異界冒険譚   作:とーふ@毎日なんか書いてる

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第266話『祭りの準備(練習)2』

 焼肉、てんぷら、唐揚げ、カツ。

 ありとあらゆる重いご飯を俺は食べつくした。

 思い出したかの様に現れたご飯も食べたし。

 折角だからと出てきた味噌汁と漬物も食べた。

 

 全て食べた。

 

 というか。

 よくよく考えてみれば、漬物やらご飯やら味噌汁やらは楓ちゃんが作った訳じゃ無いのだから俺が食べる必要は無かったのでは?

 と思わなくもないが、食べた。

 用意してくれたのだから、多少無理してでも全て食べた。

 

 それが男というモノであり。

 兄という存在の生き様でもある。

 妹の前で兄は恥ずかしい姿など見せないのだ。

 

 ただ、ただ。憧れる様な姿でいる。

 それが兄という存在の矜持である。

 

 でも、それはそれとして……しんどいはしんどい。

 吐きそうなくらいに限界である。

 

「う……」

「大丈夫か? 亮」

「え、えぇ。何も問題はありませんよ。えぇ。本当に。ちょうどいい位ですね」

「とてもそうは見えんが……」

「ま、まぁ。多少は厳しいかもしれませんが、生きているので問題なしですね」

「それは問題しか無いじゃろ」

 

 冷静な楓ちゃんのツッコミをかわしつつ、俺はフーと深い息を吐いた。

 そして、水を飲んで、少し体を落ち着けてから口を開いた。

 

「さて、次は何を食べれば良いですかね?」

「もう今日はおしまいじゃ。食べ過ぎで死んだ等と聞きたくないからの」

「そうですか……承知いたしました。まぁ全部美味しかったので何も問題はありませんがね」

「亮はそればっかりで何も参考にならんのう」

「うっ! それは、申し訳なく」

 

 悲しい一言を楓ちゃんから貰い、俺は大きなダメージを受けた。

 そして椅子に体をゆっくりと預けて、息を吐く。

 

 いや、ホントにしんどいな。

 少し動くだけで吐きそうになる。

 死んでも吐く気は無い訳だが。

 それでも、色々としんどくて限界だ。

 

「亮。意地を張るのはやめて、苦しければ出してしまえ」

「いえ。これは全て俺の栄養とします。しなければならない……!」

 

 俺は苦しみを抱えながらも、早く全て消化してくれと自分の体に祈るのだった。

 まぁ、それで解放されるのならば何も苦労は要らないワケだが。

 

 結局俺はそれから長い時間苦しみ続け、夕飯を食べることも出来なかった。

 そして、夜を超えて、次の日の昼。

 

 

 俺は再び食堂で戦いに向かう事となった。

 

「昨日は、色々と問題がありましたので……本日は少しメニューを工夫しましょう」

「まぁ、そうじゃな」

 

 百合ちゃんと楓ちゃんにチラリと視線を向けられ、俺はふむと首を傾げた。

 

「何不思議そうな顔してるの。リョウさん。リョウさんの事を言ってるんだよ」

「え? そうなの?」

「それはそうでしょう。昨日食べ過ぎて苦しんでた人」

「夕食も食べられませんでしたしね」

「残せば良かったんじゃ。残せば」

 

「え? 楓ちゃんは妹みたいな存在なのに。その楓ちゃんのご飯を残す? え?」

「心底不思議そうな顔をしているわね」

「ま、まぁ……リョウさんですし」

「……困った男じゃのう」

 

 酷く不名誉な会話が行われているような気がしているが。

 俺は何も間違えた事など言っていないし、やっていないのだ。

 これは絶対に正しい事である。

 

 そう。それは間違いない。

 

「という訳だから、何でも食べるし。どれだけでも食べるよ! 遠慮なく来てくれ!」

「いや……遠慮なくと言われても困ってしまう訳ですが」

「何の遠慮も要らないよ!」

 

「……百合。すまんが、今日は体に優しい料理にしよう」

「そ、そうですね! 分かりました!」

 

「あら。亮さんのお陰で楓ちゃんが人への気遣いを積極的に行うようになってますね。とても良い事です」

「俺としては複雑な気持ちですが」

「良いではないですか。妹の成長が嬉しくは無いのですか?」

「それは嬉しいですよ。心の底から」

「そうでしょう。そうでしょう。そうでしょうとも」

 

 ニコニコと微笑むセシルさんに俺は複雑な気持ちを抱えたまま、包丁を持ち恐る恐る野菜を切っている楓ちゃんを見るのだった。

 百合ちゃんも、隣から楓ちゃんを見守り、一生懸命にアドバイスを送っている。

 

 まぁ、あれだ。

 よくよく考えてみれば、別に俺がどうこうは関係ないのだ。

 ただ、楓ちゃんが料理という物に興味を持って、それを覚えようとしている。

 そして、俺はその素晴らしい時間に偶然立ち会っただけであり、楓ちゃんがどうのは関係のない話である。

 

「まぁ、そうですね。成長する姿を見るのは、嬉しいですね」

 

 そして、この日は体に良さそうなものを沢山食べ、お陰で傷もどんどん治っていると楓ちゃんにアピールし、喜べば良いのか、悲しめば良いのか分からないという様な楓ちゃんに、そうかと頷かれた。

 

 それから。

 何日か楓ちゃんの試食会に付き合い、いよいよ俺の怪我もほぼ治ったという事で、ハグロに移動し、祭りを行う事となった。

 

「そういえば」

「どうしました?」

「あ、いえ。ヤマトではお祭りってどういう事をやるのかな。と思いまして」

「基本的には、出店が色々と並びまして、食べて飲んで、騒ぐだけですね」

「なるほど」

「ただ、一部のお祭りでは特別な事を行いますね」

「ほぅ」

「フソウで行われる姫巫女様主催の年越し祭りでは、楓ちゃんが舞を披露して、来年の幸運を祈願しますし」

「ふむふむ」

「奉刀祭では侍の皆さんが競い合い、参加者の中で誰が最も強いかと競い合ったりします」

「色々と種類があるんですね」

「この辺りは伝統的なお祭りですからね。後は町によって踊ったり、特別な料理を皆で作ったりと、場所によって様々ですね」

「なるほど」

 

 俺はセシルさんの話を聞きながら頷き、ヤマトにも色々な祭りがあるのだなと理解を深める。

 

 そして、今回の祭りはどの様な祭りになるのだろうか。と思いを馳せた。

 

「今回のお祭りは、どうでしょうか。難しいですね」

「……今、俺の心を読みました?」

「いえ。予測しただけですよ」

 

 ニコニコと微笑む聖女様は何とも胡散臭い。

 

「胡散臭いとはなんですか!」

「やっぱり読んでいるのでは?」

「いえ。気のせいです」

 

 冷や汗を流しながら明後日の方向を向くセシルさんに俺はため息を吐きながら、話を流し。

 俺は着々と準備が進んでゆく祭りを見ながら、考える。

 

 今回の祭りは特にコレと言った目的というか、意味は無いが……それでも楓ちゃんが何か思い出に残る様な事をしたいと。

 

「私は良いと思いますよ」

「もう隠さなくなってきましたね」

「そんな事はありません。これもただの予測です」

「分かりました。セシルさんがそう言うのなら、納得しましょう。それで。セシルさん?」

「はい。なんでしょうか」

「一つご相談なのですが……」

「はい。なんでしょうか」

 

 と喋りながら、ふとセシルさんが俺の心を読んでいる意味を理解した。

 そう。俺たちの近くで楓ちゃんがそっと聞き耳を立てていたのだ。

 

「あー。いややっぱり止めておきます」

 

 楓ちゃんに何か、思い出に残る様な事をやって貰おうかと考えて居るのですが。

 例えば、自然薯を削ってもらうとか。

 皆さんの長寿健康を願って。

 

「そうですか。まぁ、私は良いと思いますよ」

「なるほど」

 

 俺はセシルさんの言葉に頷きながら、よく分かっていない楓ちゃんの方へ、僅かに意識を向ける。

 そして、特に何かを伝える事も無いまま、とりあえず百合ちゃんのお母さんの所へと自然薯について相談しに行くのだった。

 

「おや、亮さん。どこかへ行かれるのですね? では私も付いてゆきましょう」

 

 白々しいセシルさんと共に。

 

「白々しい。は余計ですよ」

「これは失礼しました」

 

 と、とりあえずは言っておこう。

 

「しっかりと聞こえてますからね」

「はて。何のことやら」

 

 俺は適当に胡麻化しつつ、テクテクと祭りの準備が進む町の中を歩くのだった。

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