雷蔵さんから時道さんの事情を聞いた俺は、この悲劇とも喜劇ともいう様な話になるほどと頷いた。
しかし、だ。
下らない話とはいえ、被害が起きている事は事実である。
解決出来る者ならサッサと解決する方が良いだろう。
解決までそれほど時間の掛かる話でも無いのだから。
サクサクと瞬さんを呼び、時道さんとちゃんと話をして貰えば良い。
ただ、それだけだ。
「では、どうしましょうか? 瞬さんを連れてきて、話をして貰いますか?」
「いや、もうその段階は既に通り過ぎている」
「と、言いますと?」
「時道も実際に手を出した以上は途中で止める気なんかさらさらねぇって話だよ。この機会にヤマトの腐った部分を全て斬り落とそうとするだろうさ」
「でも始まりのキッカケは瞬さんが原因なんでしょう?」
「そうだが、違う。元々のキッカケは瞬を排除して名家でヤマトを管理しようとした連中さ。連中が居なければ時道と瞬は普通に戦う事が出来ていた訳だからな」
「ではその人達を排除すれば……」
「いや。時道の事だ。いの一番にソレはやっているだろうさ」
「では、反乱はもう終わりですか?」
「そうなっていたら俺らはここに居ないだろ? というか、お前が襲われる理由もない」
「それは……そうですね」
「だから、アイツの目的はおそらく、祭りで起こっていた事の再現なんだよ」
「それって……名家ではなく、妾さんの子供が勝つことで、名家の権威を否定するって奴ですか?」
「あぁ。そういう奴だ」
「つまり、時道さんの目的は……瞬さんに討たれる事……?」
「だと俺は思うぜ」
俺は雷蔵さんの話を聞きながら、何となく時道さんに想いを寄せる。
何がどうなって現在の状態になっているのか。
これからどうなりたいのか。
考えて、想いを寄せて……少し違和感を覚えた。
負ける為に戦うなんて、そんな事あるか? と。
「俺は、ちょっと違うんじゃないかと思います」
「ほう? 聞かせてくれよ」
「はい。とは言っても、そんなに複雑な話でも無いんですけど」
「おう」
「強さや決闘を求めている人が、負ける為に戦うでしょうか?」
「……」
「俺だったら、俺が時道さんだったら、やっぱり今度こそ瞬さんと一対一で誰にも邪魔されずに戦いたいと思うんです」
「だが、そういう話なら、別に事件を起こさなくても出来るだろう? 瞬も決闘バカだからな。挑めば応えるさ」
「そうかもしれません。でも、出来たとしても、それは結局、祭りの時の様な決闘にはならないと思うんです。どこかお遊びの様な決闘になってしまう。だから本気で殺し合う為に、事件を起こした」
「……確かにあのバカが考えそうな事だが、あり得るか? 本気でやれって言えば瞬だって本気でやるだろう?」
「そうでしょうね。でも、時道さんと瞬さんは友達ですし。瞬さんは優しい人ですから。本気と言いながらも、気持ちは追い付かないでしょう?」
「それは、そうだな。いや、しかし、正直な所ジジイが何人死のうが瞬は本気になんか……って、まさか! 時道のバカは!?」
「はい。おそらく時道さんは楓ちゃんやセシルさんを殺すつもりだったんだと思います」
俺の言葉に雷蔵さんの顔つきが変わった。
怒り……? いや、憎しみ?
憎しみまではいかないか。
ただ、強い、強い怒りだ。
「なるほど。そうか。確かにそう言われると納得だよ。あの時、時道が放った技は、お前が止めなければ間違いなくセシル様か姫様に届いていた。最悪はその命を奪っていただろう」
「はい」
「しかし、追手をこちらに向けないのは、どちらにせよ事件を解決する為には俺達がフソウに行かなければいけないからか。チッ、面倒な事を考えるな。あのバカ!」
「おそらく……今の俺達は泳がされているのではないかと思います。俺達が楓ちゃん達を置いて、フソウへ行けばその隙に彼女たちを攫おうとするでしょう。それを避ける為に一緒に連れて行けば、現地で狙われる」
「時道の考えそうな作戦だな。ったく! だが、とは言っても、それの確証はない。ちょっと周囲を探らせてくるぞ」
「はい。俺もこの考えが杞憂であれば良いとは思ってます」
「あぁ。そうだな。俺もだよ」
雷蔵さんはドカドカと足音を立てながら部屋から出ていった。
そして、それと入れ替わる様にセシルさんが朝食を持って部屋に入ってくる。
「お話は終わりましたか?」
「えぇ。はい。終わりました。あまり良い話では終わりませんでしたが」
「そうですか。静かに事件が解決すれば良いのですが……」
「そうですね。俺もそう思います」
俺はセシルさんから朝食を受けとりながら、頷いた。
そして、セシルさんに言われるまま朝食を一口食べて、俺はふと、違和感に顔を上げた。
「どうしました?」
「あ、いえ。何か酷く食べた事のある味だなと思いまして」
「あぁ、そういえば、亮さんは最近、百合さんの家に泊っていたんでしたね。もう食べなれた味でしたか。うんうん。亮さんは百合さんルートに進んでいるんですねぇ。私は好きですよ。背中合わせに戦うのが最高ですしね」
「……」
また、セシルさんがよく分からん話をしているな。
と思いながら俺はそうですね。と軽く流した。
流そうとした。
しかし、セシルさんはワクワクとした顔でグイっとこちらに近づいてくる。
「それで? 百合さんとはどこまで行ったんですか?」
「山に山菜採りに行ったくらいですかね」
「んもー! そういう定番のボケは要らないですよ! 亮さんは攻略を始めたら手が早いですし。もう、手を出してしまったんじゃないですか?」
「そんなバカな。百合ちゃんは妹ですよ」
「そうは言いつつ、ドキドキはしたんでしょう!?」
「……」
「あー、黙るのはちょっと良くないですよ! どうなんですか!? ドキドキしたんですか!?」
「ん……んん?」
セシルさんが元気よく叫んでいた所、部屋の中でスヤスヤと眠っていたリンちゃんが少し体を動かして、むくりと起き上がった。
どうやらセシルさんが元気過ぎて起きてしまったらしい。
「……ふぁ」
「あぁ、おはよう。リンちゃん。今日も良い天気だね」
「……逃げましたね」
「何のことやら」
ジト―っとした目を向けてくるセシルさんの視線を流しつつ、俺はリンちゃんに話しかける。
リンちゃんは小さな手で瞼を擦りながら眠そうにしていたが、周囲をキョロキョロと見渡して、ここが何処か思い出した様だ。
「あぁ。リョウさん。怪我は治ったんですね」
「すっかりね。もう痛みは無いよ」
「嘘は良くないですよ」
「完全な嘘って訳でも無いですよ。血は出て無いですし」
「殆ど嘘ななら、もうそれは完全な嘘と変わりませんよ」
「そうかもしれませんが、世の中には言っても良い嘘という物があります」
「言っても良い嘘が例えあったとしても、この場の嘘は言ってはいけない方の嘘です」
「強情ですね」
「当然です。私は聖女として人を癒す為に活動しているのですから。その人に嘘を言われてしまったら、私は仕事を十分にこなす事が出来ません」
至極まっとうな話を向けられて、俺は素直に頭を下げて謝罪した。
流石に人の仕事を邪魔するのは違うかなと思うからだ。
「それにつきましては、大変申し訳ございませんでした」
「よろしい。……ですが、もう一個確認しなくてはいけない話があります。これは重大な話です」
「なるほど。なんでしょうか?」
「百合さんとはどこまで行ったんですか?」
「黙秘しますね」
「もう! 何でですか! 重要な話なんですよ!」
「では、山に山菜を取りに行きましたね」
「それはさっき聞きました!」
俺はセシルさんの叫びを流しながら、ズズズと味噌汁を飲むのだった。
うーん。旨い。