さて。
元勇者パーティーという限りなく最高に近い仲間を手に入れた俺であるが。
「そういえばさ。二人って何か得意な事、ある? これから侍と戦う訳なんだけど」
「私は植物を操る事が出来るわ」
「私は傷を治せます!」
「なるほど」
なるほどであるが、なるほどである。
いや、意味が分からないが……まぁ、正直戦いには向かないのではないかというなるほどだ。
まぁ、正直、幼い見た目の二人を戦わせるのは抵抗があるので、戦闘に向いてない方が良いのだが。
ちょっとだけ戦力として期待していた俺としては複雑な気持ちである。
「あー。リョウさん。ちょっとガッカリしたでしょ」
「え!? いや!? そんな事ないよ!?」
「はいはい。誤魔化しても分かるから。ねー? リン」
「はい。しっかりと分かります!」
「あー、うん。それは申し訳ない」
俺は誤魔化すのも良くないかと素直に謝った。
そして、謝罪するついでに失礼をもう一つ重ねてみる事にした。
「さっき聞いた話だと、二人には後方をお願いする方が良いんだよね?」
「まぁ、今までならそうかもね」
「今までならって事は」
「そう! 私たちは今までの私たちじゃないって事よ」
「おぉー!」
俺は自信満々で言い放ったモモちゃんに拍手をしながら、これからのモモちゃん達を待った。
そして、二人はふふふと笑ってから、今までとは違うという所を教えてくれる。
「そう! 私たちは、長い間二人で旅をする間に、戦う為の術を見に付けていたのよ! その名も!」
「その、名も!」
「「魔術!」」
「そっか。じゃあ二人は後方支援って事で良いかな」
「なんでよ!」
先ほどまでの自信満々な様子はどこへやら。
モモちゃんは納得が出来ないという様な顔で叫んだ。
しかしまぁ、これも全て仕方のない事である。
「残念なんだけどさ。侍に魔術って効かないんだ」
「え」
「俺たちが持っている神刀って魔力を斬ることが出来るから。どんなに強力な魔術も意味が無いんだよ。全部切っちゃうから」
「そ、そんな……いや、まさか」
「まぁ、信じられないよね。だから実際に出来る所を見せようか」
俺は神刀を持ちながら立ち上がろうとしたが、モモちゃんとリンちゃんに止められてしまい、ひとまず神刀を置いて布団に入った。
そしてこうなっては仕方ないと、百合ちゃんを呼んで、実戦して貰う事にした。
「ごめんね。百合ちゃん。急に呼び出して」
「いえ。それは構わないのですが……」
「実は、神刀が魔力を断ち切れるってモモちゃん達が信じてくれなくてさ。実践して貰いたいなって思って」
「なるほど。分かりました。ではお相手しましょう」
「でも、リリィさん相手に魔術を撃つのは……ちょっと抵抗あるわよ?」
「大丈夫です。遠慮なく撃って下さい」
「そうは言ってもねぇ」
「もし、私が信用できないという事であれば、水の魔術等で濡れるだけの魔術とかでも大丈夫です」
「うーん。それなら……まぁ、良いか」
モモちゃんは微妙に納得が出来ないという様な顔をしてから、渋々といった様子で庭に向かった。
そして、正面に立つ百合ちゃんに手を向ける。
百合ちゃんは特に神刀を抜く事もなく、立ったままだ。
「じゃあ! 今から撃つわよー!」
「はい」
「……」
「……」
「あの! 今から撃つんだって!」
「はい。聞こえてますよ」
モモちゃんはおそらく百合ちゃんがまだ神刀を抜いていないから、抜いて欲しいのだと思う。
そもそも魔術が斬られるという事に懐疑的なのに、百合ちゃんが神刀を構えてすらいないのだから、それが気になるのだろう。
百合ちゃんもよく分かってないみたいだし、俺は外から声をかける事にした。
「百合ちゃん。モモちゃんは神刀を百合ちゃんが抜いてないから気になってるみたい!」
「あ! そ、そうだったのですね!」
「リョウさん。ありがと! 言いたい事言ってくれて!」
「いやいや、構わないよ。ただ……」
「ただ?」
俺が言葉を濁した為、モモちゃんは首を傾げながら俺の方を見た。
そして、俺の隣に座っていたリンちゃんも不思議そうな目を俺に向ける。
「百合ちゃんは緊張してるとかで神刀を抜いてない訳じゃないと思うよ」
「え? そうなの? 本当に!? リリィさん!」
「え、あ、はい。そうですね。ちょうど良いので、高速抜刀の練習もしようかと思いまして」
「こーそくばっとー?」
「はい。納刀している状態から、魔術の発動を見て、抜いて、斬ります」
「……」
そんなバカな。
と言いたそうな顔でモモちゃんは唖然とした顔を俺に向けた。
しかし、実際に可能な話である為、俺は首を縦に振って、大丈夫だよとモモちゃんに伝えた。
モモちゃんは俺の反応に半信半疑……というよりは8くらい疑いの感情を持っている状態で、ジィーッと百合ちゃんを見据える。
が、百合ちゃんは何も変わらず笑顔のままモモちゃんを見つめ返しているのだった。
「……はぁ。分かったわよ。じゃあ、濡れちゃっても知らないからね!」
「はい! よろしくお願いいたします!」
「行くわよ!」
「はい!」
「本当に行くからね!! えーい! 水の魔術ー!」
結構引っ張りながらも、モモちゃんは水の魔術でかなりの水を生み出して百合ちゃんに放った。
流石は元勇者パーティーという所だろうか。
百合ちゃんを飲み込む様な量で放たれたその魔術は、他の冒険者でも見た事のない程の量と威力である。
確かにこれなら、魔術を戦闘で使えるのだと豪語する理由もよく分かった。
だが、しかし。
それも魔物や普通の冒険者が相手なら、という話だ。
百合ちゃんは神刀を持った侍であり、神刀は魔術を……魔力を切る事が出来る。
「……っ!」
「え?」
百合ちゃんは、眼前に迫っている水の魔術に小さく息を吐くと、神刀に手をかけて鞘を滑らせながら、一気に抜いた。
そして、その勢いのまま、まずは横に神刀を振るい、水の魔術を縦に二分する。
その勢いのまま上から神刀を振り下ろし、十字に魔術を切り裂いてしまうのだった。
どれほど強大な魔術であっても、勢いのままに十字斬りされればその構成を維持する事は出来ない様で。
魔術は、魔術を斬った後、後方に軽く跳んだ百合ちゃんに届く事もなく、そのまま消えてしまうのだった。
初めから何も無かったかの様に。
「……え!? 消えた!?」
「はい。斬りました」
「嘘!? 本当に!? 本当に魔術を斬っちゃったの!?」
「はい。亮さん程ではありませんが、私もそれなりに神刀が使えますので」
「いや、それも驚きなんだけど! それもそうなんだけど! そうじゃなくて!」
「信じられない。という様な事でしょうか」
「それも、あるわね! いや、信じがたい光景ではあったけど!」
モモちゃんは完全に混乱しているという様な様子で百合ちゃんに向かって叫んでいた。
そんなモモちゃんに百合ちゃんは冷静な言葉で返事をする。
「信じられないという事ですし。もう一度やりましょうか」
「……それもなんか、どうなの? リリィさんは良いの?」
「私は勿論構いませんよ。私自身、もっと強くなりたいですし」
「そう……まぁ、そういう事なら、良いわ! 今度は本気で行くから!」
「はい! よろしくお願いします!」
余裕の笑みを浮かべたまま神刀を再び納刀する百合ちゃんに、対抗する様に闘志を燃やすモモちゃん。
二人は再び距離を取って、互いの姿を見据えたまま待ってた。
百合ちゃんはモモちゃんの魔術を。
モモちゃんは百合ちゃんに魔術を当てる隙を。
そして、二人は決闘をしているかの様な空気のままじっと見つめ合うのだった。
「行くわよ!」
「はい! いつでも大丈夫です! 来てください!」
「っ! いけ! 水の魔術!」
「……!」