リメディア王国なる国が現在直面している問題について、その解決策を考えていたが……まぁ、そんなに簡単に思いつく筈もなく。
考え続けている間に、俺たちはリメディア王国の王都に到着していた。
のどかな農園を走り続けていると思っていたら、突然堅牢そうな壁が現れてビックリしたが、スタンロイツ帝国の皇帝陛下のお陰で、ここが王都なのだと分かる。
「着いたか。王都の中は歩きだ。降りるぞ」
「分かりました」
皇帝陛下の言葉に俺は荷台から飛び降りて、乗った時と同じ様にフローラちゃんの手を取り、地面に降りられる様に誘導する。
「ありがとうございます。リョウ様」
「いえいえ」
「では王都をご案内しますね」
俺の手を握ったままフローラちゃんはグイグイと手を引っ張って、王都の中へと誘ってゆく。
そんな俺たちに、フィオナちゃんとリリィちゃんも慌てて荷台から飛び降りて付いてきて……皇帝陛下は何故かため息を吐きながらリリィちゃん達の後ろについてくるのだった。
なんだろうか。何か奇妙な感じだ。
何度か共に接した感じ、皇帝陛下なら割と先頭を歩きそうなモノだが……。
一番前に立たずとも、フローラちゃんの横とかに立って、歩きそうな人に思えたが。
何か事情があるのか?
もしくは、この国で目立つような行動をしたくないか。
と、思考しながら俺はそれとなく周囲を伺った。
見られている。
向こうは見ていないふりをしているが、明らかに見られている。
フローラちゃんはこの国の貴族だというし。その関係で見られているのかと思ったが……そういうワケでも無いみたいだ。
好意的でも敵対的でもなく……ただ純粋に俺を観察するような瞳だ。
うさんくさい……というよりは何だか怪しい空気である。
やはりこの国には何かあるのでは無いだろうか?
何か地下に蠢く陰謀の様な何かが……!
「リョウ様?」
「あぁ。申し訳ない。少し考え事をしておりまして」
「考え事、ですか」
「そうですね。初めて来た国ですから。失礼がない様にしなくてはな。と気持ちを整えておりました」
「まぁ! リョウ様は素敵なお考えをお持ちなのですね」
キラキラと輝く様な笑顔を向けて来るフローラちゃんに、俺は何ともいえない気持ちになり。
適当な嘘を吐いてしまった罪悪感もあって、曖昧に笑った。
そして、フローラちゃんはある酒場に俺達を案内すると、店の奥に居る店主に声を掛けて何かを話していた。
なんだろうか。
俺たちが普通に入ってきた客じゃなくて、仕事で来た人だと説明しているのだろうか。
なんて、そんな風に考察していたら、俺のすぐ近くにあった椅子に皇帝陛下が座り、俺に手で合図をする。
すぐ隣に座れという意味だろう。
それを察して、俺はそのまま静かに椅子に座った。
そして、皇帝陛下にやや体を傾けて耳を向ける。
「時にリョウ。お前はセオスト以外で冒険者をする気があるのか?」
「……今の所は無いですね」
「ふむ。そうか」
皇帝陛下はよく分からない質問をしてから、ふむと腕を組んで何かを考えている様だった。
何を考えて居るのか、その心は分からないが、何かを真剣に考えている事は分かった。
「私はな。常々考えているのだ。どうすれば世界から争いを無くすことが出来るのか、とな」
「……なるほど」
「ふっ、似合わない事だと思うだろう」
「いえ、その様な事は……!」
「皆まで言わずとも良い。私自身その様に考えているのだ」
「そうでしたか」
「あぁ。だからな……何というか。世界の国々や人々が、個々の利益や欲望に固執せず、世界の為に動けば良いと考えている」
「なるほど」
「今、世界で起こっている争いの大半は、他者よりも己の利益のみを優先した者達が起こした争いが殆どだ。それが消え、世界が一つとなれば……あるいは」
「世界から争いを消せる、と?」
「そう思うがな。リョウはどう思う? 夢物語だと思うか?」
中々に難しい質問をされてしまった。
確かに皇帝陛下の言う様な事もまた真実なのだろうと思う。
しかし、個人が欲望を優先させる事を一概に悪とは言えないと俺は考えていた。
「個人的な意見を述べさせていただいても?」
「構わん。何も遠慮はいらない。お前の意見を聞かせてくれ」
「では……」
俺はゴクリと唾を飲み込んでから、ゆっくりと説明を始めた。
俺の想いと、この世界に来てから考えていた事を。
「まず、申し訳ないですが、最初に一つ」
「うむ」
「前提として、俺は正直な所……世界の事など考えた事はありません。俺は常に俺の大切な人を守る為だけに戦ってきました」
「そうだろうな」
「無論、それで他者の持っている物や人を奪った事も傷つけたこともありません。しかし、権利は奪ってきたと思います」
「ふむ? 聞こうか」
「俺は冒険者の仕事をしておりますから魔物を狩ります。他にも護衛の任務や、探し物、貴族の子の相手をする等色々な仕事をしてきました」
「……」
「しかし、俺が居なければ、おそらくそれらの仕事は別の人が受ける事が出来た筈。魔物を狩り食べた肉も、俺が居なければ別の誰かが食べた可能性があるでしょう」
「否定はせん」
「であれば、その誰かが、本来受けられた権利を俺に奪われたと考えてもおかしくはないかと思うのです」
「そういう考えも……あるか」
「無論、その様な事を俺に言われても、俺は受け入れる事など出来ませんから。跳ね除けますし。状況によっては襲撃者の命を奪うでしょう。しかし、その襲撃者が己の利益の為だけでなく……例えば病気の家族の為、恋人の為、友人の為、であれば……どうでしょうか」
俺は自分と相手を重ねながら言葉を繰り返す。
「おそらく、争うな。人と競うなと命ずる前に、全ての者がまず満たされ、十分な生活を送る事を目指すべきなのではないかと俺は考えます。セオストでも、全ての者が余裕を持って生きている訳ではないので」
「だろうな。なるほど。確かにお前のいう事は正しい。争いそのもの、ではなく……その根を断つべきだという考え。悪くはない。だが……」
「……」
「難しいのはな。どこまで満たされれば良いのかという話だと私は思う」
「どこまで……ですか。確かにそれは難しいですね」
皇帝陛下の言葉に、俺はふむと考えながら腕を組んで目を閉じた。
幸せの定義など人それぞれであるが、ただ生きているだけで幸せ。というのも、長く続けば……。
もしくは周りを見てしまえば、続かないだろう。
どこかで羨ましいという様な気持ちが生まれてくる。
羨ましいと思ってしまえば、その嫉妬が欲望に変わる。
「リョウ。人はな。人の欲望というのはな。限りが無いのだよ。どこまでも欲してしまう。全てを願ってしまう。貪欲に。全てを食いつくそうとしてしまうのだ……無論、全ての者がそうだとは言わないがな。だが、私の知る限り、欲深い者の方が多く見えるな。この世界は」
「だから、それこそが争いの根であると……?」
「そういう事だ。少なくとも私はそう考えている。この世界に生きる者は自分の分を知るべきなのだ。そうでなければ、争いは絶えんし、リョウの言う様な理想の世界へは程遠い」
「……そうですか」
皇帝陛下の言葉を聞いて、俺は考える。
まだ俺は、それほどこの世界を知らないのだと。
何が正しく、何が間違っているのか。
人はどれほど欲望の中で生きているのか。
何も知らないのだ。
いや、だが……それでも。
俺の大切な子たちは……やはり皆、人の事を考えて生きている。
全ての者ではない。
それもまた間違いでは無いのだ。
しかし、今回の依頼。
リメディア王国で、起こっている事。
もしかしたら、お姫様が自己の利益……自国の利益の為にドラゴンを呼び寄せたかもしれないという事。
それを考えると……。
俺は色々な可能性を頭の中で走らせながら、困ったもんだと心の中で呟くのだった。