異界冒険譚   作:とーふ@毎日なんか書いてる

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第250話『研究者という人たち(新しい仕事)

 ヤマトの……フソウを取り戻す具体的な作戦も決まり、俺たちはその時が来るまで百合ちゃんの家で静かな時を過ごす事となった。

 周囲に居る侍も、それぞれ野宿をしながらその時を待っているらしく、特にこちらを襲ってくる気配は無いらしい。

 それに、彼らは神刀を持っていない侍であり、実力はそこまででもないという事だ。

 

「神刀を持っていないって事は魔術が通用するって事じゃないの!?」

「そうだけど。わざわざこっちから戦いを仕掛ける様な事は無いからね」

「えぇー!? でも、本格的な戦いになる前に、相手の戦力は一人でも多く削るべきなんじゃないの?」

「好戦的だなぁ」

「慎重だって言って欲しいわ。何かあってからじゃ遅いから先に手を打とうって言っているんだもの」

「それで必要のない罠を踏んだらどうするの? 向こうだって逆に襲われる可能性だっていくらでも考えているだろうに」

「それは……!」

「前に勇者パーティーの人たちが酷かった。みたいな話を聞いたけど、モモちゃんも似たような感じだと思うよ」

「ガーン!」

 

 モモちゃんは俺の言葉に酷くショックを受けて、畳の上で両手を付いて項垂れた。

 相当にショックだったらしい。

 

「モモちゃん……! モモちゃんも同じだったんだね」

「ちがっ! 違うわよ! 今回は普段とは違う感じだからそわそわしちゃってるだけ!」

「普段とは違う?」

「そう! こういう風に、敵に囲まれてるけど何もしないで待つ。みたいな事、体験した事ないから……何か落ち着かないの!」

「あぁ、そういう……」

 

 俺はモモちゃんから聞いた勇者パーティーの行動を思い出しながら、なるほどと頷いた。

 聞いた話では、常に勇者の子とミクちゃんが暴走していて、モモちゃんとリンちゃんは諫める役目だったという。

 それならば、こういう追い詰められた状況でも、すぐに勇者の子やミクちゃんが突破しようと動き出していたのだろう。

 

 そして、それをモモちゃんとリンちゃんが止めながらも、暴走する二人に付いて行って、先行する二人の援護をしながら突破していたのでは無いだろうか。

 そうなると、今回の様に、静かにその時を待つ。という様な経験はしてこなかったのではないかと思われる。

 

「じゃあ、申し訳ないけど。今回が初めての体験、経験って事で、何とか乗り越えて欲しいかな」

「うぅー、そんな子供みたいな扱いはしないで欲しいわね。分かってはいるから。リョウさんの怪我も治ってないし。今攻めても不利になるだけだって、ちゃんと頭では分かってるから……!」

 

 うぅ……と唸り声を上げながら、モモちゃんは左右に揺れる。

 落ち着かないのだろう。

 まぁ、気持ちは分かるが、どうする事も出来ないし。今は揺れててもらうしかない。

 

「というか! なんでリョウさん達はそんなに落ち着いてるの!?」

「なんで、って言われても……まぁ、慣れているからかな。こうやってジッとその時を待つっていうのはさ」

「そうなんだ……!」

「うん。戦いだけじゃないけどね。ちょっと前に百合ちゃんとやってたけど、魔物の生態観察みたいなのもさ。状況だけ作って、何かが起きるまでジッと耐える。みたいな感じでやるから。待つのは慣れてるんだ」

「なるほどねー」

 

 モモちゃんは納得したと大きく頷いた。

 そして、一緒に話を聞いていたリンちゃんがニコニコしながら話に入ってくる。

 

「魔物観察って、何をやっていたんですか!?」

「あぁ、えっと、大型の魔物を狩って、肉を取った残りを放置して、それがどうなるか観察してたんだよ」

「残りって、骨とか皮とか内臓とか?」

「そう。そういう奴。セオストではさ。基本的に骨や内臓っていうのは砕いたり、バラバラにして木の根とかに埋めるんだけど……ヤマトではそれをそのまま放置するんだよね」

「へー」

「文化の違い。いえ、環境……魔物の生態の違いという事でしょうか」

「うん。基本的には文化の違いかなって思うよ。セオストだと中型以下の魔物が主に人間の食料とかで狩られるんだけど、ヤマトは大型の魔物だけが狙われるから、そもそも魔物の生態が大きく違うみたいでね」

「はーなるほど、中々面白そうね」

 

「そう。俺も面白そうだーって思ってさ。その辺りを調査してたんだけど、結局よく分からない事も多くてね。調査は途中で止まっちゃったんだ」

「魔物研究は難しいですからね。魔物は危険ですし。調査には時間もお金も掛かりますし」

「お金? って、何か設備を買うとか?」

「いえ。冒険者を雇うのにお金がかかるんです。普通の研究者は戦いに向きませんから」

「あぁ、まぁ。それはそうか」

「なので、リョウさんが今回発見した事は些細な事でも発表していただけると、魔物研究に役立つかもしれません」

「なるほど……じゃあセオストに戻ったら組合で報告してみようかな」

 

「それが良いと思います。もしかしたらその関係で研究者から護衛の依頼がくるかもしれませんしね」

「そういう事もあるの?」

「はい。基本的に研究者の方は神経質な方が多いので、粗暴な冒険者の方とだとトラブルになる事が多いんです。しかし、騎士を雇っても、野営や魔物対処がそこまで上手くない為、結局冒険者の方を雇って、トラブルが起きて……みたいな感じで困っているみたいなので」

「その点。リョウさんは自分から魔物研究を始めちゃうくらいの人だしね。人材としてはピッタリなんじゃないかしら」

「なるほどねぇー。そういう事もあるのか。あ、でも……どうなんだろう。自分でも言うのもなんだけど、俺への指名依頼って高そうだけど」

 

「それなら問題ないわよ。研究者なんてやってるのはお金と時間が有り余って、名誉が欲しい貴族の人ばっかりだから。お金なんて浴びるほどあるわよ」

「むしろ、争奪戦になるかもしれませんね。英雄クラスで一般依頼を受けていて、かつ研究にも興味がある方、ですから」

「それは……また厄介な話だなぁ」

 

 正直なところ、面倒な人たちに目を付けられるのは困る。

 俺は基本的に桜たちが安心して生きていける環境を作る事が目的だし、それ以外の事にそこまで情熱を燃やす事は無いのだ。

 研究は楽しそうだが、それの楽しさが桜たちよりも優先される事はない。

 

 あくまで趣味の範疇という奴だ。

 だから、趣味で本業が脅かされるのは好ましくはない。

 

「まぁ、そう言うと思ったわ。本当に厄介ごとが嫌いだったら、報告は匿名でって言えば大丈夫よ」

「そうですね。そうなれば、名誉が欲しいだけの貴族の方とかからは見つかりませんし」

「そうなんだ。それはありがたいね」

「あー、でも。魔物研究に命をかけている人とかは、匿名でも見つけようとしてくるから。そこは注意かも」

「うーん。それは困るね」

「大丈夫ですよ。そういう方々は人の繋がりを特に大事にしてますから。リョウさんの事情も考えてくれると思います。あくまで無理のない範囲での協力だけをお願いしてくるのでは無いでしょうか」

「なるほど……まぁ、そのくらいなら良いか」

 

 と俺は二人の話に納得し、頷いた。

 面倒ごとは困るが、新しい仕事が増えるのは歓迎だ。

 お金はいくら稼いでも困る様な事は無いだろうし。

 

 お金を沢山持っている研究者という事であれば、払いも良いだろう。

 ならば、後は交渉をすれば良いだけの話である。

 

「しかし、そう考えると結構おいしい仕事かもな……」

「ふふふ」

「やったね。モモちゃん!」

 

「うん?」

 

 俺の反応に、何故か笑顔で手を叩きあうリンちゃんとモモちゃんを見て、俺は首を傾げた。

 何か、今の話で喜ぶ要素はあっただろうか。

 

「実はー」

「私たちも研究者として活動してまして! しかもお金もいっぱい持ってるんです!」

「なるほど」

 

 なんで二人がこの話を振ってきたか、よく分かった。

 つまり、俺は勧誘されていたという事か。

 

「という訳で、その内また私たちの依頼、受けてね!」

「大丈夫です。リョウさんの事情は考慮していますから」

 

 二人の言葉に俺は両手を上げ、降参と言いながら受け入れるのだった。

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