さて。
原因の可能性……というかほぼ確定と思われるが。
まぁ、原因が分かった!
「原因は侍による魔物の大量狩りですね」
「いや、まだ確定しておらんから……まぁ、おそらくそうじゃろうとは思うが」
「まぁ、そうですねぇ。申し訳ないですが、私もそうだろうなと思ってしまいました」
「わ、私も……!」
俺の意見に楓ちゃんは微妙に自信のない反対意見を出していたが、セシルさんと百合ちゃんは大きく同意な様だった。
という訳で早速犯人捜しである。
「ではまずは聞き込みですかね。霊刀山辺りで魔物を大量に狩っていた人を探しましょう」
「うーむ」
「うん? どうしたんですか? 楓ちゃん」
「いや、一人、凄く心当たりがあってのぅ」
「なんと、では早速その人から行きましょうか」
善は急げとばかりに俺は楓ちゃんにその人の名前を聞き出そうとした。
が、正直な所、俺にも何となく心当たりがあった。
つい先日まで戦いの中に生きていた人。
今の世界に、自分の実力に納得出来ず、おそらくは日々力だけを求めていた人。
「いや! しかしな! 奴も悪気は無かったと思うんじゃよ! 魔物の数が増えすぎるとマズいからと魔物を積極的に狩っていただけで、働き者の」
「時道さんですね?」
「う……」
「やはり。時道さんですか」
「まぁ、正直想像できた事ではありましたね」
やや呆れたような声を漏らしながら、セシルさんが小さくため息を吐く。
しかし、楓ちゃんはまだ分からない! まだ!
と必死に時道さんを庇っていた。
優しい子だ。
だが、現実と言うのは非常に残酷であると俺は思っていた。
なので……。
「時道さん。あなたに魔物狩り過ぎの疑惑がかけられています。正直に話して下さい」
「何の話だ?」
「とぼけないでいただきたい。証拠……は無いですが、証言は上がってるんですよ」
「ふむ? そんな事は無いと思うがな?」
「本当ですか? つい、普段よりも多く魔物を狩ってはいませんか?」
「そう言われると難しいな。適量というのがよく分からんが」
「時道。わらわは信じておるからな!」
「それは嬉しいですが、そう仰っている事自体が、疑っていると言っている様な物ですね」
「自首しましょう。時道さん」
「聖女様は完全に私を疑っていますね?」
首を傾げ、不思議そうな顔をする時道さんに、俺は一個ずつ丁寧に説明した。
現在ヤマトの神樹に起こっている事。
そして、原因と思われるのが魔力過多なのだが、その原因となり得るのが魔物の大量狩りである事を。
「ふむ。なるほど」
時道さんは腕を組みながら俺に言われた言葉を考えて居る様に見えた。
そして、しばらくしてから目を開くと大きく頷いた。
満面の笑みで、だ。
もしかして犯人は時道さんでは無かったのだろうか。
「そういう事であれば、犯人は俺であろうな!」
「時道さんなんじゃないですか!」
「あぁ、そうだ。俺以外にはおるまい。あの辺りの大型の魔物は殆ど狩り尽したからな」
「なんてことを……」
「しかし、住民への配慮はしていますよ? しっかりと狩った魔物の肉は住民に配ってきましたし」
「じゃが、それで神樹への影響が出ておるじゃろうが」
「まぁ知りませんでしたからね。次からは気を付けますよ」
時道さんは仕方ないのだ。という様な態度で、肩をすくめた。
そして、楓ちゃんに謝罪してから改めて、気を付けると告げるのだった。
それから、俺たちは原因も分かったという事で再発防止策……は、楓ちゃんにお願いするとして。
ひとまずは神樹の回復を急ぐ事とした。
「では、神樹の内部に溜まった不要な魔力を排除してゆきたいと思います」
「おぉ、頼むぞ」
「魔力を排除するには神樹から直接魔力を使って何かしらの魔術を行使するのが良いかと想うので、百合さんも協力していただけますか? あと、セシル様も」
「わ、分かりました!」
「はい」
そして、リンちゃんを中心にして、モモちゃんミラさん、百合ちゃんセシルさんで神樹を囲む様に立ち、それぞれ手を神樹に付けて目を閉じる。
俺は楓ちゃんと一緒に茶室からその光景を見て、ほぅと小さく声を上げた。
「何の魔術にしましょうか」
「水か風ですかね。植物なので火の魔術や土の魔術は避けた方が良いと思います」
「あ、でも私とリンは水の魔術使えないんだけど」
「であれば、私に意識を向けて下さい。魔術を使う時の感覚のまま私の作る流れに乗る様な形で」
「えっと? ちょっと待ってくださいね? セシル様」
「えぇ。大丈夫ですよ。焦らないで下さい」
ニッコリと微笑みながらセシルさんが告げた言葉にモモちゃんがワタワタとしながら合わせている様だった。
まぁ、外からではよく分からないんだけれども。
「うーん。でもこれなら私が発動する方が良いかもしれないですね。ミラさんと百合さんはどうでしょうか?」
「私は問題ないです!」
「私も、大丈夫です!」
「では皆さんの意識をまずは集めましょう」
そして、ある程度ワタワタとしてから、何かを掴んだ様で、五人の体を淡い光が包み、それぞれの光が繋がり始めた。
それが綺麗な光の輪となって、全員の体を通して輝き始める。
「おぉ……」
「綺麗じゃのう」
「そうですね。幻想的だ……」
青と赤と白と黄と緑と。
様々な光が合わさって、虹色の輝きを放ちながら膨張し、そして空に放たれた。
「……!」
「何が起きるんじゃ?」
「おそらくは何か魔術が使われようとしているんです」
「おぉ! これが魔術か!」
俺と楓ちゃんは空を見て、もくもくと生まれてゆく雨雲を見た。
黒々としていて、今にも雨が降り出しそうなそれは、俺の予想通り、すぐに大粒の雨を俺たちがいる茶屋周辺に降らせた。
ザァーっという打ち付けるような雨は視界を曇らせるが、セシルさん達は大丈夫か? と庭に視線を落とす。
が、どうやら全員雨には当たっていないようだ。
特殊な魔術か何かで雨を弾いているらしい。
そして、雨はそれほどせずにすぐ止んで、空にあった雨雲はいつの間にか消えており、輝く様な太陽が地面を照らしていた。
「見ろ。亮。虹が出ておるぞ!」
「本当だ……! 綺麗ですねぇ」
「あぁ。魔術とはこのような事も出来るのか。素晴らしいな」
「はい。本当に……!」
俺は楓ちゃんと心を躍らせながら空の虹を見ていたが、ふと柔らかい風が吹いていることに気づいた。
それは神樹の方から吹いている様で……。
俺は風の発生源を確認しようと神樹へ目をやって、あぁ……と言葉を漏らしながら目を細めた。
おそらくは桜の花びらに水滴がついて、それが光に照らされて輝きながら、風と共に舞い上がって一面の桜吹雪を作り出していた。
しかも先ほどまでとは違い、神樹は満開の桜と同じか、それ以上に花びらを舞い散らせながら世界を桜色で染め上げている。
「……きれいだ」
「そうじゃろう? お主にこれを見せられて良かったぞ。先日までの神樹では退屈じゃったようじゃからな」
「あぁ、聞いてましたか」
「おぉ、聞いておったよ。わらわとセシル様は姉妹の様に母娘の様に仲良しじゃからな」
「それは失礼をしました」
「構わん。まぁ、気持ちもわかるでな。しかし、どうじゃ? この景色を見れば、退屈などと言えんじゃろう」
「えぇ。そうですね。これはとても素晴らしい物だ」
「そうじゃろう。そうじゃろう」
楓ちゃんは心の底から嬉しそうに微笑んで、頷いた。
そんな楓ちゃんに微笑みながら、俺も茶室の縁側から咲き乱れる神樹を見つめるのだった。
この、どこまでも美しい幻想的な風景を。
「しかし、正常に戻って良かったですね」
「あぁ。そうじゃな。ここは母様とあ奴とも思い出の場所じゃからな。やはり、こうでなくては」
今は居ない家族の事を思い出しながら遠い目で庭を見つめる楓ちゃんは酷く寂しそうで。
俺は、その横でただ、楓ちゃんを支えるのだった。