さて。
ヤマトでの事件を解決する代わりに、大怪我をしてしまった俺であるが、ヤマトの支配者である姫巫女様こと楓ちゃんから絶対安静を言い渡された為、俺はやる事のない日々を送っていた。
いや、ホントに、ビックリするくらいやることが無い。
「……暇だね」
「そうですか?」
「まぁ、体を鍛えるのも、本を読むのも、散歩も何もかも禁止されればね。暇にもなるよ」
「そういうモノですか」
俺の訴えに、百合ちゃんは興味が無さそうに呟いた。
心底どうでも良いという様な感じである。
段々と扱いが雑になってきたような感じだな。
まぁ、別に良いけれども。
「あら。亮さんはまた我儘を言っているんですか?」
「えぇ。そうなんです」
「本当に困った人ですねぇ。お暇なら神樹でも見れば良いじゃないですか」
「まぁ、それはそうなんですけどね。流石に三日も見ていると飽きるな……と」
「何年見ても飽きませんよ。こんなに綺麗なんですから」
と、セシルさんは言いながら咲き誇る桜の木に視線を移した。
ここは、以前にも訪れたが霊刀山近くの神樹と呼ばれる桜の木がある秘密の庭である。
そして、俺は一応護衛という名目で桜の木がある庭に来ていた。
まぁ、護衛と言うか。
俺を一人にすると何をしでかすか分からないから見張り。
みたいなモノだ。
だから、隠れ家である小さな茶室で大きな木の柱に寄りかかりながら神樹の傍で神樹が弱った原因について考えているモモちゃん達を見ていた。
「リンさんとモモさんの調査の結果も合わせますと……神樹が弱っている原因は魔力でまず間違いないと思います」
「でも、この辺りの魔力は十分に満ちてるわよ? 足りなくなるって事は無いともうのだけれど」
「この辺りに原因と思われる物は無かったですし」
「いえ。魔力が欠損しているのではなく私は過多なのではないかと考えています」
「「魔力過多!?」」
「はい。以前、ヴェルクモント王国で異常な成長をした魔樹がありまして、調査したところ、外部は急成長していたのに、内部は腐っていたんですね」
「そうか。魔力を吸ってそれで花を咲かせたり、成長させたりは出来るけど、そもそも大きな魔力を蓄えるだけの容量が無いから、逆に蝕んじゃうんだ」
「はい。消費以上の魔力を得ると溢れて逆に木を傷つけてしまうようですね」
セオストでも一度会ったことがあるが、今、世界で一人しか居ないという聖女のミラ様と、モモちゃん、リンちゃんの会話をそれとなく聞きながらふむ。と思考する。
彼女たちの話しているのは、要する水と植物の関係みたいな話か。
水をあげないと植物は枯れてしまうが、あげ過ぎても腐ってしまうのだ。
遥かな昔にアサガオの自由研究で水をあげ過ぎて枯らしてしまったなと思い出しながら懐かしい気持ちになる。
「なるほど」
「え? 亮さん。今の会話がどういう事か分かったんですか?」
「まぁ、それなりには」
「す、すごいですね……! 私はそうなんだなぁ。くらいしか」
「まぁ、同じ様な感じで植物を枯らした思い出があるからさ」
「あら。もしかしてアサガオ、ですか?」
「よく分かりましたね」
「まぁ、私も昔似たような経験をしましたから」
聖女様でもそういう失敗をするんだなぁ、なんて思いながらキラキラと輝く様な視線を送ってくる百合ちゃんから目を逸らす。
そんなに偉大なモンでもないんだよ。
ただ、失敗しただけの話だからさ。
しかし、どういう失敗なのかと語るのが難しかった為、俺は曖昧に笑みを返すのだった。
そして、再びモモちゃん達の会話に耳を傾ける。
「でも、こんなに早く原因を特定しちゃうなんて、流石は天才聖女様よねぇ」
「本当ですねぇ」
「いやいやいや! これも全てモモさんとリンさんが原因を特定してくれたお陰なので! 私なんか最後の良い所を取っていっただけですよ!」
「その、最後の良い所を私たちは見つけられなかったんですよ。聖女様」
「それに関してもただの偶然じゃないですか! 偶然私がその事例を知ってただけですよ! 皆さんで! 皆さんの頑張りの成果にしましょう!」
「まぁ聖女様がそう仰るのでしたらー!」
「聖女様の仰るままにー」
「あの!? リンさんも聖女様ですよね!?」
「どうでしょう。覚えてませんねぇ」
「もう! リンさん!!」
ミラさんはプンプンと怒りながらモモちゃんとリンちゃんに訴えていた。
しかし、二人はハハハと笑うばかりで、ミラさんの話を流してしまうのだった。
力関係かなぁ。
それから。
調査を始めてそれなりに時間が経っていたため、休憩しましょうとセシルさんが言い、三人も茶室で休憩する事になった。
何もしていない俺も、何故か休憩している。
まぁ、良いけれども。
「でも、本当にリンさんとモモさんは凄いです。私が前に来た時は、原因も何も分からなくて、楓ちゃんにごめんなさいをしたんですけど、こんなにすぐ答えを見つけるだなんて」
「いや、さっきも言ったけど私達は原因の特定までは出来てないからね? 魔力が原因だって分かっただけだから
「それに。足りないせいだ! って決めつけて、グルグル意味のない調査をしてしまいましたしね」
「いや、でもそれはー!」
「でも、逆にさ。モモちゃん達が魔力喪失の可能性をこれでもかって調べたから、別の原因にすぐたどり着けたんじゃない?」
「そう! それ! 今、リョウさんがとても良い事を言って下さいました!」
「ちょっとーリョウさんー? リョウさんは私達よりもミラさんの味方なの?」
「まぁ、年齢の差で考えれば年上よりも年下の子を味方したいかな」
「もー! ホントに妹狂いなんだから……!」
「いや、別にミラさんの事を妹として認識して庇ってるわけじゃないからね?」
一応間違いを訂正しつつ、俺は自分の考えを語る。
「俺もさ。ちょっと長めの休息を貰ったから、魔物の研究なんてやったけど、一番大事なのは可能性を潰す事だと思ったんだよね。最初は無限に可能性があるからさ」
「そうね。それは正しいわ」
「そう。だから、最終的な答えを出す事も、勿論大事だけど、その途中で色々な研究を重ねて可能性を潰して、答えまでの道を作った人もまた、偉大だと思う訳だよ」
俺の演説に、ミラさんは首が取れそうな勢いで上下に振っている。
しかし、モモちゃんとリンちゃんはどこか不満そうであった。
いや、俺より年上だって言ってたんだし。この辺りは飲み込んで貰いたい物だけれども。
「でも、研究界隈じゃあ結果を出した人が一番偉いからさ」
「諦めないねぇ」
「そりゃそうでしょ。こっちとしては何も分からない! 原因不明! って投げ出した所に颯爽と現れて答えを出してくれたんだから。英雄みたいなモンよ。リョウさんだって、魔物研究でわけわからん! ってなってた所に、こういう事じゃないかな! って言ってくれる人が居たら、凄い! 英雄! ってなるでしょ?」
「まぁ、確かに。そう考えると今回はミラさんの功績か」
「えぇー!? リョウさん!?」
「残念だけどね。やっぱり結果を出した人が一番偉いよ」
「いやいや! まだ! まだ何かあると思うんです! まだ何かー!」
ミラさんは必死に抵抗をしたが、多数決という暴力に勝てず、そのまま屈してしまうのだった。
何とも悲しいお話である。
そして、無事神樹の不調の原因が分かったという事で、楓ちゃんに報告し、解決する為にはどうすれば良いか。
という話し合いへと移行する事になったのであった。
これで、ヤマトに来た依頼の半分は達成された事になり、しかもここからの対策はそこまで時間がかからないという事で、俺たちもようやくセオストへ戻る可能性が見えてきたのであった。
何だかんだ、時間はそこまで掛かっていないが非常に濃い依頼だったなと改めて思う。
これ以上何も起こらない様にと祈るばかりだ。