フソウの城へと攻め込んで、まずは一階と二階にいた侍を全員無力化する事に成功した。
流石にいきなり最大戦力を置いておく様な真似はしなかったらしく、一階と二階にいた侍たちはそれほど強い者達では無かった。
しかし、ここまでは俺と雷蔵さんだけでも十分に対処できる敵ばかりであったのだが、ここから先はそうそう簡単には倒せないだろう。
「亮」
「はい」
「まぁ、お前も分かっていると思うが、お遊びはここまでだ」
「そうですね」
「ここから先に出てくる連中は神刀を持っているのが当たり前の連中だ。十分に気を付けろよ」
「はい。分かりました。雷蔵さんも」
「ハッ! 誰に言ってやがる。俺はこの国で最強の男だ。何も問題はない」
雷蔵さんは俺の言葉に笑うと、立ち上がり次の階へ行く為の準備をする。
それを見て、俺も立ち上がり、神刀を抜くのであった。
「あれ? リョウさん。もう上に行く感じ?」
「そうだね」
「じゃあ、私も一番前で戦おうかな!」
「んー。モモちゃんは楓ちゃん達の護衛かな」
「えー!? 約束が違う!」
「約束じゃあ、上から敵が下りて来た時、でしょ? 来なかったんだからモモちゃんは後ろ」
「むー! ズルい!」
「そう。大人はズルいんだ」
「言っておくけど! 私の方が年上だからね!」
何か前にも聞いたことのある言葉だなぁと思いながら階段に向かっていた俺は、そうか。ミクちゃんの言葉かと思い出した。
なるほど同じパーティーの人間というのは言動も似て来るものなんだなぁ。と少しばかり感動した気持ちになる。
そして、そんなどうでも良い事を思い出しながらも、三階へと足を踏み入れて周囲を見渡した。
「……いませんね」
「隠れてるって事はねぇだろうが……まぁ、格好つけてるんだろうぜ」
「フン。その様な低俗な物ではないわ」
「おぉ、居たのか。オッサン」
「物言いは気に入らんが、お前たちは確かな実力者だ。ギリギリまで己の力を高めていたのよ」
「そうかい。無駄な努力をご苦労様だな」
「……いくぞ!」
「来いよ。オッサン!」
軽快な言い争いをしてから雷蔵さんは現れた壮年の侍とどこかに消えてしまった。
俺はといえば、雷蔵さんと消えた人ほどではないが、それなりに実力者である神刀使いと戦う事になった。
振り下ろす刀は鋭い物ばかりで、油断すれば斬られてしまうだろう事はよく分かる。
しかし、まぁここまで来ておいて油断も何も無いので。
俺は冷静に相手の神刀を砕き、意識を奪って戦闘不能にしてゆくのだった。
「ぬぅ! 雷蔵だけでなく、こちらもやるのか!」
「誰ぞおらんのか!」
「駄目だ! 皆雷蔵の方に行ってしまった」
「あぁ、なるほど。それは申し訳ない事をしたなぁ」
そこまで強い人が出てこないなとは思っていたが。
まさか、強い人たちはみんな雷蔵さんの方に行っていたとは。
雷蔵さんには申し訳ない事をしたと思う。
しかし、計画通りに進むのであれば時道さんの相手は俺がする事になるし、道中くらいは楽をさせて貰うか、と切り替える。
そして、抵抗しようと神刀を構えている侍たちに向かって俺は突撃するのだった。
それから。
それほど時間をかけずに俺は雷蔵さんが引き受けてくれた侍以外の全てを戦闘不能にする事が出来た。
「ふー。こんなモンか」
「お前も終わったか。思ったよりも早かったな」
「えぇ。まぁ。主力は雷蔵さんの方に全員行っていたらしいので」
「あん? そうなのか。あんまり違いが分からなかったぜ。雑魚と雑魚の些細な差なんてよく分からないからな」
「また襲われちゃいますよ」
「へっ、何を恐れるもんかね」
ひとまず雷蔵さんと軽く状況の共有をしてから俺たちは三階に楓ちゃん達を呼び寄せた。
ここまでかなり順調に進んでいるが……まだ本命は姿を見せていないし。
まだ前哨戦の様な物である。
が、相当数の侍を倒してきた為、流石にそろそろ人が居ないのではないかと思う所だ。
「階層としては、あと二つですね」
「そうじゃな。しかし……戦える程に広い場所はここくらいじゃろうし……ここから先は時道がいるだけじゃないのか?」
「いえ……まだいますね。しかもとびきり厄介な奴が」
雷蔵さんが呟いた言葉に楓ちゃんは誰だろう? と首を傾げた。
俺やモモちゃんリンちゃん、百合ちゃんは初めから分からないので黙っていたのだが、不意にあぁと思いついた様にセシルさんが口を開く。
「なるほど。宗介君と和葉さんですね」
「はい」
「えぇ!? 宗介と和葉が!? 反乱に加わったのか!?」
「はい。おそらくは……というかほぼ確定でそうですね」
「そうなのか……二人も今のヤマトが嫌いであったのか」
「嫌い。というのは正しくないと思います。奴らは颯を弟の様に、子供の様に可愛がっていますからね。変えたいのでしょう。今のヤマトを」
「じゃが、颯はわらわも仲良くしておるし、颯もそれが嬉しいと言っていた。それでは駄目なのか?」
「そうですね。残念ながら。姫様が認めて、受け入れて下さっても、ヤマトの中にはよそ者を嫌う者は多いですから」
「そうか……悲しいのぅ」
「しかし、まぁ。今回の件でまた少しですが変わるとは思います。いきなり全てが変わる様な事は無いでしょうが……少し、変わるでしょう」
「少し、か」
「えぇ。少しですよ。人はそれほど今までの考えや行動を変える事は出来ませんからね。少し。少し。それを重ねて大きな変化を作ろう。という話ですね」
「長い道のりじゃのう……」
「まぁ、そうですね。しかし、少なくとも今回の件で、古いままでは新しい世界に生きる者たちが変えようとしてくる。という事を民衆は知りましたからね。表面上は大きく変わるかもしれません」
「そうだと良いな」
「えぇ、本当に」
反乱を起こした人が相手でも、楓ちゃんは優しくその後の事を心配して心を砕き、未来が明るいと知れば笑顔を零していた。
本当に優しい子だ。
良い子だと思う。
だからこそ、今回の反乱をこれ以上荒らすことなく、静かに決着する事が俺に求められた役目だ。
「雷蔵さん」
「なんだ?」
「そろそろ上に行きますか?」
「あぁ、そうだな……と言いたいところだが」
「だが?」
雷蔵さんは俺から視線を外して、百合ちゃんへと向き直る。
そして、ふむと頷いてから再び口を開いた。
「柊木百合と言ったな
「は、はい!」
「お前の噂は聞いたことがある。なんでもガキの頃から十二刀衆に入れる程の実力があったそうじゃないか。とは言っても、今もまだガキだが」
「え!? い、いや! 私は、その様な! 評価は!」
「なんだ。姫様の為に働く事が不満なのか?」
「いえ! その様なことは!」
「ならば要らない謙遜はするな。少なくとも立ち回りを見ていれば、お前がそれなりに動けることは分かる」
「な、なるほど……」
「それで、だ。ここから先に居る侍は……おそらく後三人だ。神藤時道、高坂宗介、桐生和葉。全員が全員、ヤマトの頂点に立つ連中だ」
「は、はい……! お名前は伺っております」
「亮には時道の相手をしてもらう。そして、俺は宗介と和葉の二人を相手にしようかと思ったんだが、流石の俺でもあの二人を同時に相手するのは難しい。負けることはないだろうが、逃げられる可能性がある」
「……!」
「そこでお前には俺と一緒に宗介和葉が時道の援護に行かない様に戦って貰いたい」
「はい! って、えぇぇー!? わ、私がですか!?」
「他に誰が居るって言うんだ。お前しかいない。お前がやれ」
「えっ! でも、でも! 私は」
「お前がやらなきゃ最悪亮が死ぬ。それでも良いのか?」
「そ、それは……!」
百合ちゃんがチラリと俺の方を見た。
いや、流石に嫌がっている子にやらせるのは……!
と思って止めようとしたのだが、百合ちゃんはそれよりも早く両手を握りしめて、頷いた。
強く、輝く様な瞳で。
「や、やります! 怖いですけど! やります!」