自然薯堀りを始めてかなりの時間が経った。
自然薯の周りと俺たちが近くで掘る為の穴も周囲に開けて広げてゆく。
既に穴は俺の腰よりも深い場所まで掘り進められており、百合ちゃんと一緒に自然薯の周りの土を払いながら自然薯の形を分かりやすくしていた。
さりとて、常に自然薯を折らない様には気を付けている。
そのお陰か、自然薯はその全体像を少しずつではあるが、俺たちの前に表していた。
「ふー。ようやく、かなり見えて来たね」
「はい。これは相当な大物ですね」
「うん。これだけ掘って、まだまだ下に本体が続いているからね。やっぱり一日じゃ難しいか」
「そうですね。そろそろ日も落ちますし。落ちる前に固定だけしちゃいますか」
「あー。それなら俺が固定やるからさ。百合ちゃんは食事の準備をお願い出来る?」
「承知です! あ! 食材、貰っちゃって良いですか!?」
「あぁ。好きに使ってよ」
「分かりました!」
百合ちゃんはかなり深い穴からぴょんと飛び出すと、夕食の準備へと向かった。
そして、一人残された俺は木の枝と紐を使い、自然薯の露出している部分を固定してゆく。
夜寝ている間に事件が起きない様にしっかりと結んで、固定を何度も確認した。
それからジックリと全体を確認した俺は掘った穴から出て、すぐ近くに設置したテントへと向かうのだった。
「こっちは終わったよ」
「お疲れ様です。こちらももうちょとで準備が終わりますよ」
「ありがたいね。じゃあテントの方も準備しちゃうよ」
「はい!」
百合ちゃんに一声かけてから、俺はテントの中で寝る場所を確保し、地面を整えてから寝袋も準備するのだった。
そして全ての準備が終わってからテントを出て、ちょうど夕食の準備が終わった百合ちゃんから器を貰った。
「おぉー。キノコ鍋だね」
「はい。ちょうど、亮さんがいっぱい採っていたみたいなので使っちゃいました」
「助かるね。沢山採って良かったよ」
はふはふとキノコ汁を飲みながら、ホッと一息つく。
山を歩き回り、そして今の今まで発掘作業。
中々に疲れた一日であったと、俺は夕食を食べながらシミジミと思うのだった。
「明日には終わるでしょうか?」
「どうかな。まだ全体が見えないし。もしかしたら終わらないかもしれない」
「それは……ちょっと困っちゃいますね」
「まぁでも、それだけ大物なら持って帰った時にみんなビックリするんじゃないかな」
「確かに。そう言われるとそうですね。きっとビックリしますよ」
ふふ、と楽しそうに笑う百合ちゃんに、俺も笑い返す。
こういう仕事は、こういう瞬間が一番楽しいのかもしれない。
これから何が見つかるのか。
全体はどういう姿なのか。
どうやって手に入れるのが一番良いのか。
効率は、丁寧さは?
色々と考える要素があり、実に面白い。
「明日は日が昇ったらすぐに作業を始めようか」
「そうですね。たき火の灯りだけでは難しいですしね」
「うん。特に繊細な作業が必要だしね。ジックリ、ゆっくりとやっていこう」
百合ちゃんの言葉に頷いて、俺は明日への気持ちを胸の中に置いた。
それから。
明日は朝早くから作業するという事もあり、今日の仕事の疲れもあり、俺たちはすぐに眠りの世界へと旅だった。
そして、翌朝。
俺たちは朝日が昇るよりも前に目を覚まし、昨日使ったたき火に再び火を入れて、温まりながら朝食の準備をした。
「ふぃー。流石に山の上は冷えるねぇ」
「そうですねぇ。昨日のキノコ汁を残しておいて良かったです。朝食にピッタリですね」
「そうだね。具も多いし。流石は百合ちゃんだね」
「サバイバルは慣れてますからね」
「それは、昔の経験から?」
「まぁ、そうですね。色々ありましたから……いろいろ」
どこか遠い目をしながら語る百合ちゃんに、俺は必ず幸せにしなくてはと心に決めた。
そして、その為の一つとして自然薯掘りに意識を向ける。
ゆっくりと食後のお茶を飲んでいた俺たちは、遠い山の向こうから昇ってくる朝日を見て、腰を上げた。
「さて。今日も頑張るかー」
「そうですね。今日も丁寧に掘り進めましょう! 私も頑張ります!」
「うん。遺跡を発掘する様に、だね」
「掘った事は無いけれどー。ですね」
百合ちゃんと冗談を言い合いながら笑い、手にシャベルを持って、穴の中に飛び込んだ。
一応自然薯を傷つけないように慎重に降りて、昨日からどうなったか自然薯を確認する。
どうやら、一晩を超えても以上は無い様で、昨日の夜に俺が固定した状態のまま朝を迎えられた様だった。
「ふむ」
「ここからどうやって掘り進めて行きましょうか」
「ひとまずは、下が見たいよね」
「そうですね。全体的に下に向けて掘る感じですかね」
「うん。そうだね。周囲も含めて全体的に下に掘ろうか」
俺は朝の繊細な作業を百合ちゃんにお願いし、俺は大体に周囲を掘ってゆく。
下へ下へとドンドン掘り進めて、外に積み上げた土は少し離れた場所にまとめて移動する。
そして、土を少し離れた場所に移動した後は、再び土を掘り、それを積み上げてゆく。
昨日まで俺の腰辺りであった穴は、昼を過ぎる頃には俺の肩くらいまで掘り進めており、自然薯の方もかなり順調な様だった。
「どんな感じ?」
「うーん。色々と悩ましい感じになってますね」
「ふむ?」
俺は百合ちゃんの横から顔を出して、自然薯を見つめる。
どうやら、昨日は真っすぐ下に伸びていると思われた本体であるが、左右に曲がり、枝分かれして、あっちこっちへと自由に動き回っていた。
まるでタコの様である。
「これは中々だね」
「しかも底はまだ見えてないんですよ」
「確かに……。まだまだ先があるのか。という事は?」
「このまま下にまだ掘り進めるしか無いですね」
何とも言えない複雑な顔で百合ちゃんは地面を見つめながら呟いた。
そして、シャベルを掲げながら、俺に向かって笑いかける。
「まぁ、採って来た山菜でまだまだ野宿は出来ますから。限界まで掘ってみましょう」
「そうだね……と言いたいところだけど、昼の時点でこれなら、今夜もここに泊まるのは確定だろうし、ちょっと食料を探しに行ってくるよ」
「あ、了解しました。お肉ですか?」
「そうだね。後は……お風呂でも作ろうかなって思ってさ」
「お風呂……ですか?」
「そう。実はさ。セオストから子供用プールに使える魔導具を持ってきててさ。技術者の人に聞いたらプールに入れる水を温める事も出来るみたいで。お湯を貯める事も出来るんだよ」
「それは! 本当に凄いですね! この魔導具が昔にあれば……!」
「ま、まぁ。そうだね。一応魔導具は昔からあるみたいだけど……」
「お高いんですね」
「かなりね。正直、凄い高いよ。この魔導具」
「でしょうね。どの道、当時の私たちにはどうする事も出来ない物でしたね」
百合ちゃんは愛変わらず遠い目をしながら、昔の記憶を思い出している様だった。
その姿は非常に悲しみを誘うものであったが、ここからは幸せな思い出しか無い訳である。
という訳で、俺は今日はお風呂に入って疲れを癒してもらおうと準備をする事にした。
「なので。今日はゆっくりと熱々のお湯で疲れを癒してよ」
「ありがとうございます!」
「じゃ、俺は準備をするからさ。百合ちゃんは休みながらやってね」
「はいー。って、準備、ですか?」
「うん。この魔導具。中に入ってる水を温める事は出来るけどさ。水を出す事は出来ないから」
「なるほど。それで水を取ってくるという訳ですね」
「そう。じゃ行ってくるよ」
「え? よく考えたら、ここ結構山の高い所ですけど!? ここまで運ぶんですか!? 水を!? 亮さん! 亮さーん!?」
後ろから聞こえる百合ちゃんの声を振り払いながら、俺は山を勢いよく駆け下りて、水を採りに行くのだった。