恐らくは百合ちゃんが作ったであろう朝食を食べ終わり、俺は一息ついた。
そして、朝食のお盆を横に置きながら食後のお茶を一口飲む。
「ごちそうさまでした」
「では持っていきますね」
「あぁ、いや、流石に自分で」
「何度も言っていますが、亮さんは怪我人なのですから、休んでいてください。百合さんに直接お礼を言いたいのは分かりますが」
「それが理由の全てという訳ではないんですが……まぁ、そうですね。じゃあ百合ちゃんにお礼を伝えていただけると嬉しいです」
「はい! お任せ下さい! こんなに美味しい味噌汁なら毎日飲みたいな。って伝えてきますから!」
「……自分で言いに行くんで良いです」
俺はよっこいしょと手を布団に付けながら起き上がろうとした。
しかし、ソレを見て、セシルさんも、ウトウトとしていたリンちゃんも焦りながら飛び込んでくる。
その結果。
俺の体に出来た傷が一部開き、俺は血を流して倒れてしまうのだった。
それから。
俺の傷が開いた事でセシルさんとリンちゃんが大騒ぎをして、騒ぎを聞きつけた楓ちゃんが部屋に飛び込んできて。
怪我人の部屋で騒ぎ過ぎだと、俺たちは楓ちゃんに怒られてしまうのだった。
何ともまぁ。なんともな結果であるが。
楓ちゃんのいう事が正しいので、特に俺からいう事は何もない。
「まったく、お主らは……少しは落ち着かんか」
「いや、申し訳ないですね。楓ちゃん」
「わらわは本当に心配したんじゃぞ?」
「泣いてましたもんね」
「それは言わんでいい事じゃ!」
セシルさんがクスリと笑いながら言った言葉に、楓ちゃんはバシッと言い返した。
そして、はぁと小さなため息を吐いてから、流れる様に俺の隣に座って、俺に倒れ掛かる。
甘える子供というには、勢いが無いが……やはり遠慮しているという事だろうか。
「亮は、あたたかいの」
「まだまだ俺は元気ですからね。そんなに簡単に楓ちゃんの前から消えませんよ」
「それは……まぁ、嬉しいの」
「えぇ。ですから。甘えて下さい。十分に」
「あぁ……うん。そうする」
楓ちゃんは少しだけ強く俺に抱き着いて、服に顔を押し付けながら泣いていた。
本当に心配だったのだろう。
申し訳ない事をしたと思う。
……やはり、もっと強くならなければいけないな。と俺は改めて思うのだった。
そして、楓ちゃんは泣いて泣いて、泣き疲れて眠ってしまい。
俺は楓ちゃんの背中を撫でながら、落ち着いた部屋の中で周囲を見渡した。
リンちゃんは少し涙ぐんでおり、楓ちゃんに釣られて泣いてしまったのかもしれない。
セシルさんは母の様に慈愛に満ちた顔で楓ちゃんを見つめていた。
酷く落ち着いた空間だ。
俺はホッと息を吐きながら、助かって良かったなと改めて思った。
生きてなければ、この様な状態にはならなかった。
きっともっと多くの人を悲しませてしまったのだろう。
「はぁ……強く生きなきゃなぁ」
「そうですよ。楓ちゃんを悲しませて。ちゃんと反省してください」
「はい。私も、無理は良くないと思います!」
「はい。身に沁みました」
俺は布団の上に座りながら二人に頭を下げた。
そして、セシルさんに食器をお願いし、俺はリンちゃんと軽く話をする事にした。
「悪かったね。リンちゃん。聞いたよ。ずっと癒しの力を使っててくれたんだって?」
「いえいえ! リョウさんが守ってくれたので、私たちは無事だったんです。このくらいは当然ですよ」
「そうかもしれないけど。俺は嬉しかったんだよ。だから、ありがとう」
「……はい。こちらこそです」
リンちゃんははにかみながら、ペコリと小さく頭を下げた。
そして、俺も軽く頭を下げてからリンちゃんと視線を向け合う。
「これから……どうしましょうか」
「俺は、というか俺たちはリンちゃんとモモちゃんに雇われてここに来てるからね。二人が願う様な行動をするよ」
「……!」
「例えば、ヤマトから脱出して他国へ逃げるという様な話でも……」
「いえ! 元勇者パーティーの一員としてはこの様な状況を見過ごす事は出来ません」
「うん」
「なので、私は、出来れば……解決がしたいです。楓ちゃんが悲しまない方向で」
「そっか。分かった。じゃあ俺もその方向で協力するよ。この事件、どうにかして解決しよう」
「そういう事なら、私も当然協力するわ」
「っ! モモちゃん」
「リョウさんの部屋の方が騒がしかったからそろそろ起きたのかなって思ってたけど、ピッタリだったみたいね」
モモちゃんは部屋の中に入ってくると、ペタッと畳の上に座って、笑う。
そんなモモちゃんに俺も笑い返して、いつもの様に会話を始めた。
「リョウさんの事だから、もう色々と解決手段は考えてるんでしょ?」
「確実じゃないけどね。ある程度有意義な作戦は考えてるね」
「おぉー。さすがっ! やっぱりリョウさんは信頼できるね。助かるよ」
「まぁでも、素人の考えだからさ。元勇者パーティーの方々の意見を聞きたいところではあるけれど?」
なんて、冗談の様に言ったのだが、リンちゃんとモモちゃんは顔を見合わせると困ったような笑みを浮かべながら首を傾げてしまった。
何だろうか。
思っていた様な反応とは違うな。
「うん。何か気になる事がある感じかな?」
「いえ……そういう訳じゃないんですけど」
「けど?」
「私達……というか、まぁ、主に戦いが担当だった二人がさ」
「うん」
「まぁ、作戦とか、あんまり得意じゃないタイプでさ。特にユウキは酷かったわ」
「ユウキっていうのは、勇者の称号を受け継いだ子の事ですね!」
「なるほど」
勇者だけに、勇気が強すぎて単独で突っ込んでしまったりするのだろうか。
まぁ、猪突猛進なタイプが一緒だと、確かにモモちゃんやリンちゃんはきついかもしれないな。
二人はどちらかと言うと、引っ込み思案な方だし。
「もう、本当にユウキは考え無しで、罠があるかもしれないー! とか、危険があるかもしれないー! って言ってるのに、大丈夫。大丈夫って笑いながら突っ込んで、危険な目に遭ってたの」
なんか思ってた感じと違ったな。
少しお気楽な感じの子なのか。
「ミクもねー。未来が視えるからって無理に前に出て、想定と違う何かが出てきて、あわあわしちゃうなんて事、何回もあったもんね」
「そうですね。懐かしい……って表現で良いのか分からないですけど、懐かしいです」
「あれ? 未来視があるから、大抵の事は大丈夫なんじゃないの?」
「それが、そうでも無いのよ。未来視って、確かに未来が何でも見えるんだけど、その人とか物とかを固定して見るから、変な話突然現れた人とかは視えてないから反応出来ない! みたいな事があるの」
「ははー。なるほど。思っていたよりも致命的な欠陥があるね」
「ミクも内緒にしてるから、他所では話して欲しくないけど……」
「それは勿論!」
「アリガト。……って、そんな感じだからさ。色々問題があっても前に出ちゃう二人のせいで、私たちは苦労してたってワケなのよ」
「それは、お疲れ様だね」
「まぁ、でもいざとなったらリンの癒しもあるし。私も目くらましして逃げるくらいは出来たから、何とかなったけどね」
「そう考えると、何だかんだ良いパーティーだったんだね」
「そうですね。それは間違いないです」
リンちゃんは微笑みながらハッキリとそう言って。
モモちゃんも、そうね。と言いながら小さく頷いていた。
「という訳だからさ。私たちも想定外の事態にはなれてるんだ」
「それは頼もしいね。二人には色々と頼みそうだ」
「はい! 遠慮なくお願いします!」
「私も。出来る事があるなら何でも協力するよ」
「ありがとう。じゃあ、楓ちゃんが起きたら作戦を立ててみようか」