「ふむ。そうか。魔力が多すぎて調子が悪くなっておった、か」
「はい。なので、内部に溜まっている魔力を散らす事でひとまずは解決ですね」
「おぉー。もう解決策も出ているのか。流石じゃのう!」
ニコニコと嬉しそうに微笑む楓ちゃんを見ながら、俺もほっこりとした気持ちになった。
思い悩んでいた事が解決するというのは非常に良い事だ。
ヤマトという国は色々と心配事が尽きなそうだし。
問題は少しでも少なくなれば良いと思う。
「ですが、これはあくまで一時的な措置なので、こういう風にならない様にする対策は必要かと思います」
「対策か……すまんが、わらわはあまりこういう事に詳しく無くての。何かいい案はあるかの?」
「うーん。そうですねぇ。一番簡単なのは、神樹を囲って与える魔力を制限する。とかなんですけど」
「うーむ。それでは、神樹の役割を果たせんからのう」
「そうですよね」
俺はふと楓ちゃんが呟いた神樹の役割という言葉を聞いて、静かな声でセシルさんに聞いてみる事にした。
「神樹の役割って何ですか?」
「神樹は、世界中の夢を集めて、それを願いという形にして放出する役割を持っているんです」
「……なるほど?」
さっぱり分からない。
どういう事だ?
「ふふ。ちょっと分かりづらいですよね」
「そうか。亮は神樹の事を知らなかったのか。すまんな。説明しよう」
「あ、いや! 話し合いを止める気は無くて! て申し訳ないです!」
「気にするな。どの道、色々な意見が欲しいのだ。意見が出せる者は多い方が良いじゃろう」
「そ、そういうことであれば」
俺は納得し、頭を下げながら楓ちゃんの話を待った。
そして、楓ちゃんはどこから話そうかのうなんて言いながら、ゆっくりと一つずつ語り始めた。
「そもそも神樹とは、この世界の木では無いんじゃ」
「え、そうなんですか?」
「あぁ。ヤマトを建国した神がな。神の世界より運んできた木なんじゃよ。確か……神の世界では『桜』と呼ばれていたそうじゃ」
「……桜」
「やはり、亮も知っておったか」
「まぁ、名前とか、何となくの姿とか、そういう物だけですけどね」
「いや、それはわらわも同じくらいじゃから……特に何も言えんのじゃが。しかし、亮が知っておるという事は、本当に神の国には神樹が存在しておるんじゃなぁ」
「そうですね。俺が知っている限りでは、かなりの数がありますよ。それこそ一面を埋め尽くす程に神樹が咲き乱れている場所もあります」
「おぉー! それは神秘的じゃのう。いつか、行ってみたい物じゃ。神の国」
うんうんと楓ちゃんは頷きながら、真実、心の底から楽しみだとでもいう様に遠くを見た。
しかし、まぁ。流石に楓ちゃんを俺の生きていた世界に連れていく事は出来ないだろう。
「っと、大丈夫じゃよ。亮。分かっておる。わらわ達は神の国では生きてゆけぬ。そうであろう?」
「えぇ、そうですね」
「まぁ、その辺りは残念じゃが、世界の摂理とはそういう物なのじゃろうなとは思うのう」
「はい」
「っと、まぁこんな話は良いんじゃ! 今は神樹の話をする場所!」
楓ちゃんは両手をパンと叩いて、笑顔を浮かべてから続きを話し始めた。
「それで、神の国から持ってきた神樹を神様たちが、この世界を支える為の物として、神樹としたんじゃ……って、これじゃうまく伝わらんの」
「では、私が補足させていただきますね」
「すまぬが、頼むぞ。セシル様」
「えぇ。お任せください」
セシルさんはこの場にいる全員が見えるように座ると、コホンと一回咳払いをしてから語り始めた。
「世界には奇跡が満ちています! と言うと、少々危うい思想の様で嫌なのですが……まぁ真実なのでその言葉通りに受け止めていただければと思います」
「奇跡とは、その言葉の通り、理から外れた特殊な力の事です。人はコレを『魔法』と呼んだり、『神の奇跡』と呼んだりしました。しかし、その力は万能のモノでも、安定している物でもありません」
「大きすぎる力は人には制御が出来ない物です。想いや願いを抑える事が出来ない様に、心に応えて動く力など害悪でしかありません」
「……だから、力をある程度制御している?」
「その通りです。願いのままに力を与えるのではなく、力を制御しながらうまく世界のバランスをとっているという様な形ですかね」
「セシル様のお話だと、もしかして、願いがそのまま叶わない人が居る可能性もあるという事でしょうか? バランス、とかが崩れてしまう場合」
「勿論ありますよ。全ての人の願いが叶う訳ではありません。神樹である程度制御しています」
「それは、なんだか悲しい話ですね」
ミラさんが呟いた言葉に、俺は一応突っ込んでおいた。
余計なお世話かもしれないけど。
聖女とかだと、この世はみんないいひと。みたいに思ってるかもしれないし。
「でも、叶わない方が良い願いってのもあるからね。その辺りは制御してくれている方が良いんじゃないかな」
「えぇー!? その様な! そんなものは無いと思うんです! 願いというのは!」
「綺麗な物ばかりじゃないと思いますよ」
「っ!」
「例えば、ミラさんに命を救われて、ミラさんの事が好きになって、どうしても自分の物にしたいから、そう願うとかね。もしそれが叶えばミラさんの気持ちを踏みにじって、その誰かの願いだけが叶う訳だ」
「それは……確かにそうですね。私もお慕いしている方がいるので、そういうのは困ります」
「そう。だから、ある程度願いは制御する必要はあるって話なんだと思うよ。それに……多分、ミラさんが気にしている様な純粋な願いはきっと、踏みにじられない。そうでしょう? セシルさん」
「はい。言いたいことは殆ど亮さんに言われてしまいましたが、自分だけの都合で人の運命を大きく変えるような願いは弾かれる可能性が高いですね。しかし、ミラさんが気にされているような、誰かを救いたいという様な願いは奇跡となる可能性が高いです。ミラさんにも覚えはありませんか? どこからか何かに呼ばれた様な気がして、向かってみたら、そこに苦しんでいる人がいた。という様な経験は」
「っ! あっ! あります!!」
「では、おそらくそれが神樹からの導きです。救いたいという想いに反応して、あなたに声を届けたのです」
「あれが……!」
ミラさんは何かを感じたのか、それを両手で抱きしめた。
そして、目を閉じて、小さくなるほどと呟く。
「という訳なので、この世界には神樹が必要不可欠という訳です」
「なるほど」
「そうなると、今回の神樹の不調は、その願いがいっぱい集まりすぎてしまったからという事なんでしょうか?」
「いえ。願いと魔力はまた別物ですね。魔力はあくまで神樹が自然と集めているもので、願いを制御するのは神様が仕込んだ事なので」
「なるほど別なのか」
そう考えると難しい話だ。
そもそもなんでそんな魔力が集まる様な事になったのかも分からないし。
「今回、魔力が集まりすぎた事の原因とかって分かっているんですかね?」
「いえ。私たちもサッパリ」
「うーん。楓ちゃん達も、その辺りはよく分からないんですよね?」
「そうじゃのう。魔力が集まる様な事は……よく分からんのう」
「そもそもの話なんですけど。魔力が集まるのってどういう時なんですか?」
「魔術をいっぱい使うとか」
「ヤマトじゃ起こらなそうですねぇ」
「大規模魔術を使うとか……?」
「同じくヤマトでは起こらんな」
「後は……近くで大型の魔物をいっぱい狩るとか」
「……」
「……」
「……」
「「「それだぁ!!!」」」
俺は思わず大声を上げながら、ミラさんに向かって立ち上がって……傷が開き床に座り込んだ。
「亮さんは大人しくしていてください!」
「いや、その通りなんだけど……なんか理不尽を感じるなぁ」