異界冒険譚   作:とーふ@毎日なんか書いてる

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第265話『祭りの準備(練習)1』

 ヤマトに来た目的である神樹の問題について、俺たちは無事全てを解決する事が出来た。

 今後も魔物の狩り過ぎによって同じ問題が発生する可能性もあるが、そこは楓ちゃんが上手くコントロールしてゆく事になったのである。

 まぁ、侍も楓ちゃんの言う事なら素直に聞くから、問題はないだろう。

 

 という訳で残されたヤマトでやることは、ハグロの町で行われる祭りに参加する事だけになった訳だが。

 

「まだ亮の怪我は完全に癒えておらん。完全に治ってからで良いじゃろう」

「まぁ、確かに最初はそういう話だったんですけど、神樹も完全に復活しましたし」

「良いでは無いか! もう少しくらいヤマトに居ても!」

「……」

「だって、全てが終わったら亮も百合もモモもリンも帰ってしまうんじゃろう? ミラたちもまたすぐに旅立つと言っておったし」

「まぁ、みんな居るべき場所とやるべき事がありますからね。仕方ないですよ」

「そうですよ。私たちもまた来ますよ」

「また、と言いながら、いつ来るか分からんでは無いか……」

 

 寂しそうに呟く楓ちゃんに、少し可哀想だなという気持ちが膨らむが、このままずっとヤマトに居るという事も出来ないのだ。

 どこかでは帰らなくてはいけない。

 むしろこのままズルズルと伸ばし続ければ、その方が後で可哀想な事になるだろう。

 

 だから、ここは心を鬼にしてでも帰らなくてはいけないのだ。

 まぁ、でもすぐっていうのは流石に可哀想だからハグロの祭りが終わってからだけど。

 

「楓ちゃん」

「……セシル様」

「出会いがあれば、別れもあります。それが誰かと生きるという事です。ここで嫌だと我儘を言っても、いずれ何かで別れる時は来てしまうんですよ」

「う、うぅ……」

「大丈夫です。亮さんも、百合さんも、モモさんも、リンさんも、ミラさんも、瞬さんも。優しい人ばかりですから。楓ちゃんが会いたいと言えば、また会いに来てくれますよ。永遠に別れる訳ではありません」

「そうか、のう」

「それに。会いたければ会いに行けば良いんです。幸い、亮さんと百合さんはセオストに住んでいますから。歩けば三日程で会えますよ」

「……うん」

 

 楓ちゃんは悲しみを纏いながらも小さく頷いて、セシルさんの手をギュッと握った。

 こうしていると本当の親子みたいに見える。

 

 まぁ、今のやり取りを見ていても分かるが、真実親子の様な関係なのだろう。

 互いへの信頼と思いやりが、血の繋がりを超えた家族という関係を作り出している。

 ウチの子達と同じである。

 

 

 それから。

 楓ちゃんも落ち着いたという事で、ハグロの町の祭りの準備を行う事になった。

 とは言っても、だ。

 

 実際の町の準備は侍たちやハグロの町の人が行っているし、俺たちの準備とは楓ちゃんの料理を手伝う事である。

 俺は、試食係だ。

 

 仕事内容としては、とにかく楓ちゃんの作った物を食べて! そして、美味いと伝える事!

 ただ、これだけである。

 しいて言うなら誉め言葉に種類が必要となるだろうから、その辺りを考えて練習する事だろうか。

 

「では、昨日の続きをしましょう」

「わかったのじゃ!」

 

 昨日から引き続き講師は百合ちゃんで進んでゆく。

 生徒が非常に素直である為、講義は何の問題もなく順調に料理を作っていくのだった。

 

「では! まずは焼肉です!」

「おぉー! 焼肉か! 皆好きな奴じゃのう。肉を焼けばいいんじゃろ?」

「はい。そうです。しかし、ただ焼いただけでは素材の味がするだけ。ここで美味しいタレを作ることでより美味しいご飯へとなってゆくのです!」

「おぉー!」

「では順番に調味料を混ぜてゆきますよ」

「はーい」

 

 百合ちゃんと楓ちゃんは姉妹の様に並びながら仲良く調理をしている。

 俺はそんな二人を見ながら、椅子に座り、これからの戦いに向けて水をよく飲んでおくのだった。

 

 普段のご飯であれば、肉だけという事はなく、野菜やらご飯やら色々あるが、おそらくこれから来るのは肉のみだ。

 肉をおかずに肉を食べる事になる。

 

 そして、試食するメンバーもリンちゃんモモちゃんミラさんは言うまでもなく。

 セシルさんも小食の様に思われる。

 

 そうなったら、食べるのはほぼ俺という事になってしまうのだ。

 ……何故ここに瞬さんが居ないのか。

 これが分からない。

 

 瞬さんだって大活躍したじゃないか!

 瞬さんが居なかったら事件は解決できても、時道さんの暴走を止める事は難しかった。

 

 それに雷蔵さんもだ!

 雷蔵さんが居なければ、そもそも俺たちは城を脱出する時点で敗北していた。

 だというのに、その功労者の姿もない。

 

 いや、まぁ、そう。

 功労者だから。活躍したから。

 祭りで美味しくなった楓ちゃんの料理だけを食べる。というのは正しい。

 非情に正しい。

 文句を言うのが間違っている。

 

 だが、それでも、それでも! と俺は心の中で叫んでしまうのであった。

 

 なんで、俺だけこの様な大量の料理を食べねばならないのか!!

 と。

 

 まぁ、口に出す事は無いし。

 顔に出す事も無いけれど。

 心の中で叫ぶくらいは許してもらえるだろう。

 

 ただの魂の叫びだ。

 ただ、それだけなのだ。

 

 と、自分に沢山言い訳をしたところで、俺は完成した楓ちゃんの料理をジッと見据えた。

 テーブルの上に置かれた大皿の上には、山盛りの肉がこれでもか! と盛られている。

 先ほども確認したが、戦力はほぼほぼ俺一人だ。

 無論、セシルさん達も戦力には違いないが、山となっている肉を切り崩すほどの量を食べるのは難しいだろう。

 

 ならば……!

 ならばこそ!!!

 俺がやらねばならないのだ!!

 

「さ。食べてみてくれ。場所によって味が違うからの。その辺りを確かめて欲しい。どこが一番美味しかったか、気になるからな」

「なるほど」

 

 俺は気合を入れた。

 これから体の限界を超えて、肉の山に挑む覚悟だ。

 

 しかし、まぁ。

 その前にひとまず楓ちゃんの料理を味わってみようと思う。

 

「えっと、多分ここからここ、ここからここ。この辺りと、この辺りが別の味なのかな?」

 

 俺は一つずつ肉の山に指をさしながらおそらく味が違うであろう場所を示す。

 楓ちゃんはややビックリした様な顔をしながら何度も頷き、そうじゃ! と言った。

 なるほどである。

 

「よく分かるのぅ」

「亮さんも料理をされていますからね。こういう事には詳しいんだと思います」

「なるほどのぅ」

 

 楓ちゃんの関心する声を聞きながら、ひとまずパッと見て、一番味が薄そうな場所に手を伸ばした。

 味比べをするのであれば、味の薄い順に食べないと、味が濃いものが優勝してしまうので、この辺りは慎重さが必要だ。

 とは言っても、見た目だけで味が濃いか薄いかなんて分からない訳なのだけれども。

 

 何となく。

 勘である。

 

 という訳でパクリ……うん。

 まぁ、美味いんじゃないかな……?

 

 いや、微妙な感じだけど! 美味しいは美味しいんだよ!

 ただ、なんて言うかな。

 よく分からないんだよな。

 

 まぁ、俺も野生の料理はするけど、こだわった料理とかあんまりしないしな。

 サッと焼いて、サッと味付け!

 くらいの適当な料理しか知らんのだ。

 

 だからよく分からない。

 よく分からないが……言う言葉は決まっている。

 

「うん。すごく美味しいね」

 

 これだけは間違いない。

 と、俺はひとまず自分の行動に満足しつつ、次の肉へと手を伸ばし……パクリ。

 

 うーん!

 美味い!

 まぁ、美味い。美味いよ。

 さっきのとはまた違った美味しさがあるね。

 なんていうかな。うん。なんていうんだろうね?

 

 よく分からないけど、美味い。それだけは確かなんだ。

 

「うん。すごく美味しいね」

 

 駄目だ! 同じようなコメントしか出来ない!!

 俺はなんて無力なんだ!!

 

 しかし、分からない物は仕方ない。

 俺は次なる肉へと手を伸ばすのだった。

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