セシルさんは、軽く一息ついてからゆったりと話し始めた。
ヤマトという国がどういう国なのかと。
「まず最初に、一番大事な事なのですが……ヤマトには王と呼ばれる様な人が居ないんです」
「え? では、楓ちゃんは」
「楓ちゃんは王というよりは神様みたいな位置でして……ヤマトにとって何よりも重要な人なのですが、ヤマトという国の運営には関わっていないのですよ」
「あ、そうなんですね」
「そうは言っても、居ないといけない人というのは確かなので……蔑ろにする人はいませんが」
「……なるほど」
「その為、国の方針は、十二刀衆と、上位文官及び、上位忍衆で行われます」
「話し合い……みたいな感じですかね?」
「一応、話し合いという体ではあるのですが、十二刀衆の方々も忍衆の方々も話し合いよりも強い方が正しいという考えを持っている方が多いですからね。文官の方々の意見があまり通らないという様な状況ではあります」
「それは……なるほど。と言う事は、どちらかというと過激な意見が出やすい環境という事でしょうか?」
「はい。西側諸国との和平や、国連への加盟という話が上がっても、拒絶する方が多いでしょう」
「うーん。なるほど」
これは重傷だ。
そんな状態じゃあ国連からの要請なんか全部跳ね除けてしまうだろう。
ミクちゃんの願いは叶わない可能性が高い。
どうにかしたいけど、ちょっとやそっとじゃ変わりそうにないしなぁ。
そもそも、戦闘力で高い人が上に立つという事は、ある程度強さが重要だと考えている人が上に立つワケで。
そうなると、他国や他勢力からの干渉なんてと、拒絶する人も多いだろう。
その結果、この鎖国みたいな武力国家が出来たという訳か。
「しかも……というのもおかしな話なのですが。ヤマトでは不定期で奉刀祭という祭りが行われておりまして」
「例の、最強の十二人を決めるという?」
「はい。そして、その最強の十二人がそのまま十二刀衆になりますので……」
「もしかして、今まで国を運営した事のない人がいきなりヤマトを運営する立場になったり?」
「しますね。しかも上位の強さを得る為に今まで修行ばかりをしてきた人が多いですから、政治の事が何も分からない子が参加したりもします」
「それで、大丈夫なんですか? ヤマトは」
「はい。一応相談役という方々が居ますから。過去に十二刀衆をやっていたり、文官をやっていたり、忍衆をやっていたりする方々ですね」
「あー、それが雷蔵さん達の言っていた老人たち、ですか」
「はい。そうなります」
ここまでセシルさんの話を聞いて、俺はちょっと今回の反乱について考えてしまった。
最初、何も知らなかった時は、時道さんにゃ瞬さんが可哀想だなという思いであったが、いざこういう話を聞いてしまうと、老人方の判断が正しかった様に思えてならないのだ。
ヤマトという国は、圧倒的な武力があったから、他国に侵略されずに済んでいるが、それもいつまで続くか分からない。
何故なら他国は技術的な発展もあるし、学術的な発展もある。
世界的な人口で考えれば、西側諸国よりもヤマトの方が人は少ないだろう。
いつまでヤマトが武力で優位に立てるのか、それは誰も分からないのだ。
そうなった時、ヤマトが世界国家連合に参加する必要が出てくるかもしれない。
しかし、もしその時が来たとしても、ヤマトの国内がバラバラでは話が始まらないだろう。
内乱をしている間に攻め滅ぼされれる可能性だってあるのだ。
だから、一代限りとかではなく、長くヤマトの政治に関わってきた者たちが多いであろう貴族家がヤマトをまとめ、今後起こりえる『その時』に備えて国を運営してゆく。
それが最も大切なのではないかと考えて居た可能性がある。
おそらく、そういう考えが強くなったのも、楓ちゃんの家族が亡くなっている事が理由の一つにあるだろう。
先ほどセシルさんは楓ちゃんを神様みたいな位置と言った。
政治には関わらないが、ヤマトにおいて最も大切にされている場所。
その、そんな場所に居た人が、命を落としたのだ。
ヤマトという国がこのままで良いのか、と老人たちは外の国の変化も一緒に考えて、まとめなくてはいけないと考えたのでは無いだろうか。
「……今のお話。聞けて良かったです。セシルさん」
「亮さんのお役に立てたのなら、良かった」
ふわりと微笑むセシルさんに頭を下げながら、俺はフソウの城を見据えた。
そして、セシルさんに向き直る。
「俺は、今回の反乱について……完全に時道さんとは違う意見を得ました。時道さんの考えには賛同できませんね」
「……一応お聞きしても良いですか? その意見を」
「はい。正直なところ、俺は今回の事件に関して、老人方……相談役の人たちが正しかったと思うんですね」
「なるほど」
「だから、それを実力で排除してしまった時道さんには賛同できないですね」
「亮さんは、何故相談役の方が正しいと思ったのでしょうか? 彼らの行動で二人が戦えなくなった事は事実ですし。ヤマトの人間では無いからと蔑まれている子も居ます」
「無論、色々な問題はあったと思いますし。全てが完璧だったとも思いません。でも、今一番大事な事は何でしょうか?」
俺は既にセシルさんは分かっているであろう事を改めて問いかけた。
しかし、あくまで話しているのは俺である為、その言葉の真意は俺が拾ってゆく。
「今一番大事なのは、楓ちゃんです。彼女はこのヤマトで唯一代わりとなる人がいない子です」
「……えぇ、そうですね」
「だから、彼女を護る事に今は集中するべきなんです。瞬さんと時道さんの争いで、もし仮に瞬さんが勝った場合、ヤマトは混乱する。そうなれば、その隙に西側諸国から攻撃されるかもしれない。そうなれば最も守らなければならない人が危険に晒される。そうでしょう?」
「はい。そうですね。私も亮さんと同じ意見です」
「良かった……まぁ、セシルさんはきっとそうだろうなとは思っていましたが」
「では、こういう方向性で時道さんを説得する方が良さそうですね」
「いや。もっと簡単な話があるぞ」
「っ! 雷蔵さん。起きてたんですね」
「ったりめーだろう。姫様やセシル様が居るのに、呑気に寝る事はねぇよ。アレは姫様を寝かせたかっただけだ」
「なるほど」
「んで、瞬と時道の話だがな。もっと分かりやすい話があるのさ」
「それは……?」
「瞬の目的だ」
「瞬さんの、目的……」
「そうだ。瞬の奴は、ヤマトを護る事以上に、自分が母親を殺す事になった原因である天霧家の先代当主を探す事に人生かけてんのさ」
「……」
「もし、奴を殺す事とヤマトを救う事なら、あいつは迷わず殺す方を選ぶだろう。それだけ、奴の復讐心は強い」
「……でも」
「あぁ、分かってる。皆までいうな。瞬はそこまで冷たい男じゃないって言うんだろ? 分かっているさ。俺が何を言おうと、アイツはヤマトを守る為に行動するかもしれん。だがな、頭で何を考えようと、心ではまだ復讐に囚われてんだよ。それは間違いない」
「それは……分かります」
「だからこそ、ヤマトに留まれない男に、睦月を託すワケにはいかねぇんだ。だから、あの勝負でもし瞬が時道に勝った場合、アイツはヤマトという国を出て行っただろうと思う」
「そうですね」
「そうならない為に、ジジイ共が考えたのが、前回の祭りってワケだ。しかし、それも全て無駄になったがな」
雷蔵さんは体を起こしてフソウを見つめながら呟いた。
無駄になった、か。
いや、まだ完全に無駄になった訳じゃないだろう。
「それでも、まだ終わりじゃない。と俺は思います」
「まぁ、そうだな。それも確かにそうだ」
「ふふ。気持ちが強く前を向くのは良い事ですね」
セシルさんが俺と雷蔵さんの真ん中で微笑み、そして、顔を上げて東の空を見やった。
「夜明けですね」
「えぇ。では……始めましょうか。俺たちの、戦いを」