夜通し行われたハグロでの祭りも終わり、俺たちはセオストへと帰る事になった。
途中でモモちゃん、リンちゃん、百合ちゃんは寝ていた為、朝も無事起きる事が出来たが、俺は夜通し騒いでいた為、多少体調がよろしくない。
が、まぁセオストまで無事に戻るくらいならば何も問題は無いだろう。
という訳で、モモちゃんとリンちゃんの依頼から始まった長いヤマトでの生活も終わり、俺たちは大勢の人に見送られながらヤマトを後にして、セオストを目指す。
「何だかんだ色々あったけど。こうして思い返すあっという間の出来事だったわね」
「そうだねぇ」
穏やかな日差しの中をのんびりと歩きながら俺はモモちゃんと言葉を交わしていた。
後ろではリンちゃんと百合ちゃん……と、ここからはリリィちゃんと呼んだ方が良いか。
リリィちゃんが楽しそうに話をしていた。
「でも、楽しかったわね」
「うん。俺もそう思うよ」
「また行くって約束したし。その時はまたリョウさんに依頼しても良い?」
「大丈夫だよ。後、リリィちゃんもね」
「当然! またみんなで行こうよ」
と、満面の笑みでそう言うモモちゃんに俺は同じく笑みを浮かべたまま頷き返した。
それから。
特にセオストまでの道で何か問題が起きるという様な事はなく。
俺たちは普通にキャンプをして、適当に捕まえた魔物を解体してご飯を食べて。
寝て起きて、歩いて……セオストまで無事到着する事が出来たのであった。
そして、まずは依頼達成の連絡をするかと冒険者組合へ向かい、依頼の報告を行おうとしたのだが……。
「っ! リョウさん!? それに、リリィさん!」
「うお……! いきなりどうしたんですか?」
冒険者組合の建物に入るや否や、受付の所から職員さんが凄い勢いで向かってきて、俺とリリィちゃんの手を掴んで会議室の方へと向かうのだった。
無論、抵抗する事も出来たが、騒ぎを起こしたくは無いし。俺とリリィちゃんは大人しくそれに従う。
「お二人が居ない間に大事件があったんですよ!」
「っ! まさか、また魔物の襲来が!?」
「あ、いえ。その辺りは新年の依頼でかなり数を減らしてますからね。静かな物でした。どちらかと言うと、皆さん新年で頑張りすぎたため、魔物が例年よりも少ない方が問題ですね」
「なるほど。そういう問題ですか」
「あ! いえ! これは問題ではなくてですね!」
「うん?」
受付のお姉さんは、あわあわとしながら必死に言葉を探している様だった。
何だろうか?
何か言いにくい話題なのか?
「じ、実はですね。数日前……」
「はい」
「リョウさんの妻を名乗られる方が冒険者組合にいらっしゃいまして」
「妻?」
「はい。妻。奥様ですね」
「俺の?」
「はい。そうです」
「え?」
俺は意味が分からず、ただただ聞き返してしまう。
しかし、何度聞き返しても帰ってくる言葉は同じであった。
意味が分からない。
俺は生まれてこの方結婚などしたことが無いし。
そもそもこの世界に来てからは桜の事でいっぱいいっぱいだったのだ。
そんな事をしている余裕はない。
「亮さん。亮さん……!」
「どうしたの? リリィちゃん」
「もしかして、桜ちゃんが」
「あー。なるほど」
俺はヒソヒソと話しかけてきたリリィちゃんの言葉に納得して、ひとまずは受付のお姉さんに確認する事にした。
「もしかして、その妻を名乗る人物というのは、桜の事ですか? いやぁーだとしたら冗談で……」
「いえ、違います」
「……となると、ジーナちゃん? いや、ココちゃん? もしくは……無いと思いますがミクちゃんとか」
「いえ。リョウさんのお家に住まわれているどなたでも無いです。それに……その方はおそらく貴族様ですから」
「あー! なるほどなるほど。分かりましたよ。ソラリア様かレイシリア様ですね。もしくはシャーロット様とか……!」
「いえ。その方はセオストの方では無いのです」
いや、まさか。
そんな事あるか?
後、そういう事をしそうな子は……セシルさんか楓ちゃんだろうが。
二人はヤマトに居るし。流石に俺達より早くセオストに来る事は無いだろう。
意味も無いしな。
となると……別の国……。
「もしかして、アリア姫様、ですか? シーメル王国の? いや、まさかまさかでだいぶ不敬な発言かと思いますが」
「いえ。違います……というか、よくもまぁ、そんなにポンポン、ポンポン女性の名前が出てきますね」
受付のお姉さんに確認をしていると、何故かジト―っとした目で見られてしまい、俺は違いますよ! と全力でアピールしながら手を振った。
勘弁してほしい。
別に遊び人とかそういう奴では無いのだ。
「亮さんは手が早いですからね。しょうがないですよ」
「まぁ! やはり」
「やはり。じゃありませんよ。違います! 違いますからね! というかリリィちゃんも、適当な事言わないの!」
「申し訳ございません~。ですが、まぁ、事実ですので」
しれっととんでもない事を口走ったリリィちゃんに、受付のお姉さんからの視線が鋭くなるが、今気にしなければいけない所はそこでは無いのだ。
その謎の女性の方が気になる。
「俺の事はひとまず良いんですけど。その女性について知りたいです」
「それが……」
「それが?」
「いえ。その、申し訳ないのですが、私どももよく分からないのです。ただ身なりや立ち振る舞いから貴族様だろうという事は分かるのですが」
「それ以外は何も分かっていないと?」
「はい。その通りです。それで、対応を間違えぬようにと、ひとまず丁寧には接しているのですが、どういう方なのか、リョウさんにお伺いしたいと思っていたのですが……リョウさんに心当たりがありすぎて、分からないという事ですね」
「違います。心当たりが無いんです。まるで。全然。これっぽっちも」
「……という事ですし。ひとまず会ってみる方が良いのではないでしょうか?」
「そうですね。リリィさんの言う通り、ひとまずは確認していただきましょうか。その方がリョウさんも思い出せると思いますし」
まるで話を聞いちゃいない。
このままでは色々な女の子に手を出しているダメ男みたいな扱いになってしまう。
何とかしなくては!!
いや、何とかと言っても、何をすれば良いかは分からないのだけれども。
「では、お客様がいらっしゃるお部屋に案内しますね。職員用の通路から行けば、部屋の中を外から確認出来ますから」
「これでその女性の正体が分かりますね」
「いや、本当に誰か分からない可能性もあるからね? 当然だけど」
「……亮さん。ちゃんと責任は取らないと駄目ですよ」
「いや! その責任が本当に俺にあるのかっていうのは何よりも大事な事ですからね」
「まぁ……!」
「なんて酷い人なんでしょう」
「リリィさんも気を付けて下さいね」
「……はい!」
理不尽だ。
こんな扱い。
いや、本当にどういう事なんだ。
俺は何とも悲しい気持ちになりながら、何とか汚名返上を目指して気合を入れるのだった。
何をどうすれば汚名が返上出来るのか。
それは分からないが、やらねばならぬ。
「……では、リョウさん。責任を取る準備はよろしいですか?」
「それは確認してからですよ」
「分かっています」
なんて言いながら頷いているが、本当に分かっているのだろうか。
と、受付のお姉さんを疑いつつも、俺は部屋の外から小さな丸い窓の中を見やった。
そこには冒険者組合長と話す幼い少女が一人。
見た事はない。
やはり、知り合いでは無かった様だ。
俺はそれを二人に伝えるべく振り返ったのだが、すぐ背後で勢いよく扉が開く気配がした。
「亮様! あなた様の妻がきましたよ!」
その幼女の言葉に、場が酷く冷たくなるのを俺は感じた。