楓ちゃんによる自然薯の削り会も終わり、いよいよハグロの町の祭りが本格的に始まった。
大通りに用意された出店には多くの食べ物や遊び場が用意され、祭りに来た人々を楽しませている。
とは言っても、ハグロで祭りをやる事は急遽決まった事であり、来ているとしてもフソウからの人間くらいの物だという話であるが。
「どうじゃった!? わらわ! 頑張っておったじゃろう!?」
「えぇ。そうですね。凄かったですよ」
「えへへ」
俺は約束通り、楓ちゃんを褒めてから祭りの出店を楓ちゃんと一緒に見て回ることにするのだった。
「おぉ、色々な出店があるのぅ」
「そうですねぇ。食べ物が色々と……というか肉料理がやけに多いですね」
「そうじゃなぁ。まぁ、春は魔物狩りも盛んじゃからな。その辺りで余った肉を使っておるんじゃないか?」
「なるほど」
魔物狩りが盛んなのかぁー。
ふむふむ。
と楓ちゃんの話に頷いていたら、後ろから百合ちゃんにツンツンと背中を突かれる。
「亮さん。他人事みたいに頷いてますけど。肉は全部亮さんが狩った奴ですよ」
「俺が? 何かしたっけか?」
「狩ったでしょう? 魔物研究だって言って」
「あ」
百合ちゃんの話に俺がアッと思い出したのは。
俺と百合ちゃんが休暇を貰っていた際に行っていた魔物狩り。
そして、その関係で大量に狩った大型の魔物の事だ。
「お主……魔物狩りなど忘れる様な事ではないじゃろう。大規模な活動なのじゃぞ」
「いやぁー。ハハハ。その後で事件がありまして、すっかり忘れてましたね」
「楓ちゃん。駄目ですよ。こういう人たちは。魔物狩りなんて朝ごはんを食べるみたいな物なのですから」
「ふむ。どうやらその様じゃの。時道も、瞬もすぐに魔物狩りをしたことなど忘れておったわ」
「いやぁ。申し訳ない」
「別に謝る様な事ではないがの。我らもお主らがそういう人間だとよく分かっておるし」
「あ、ははは……なるほど」
もはや笑って終わらせる事しか出来ない様な話である。
しかし止めて欲しい。俺は別に戦闘狂では無いのだから。
「まぁ、確かに亮は時道によく似ているな」
「それは頷く所でもあるが、お前も魔物狩りなんてすぐに忘れてしまうだろう」
「む。では俺も亮と同じと言う事か?」
「そう言っている。ちなみに言っておくが、俺は魔物狩りの記録を残しているからな。しっかりと記憶しているぞ」
「それは記憶しているとは言わないだろう」
そして、非常に厄介な事であるが。
楓ちゃんの話に出てきた時道さんと瞬さんが人込みの中から現れ、流れる様に俺たちの会話に入って来た。
しれっと俺を仲間入りしないで欲しい。
「おぉ、瞬。時道。来たか」
「えぇ。祭りと聞きましたからね。祭りの気配は見逃しませんよ。俺は」
「ハグロならフソウからすぐに来れますからね。まぁ、呼ばれたら来ますとも」
どこかワクワクとした姿をした瞬さんと、義理で来ましたと、言葉でも態度でも示している時道さんだ。
見た目は完全に真反対である。
「さて。何から見てゆきましょうか! 姫様。聖女様」
「お主は何度祭りに来ても楽しそうじゃのう」
「この瞬間の為に生きていると言っても過言ではありませんよ」
「それは流石に過言じゃろう」
「その様な事はありませんよ! さぁ、姫様! 順番に食べて遊んでゆこうではありませんか!」
もはや誰だと言いたくなる様な姿の楽しそうな瞬さんは、楓ちゃんと共に出店を共に見てゆくのだった。
そして、一人残された時道さんが俺の近くにやってきて口を開いた。
「意外か?」
「瞬さんの事ですよね? それなら、そうですね」
「まぁ、そうだろうな。瞬はかなり真面目だし、感情をあまり表に出さないからな。こういう姿を見せるのも稀なんだ」
「なるほど……」
何故か誇らしげな時道さんに頷きながら、俺は軽く返事をする。
まぁ、親友としての誇りとか、そういう何かがあるのだろう。
「おーい! 時道! 亮! 何をやってるんだ! 射的をやるぞ!」
「呼ばれてますよ。時道さん」
「まぁ、仕方ない。付き合ってやろうじゃないか。ふっ」
そして。
俺たちは瞬さんに呼ばれるまま射的屋に向かい、弓の様な道具を使って的を射抜く遊びを行うのだった。
「よし。では一番多く的に当てた奴の勝ちだ。良いな?」
「構わんが、俺が優勝してしまうぞ」
「それはどうかな? 俺も負けてはいないぞ」
フフンと笑い合う二人は実に楽しそうであり、先ほどまで自分は大人だ。
みたいな話をしていた時道さんも子供と何ら変わらない様な姿である。
まぁ、楽しそうで何よりだが。
それから、俺たちは射的で遊び。
「いやいやいや! 見て下さいよ! 俺の方が中央に当たってるでしょ? ね? 楓ちゃん」
「そう感じるのは自由だがな。現実として俺の方が中央に当たっている」
「お前たちの気持ちも分かるがな。俺の方が中央だ」
「雑魚どもめ。どこからどう見ても俺の優勝だろうが」
いつの間にか参加していた雷蔵さんと共に、誰が優勝したかで言い争っていた。
瞬さん達を子供だなんだと思いながら、俺も実に子供らしく遊んでいるのだ。
「まったく皆、子供ばかりじゃのう」
「では、楓ちゃんが優勝者を決定してはどうでしょうか?」
「ふむ。そうじゃのう」
楓ちゃんはセシルさんに促されて、腕を組みながらうーんと悩んでいた。
そして、ポンと閃いたのか手のひらを叩いてから別の出店を指さすのだった。
「では! あの氷削りで優勝した者が優勝という事ではどうじゃろう!?」
「それは名案ですね」
「改めて実力を見せつけてやるぜ」
「氷削りをやらせれば、ヤマトで勝てるものなしと言われた俺に勝てるつもりか?」
「やる気いっぱいだなぁ」
「と、言いつつ亮さんもやる気いっぱいですね」
「まぁね。明日の朝になったら、俺たちもセオストに帰る訳だし。遊ぶのなら沢山遊びたいじゃない」
「……そうですね!」
百合ちゃんは俺の言葉にふわりと微笑んで頷いた。
そして、自身も着物の袖をまくりながら口を開く。
「では! 柊木百合! 僭越ながら参加させていただきます!」
「やる気いっぱいの奴が来たな?」
「例の和葉に勝った子だろう? 実力は確かだ」
「ちょーっと待った! 私はまだ負けてないわよ!」
「む? この声は」
上空から聞こえてきた声に俺たちが空へ目を向けると、そこには空から降りてくる男と女性が一人ずつ。
どこから飛び降りて来たのか分からないが、サッと地面に降りると、自然と時道さん達に話しかけた。
「雷蔵! 城でのリベンジに来たぜ」
「そ。そっちの百合ちゃんにもね!」
「フン。雑魚がまた負ける為に来たか。ご苦労な事だ」
「言ってろよ! 今度は手加減無しだからな」
「言い訳はそれくらいで良いのか?」
笑みを浮かべたまま雷蔵さんと空から降りて来た男は睨み合い。
百合ちゃんは女性を手を握り合う。
確か、フソウの城を攻めた時、時道さんの前に出会った人たちであったハズだ。
神刀の使い手だったか。
「賑やかになってきたのぅ」
「えぇ。実に楽しそうですね」
「そうじゃな」
「では、私たちも参加しますか?」
「うむ!」
「そういう事でしたら! 私たちも参加しますよ!」
「はい!」
「おぉ、モモ! リン! そうか! 一緒に遊んでくれるか!」
「折角ですしね」
そして、いつの間にやら多くの人が楓ちゃんの周りには集まり、俺たちは一緒に祭りを夜遅くまで楽しむのだった。
「ふ、ふふ。楽しいのう!」
「そうですね」
「この夜が永遠に続いて欲しいと願ってしまうな」
「……そう、ですね」
俺は日も落ちて、祭りの灯りに照らされる世界を楓ちゃんと見ながら頷く。
しかし……。
「そんな顔をするな。わらわも分かっておる。夢は夢じゃ。永遠には続かんじゃろう」
「……楓ちゃん」
「だからな。今を十分に楽しんで、また次の機会を楽しみにしておるよ」
「そうですね」
「じゃからな。また、会おう。亮」
「はい。いつか、必ず」
そして、ヤマト最後の夜は閉じていった。