭に疑問が浮かんだ。

 妙だぞ、と。

 

「でも、なんでそんな人気のない魔導具を百合ちゃんは持ってたの?」

「え」

「フィオナちゃんが危険だし。使い道は無いよね?」

「そ、それは……その、ね。色々と使い道はありますから」

「でも冒険者には人気が無いんでしょ?」

「そ、そうですけど」

「おかしいな? あやしいなぁ」

「べつに! 怪しい事は無いですよ? 本当に」

「ふぅん?」

 

 俺はそうか、と言いながらまた自然薯掘りに戻る。

 が、何となく土を掘りながら、何故百合ちゃんがこの魔導具を必要としていたのか考えた。

 

 例えば……生活が苦しかった時、食料を求めて大型の魔物を呼び寄せて狩っていたとか。

 いや、でもそれなら普通に小型の魔物を狩れば良いだろう。

 どの道、フィオナちゃんに内緒で狩るのなら、大型の魔物よりも小型の魔物の方が言い訳がしやすい筈だ。

 

 ふむ。では、何だろうか……。

 

「近づけない、為……?」

「っ!」

 

 そうか。

 大型の魔物を呼び寄せて、その周囲に人も魔物も近寄らせないために魔導具を仕掛けたのか。

 それは、人の目に触れてはいけない何かをする為、とか……。

 何か考えて居たら、百合ちゃんとフィオナちゃんの悪い話に触れそうな気がしてきたな。

 まぁ、過去にどんな犯罪をしてようが、妹である以上、俺は二人の味方であるが。

 隠したい事を掘り起こすのも違うか。

 

「……」

「あ、あの? 亮さん?」

「どうしたの?」

「いえ、その、さっきの話」

「あぁ。俺はもう気にしてないから大丈夫だよ。百合ちゃんが過去に何をしていたとしても、俺は気にしないからさ」

「何を、って……別に犯罪的な事は何もやってませんよ!?」

「まぁ、そうだね。可愛い妹が罪を犯すワケがない。罪と定めた方がおかしいのだ。分かるよ。ちゃんと俺にも」

「そんな狂ったお兄さんのルールじゃありません! ちゃんと世界のルールです!」

「ほぅ」

「その、誤解されたままなのは……嫌なので、言うんですけど」

「うん」

「ほら、前にお金が無くて湖で水浴びしてたって言ってたじゃないですか」

「言ってたね」

「それで、私もフィオナもギリギリだったので、贅沢は言えなかったんですけど。それでも覗きとかをされるのは嫌なので、人避けに使っていたんです」

「なるほど」

「大型の魔物は確かに近づいてきますが、ある程度距離を取っていれば警戒も出来るので。イザとなったら逃げれば良いですし」

「百合ちゃんの昔話を聞いていると、涙が出る様だね」

「まぁ、今は幸せですから。良いんですよ」

「そうだね。なら、もっと幸せにならないとね」

「はい! なので、今は自然薯を完全な形で掘り出しましょう!」

「了解だ。頑張ろう!」

 

 俺は改めて、自然薯に向き合い、土を掘り続けた。

 

 それから。

 俺たちはひたすら周囲の土を掘り出し、ある程度自然薯がありそうな場所を特定する事が出来た。

 どうやら見つけた自然薯はかなり真っすぐ下に伸びているらしい。

 

「どうやら本体はかなり真っすぐに伸びている様ですね」

「うん。横に伸びてる枝分かれした細い奴はあるけど、かなり素直な奴みたいだ」

「この枝分かれした細い奴は取っちゃっても良いですか?」

「勿論。と言いたいところだけど、大丈夫かな? 折った所から駄目になったりしない?」

「それは……どうなんでしょうか。私もそこまで詳しくはなくて……」

「なら、ひとまず固定して折れない様にしようか」

「そ、そうですね。よく分からない時は無理をしないのが一番ですね」

 

 俺は百合ちゃんと相談しながら、横に伸びている枝分かれした細い奴を木で固定し、折れない様に調整した。

 そして、いよいよ本体の発掘に向かうべく、さらに掘り進めるのだった。

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