異界冒険譚   作:とーふ@毎日なんか書いてる

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第278話『依頼の始まり(ドラゴンへ)1』

 フローラちゃんが広げた地図は、リメディア王国を中心とした周辺地図である様だった。

 セオストは入っていない。

 見えるのはリメディア王国とその周囲にある四ヶ国。

 

 東西南北にそれぞれ位置している国々だ。

 一番大きな国は東側にあるスタンロイツ帝国で……次が北側にあるスムディス王国か。

 そして、西側と南側はほぼ同じくらいの国土で、西側がバクーシ帝国、南側がボルン王国だな。

 しかし、こうして地図を見ても……やはりリメディア王国が一番大きい様に見える。

 

「しかしドラゴンか。それは厄介なものが出たな。早急に処理するべきだろう。個体の大きさによっては我らだけでは厳しい、国に援軍を求めるが?」

「それは大変ありがたいのですが……我らにはそのご協力に対する礼も出来ず……」

「必要ない。ドラゴンがこのままリメディア王国で暴れ続ければ、食料生産が落ち、我が国にも影響が出る。それに……直接こちらに来る可能性もあるしな」

「……それは、はい。とてもありがたいお話です」

「うむ。だから遠慮なく頼れ」

 

 相変わらず皇帝陛下に怯えている様な姿であるが、少しだけ皇帝陛下にも気を許した様で、フローラちゃんは小さく息を吐いてから、口を開いた。

 

「ドラゴンは、北方……スムディス王国から来ました」

「スムディスから? という事は山脈の向こうから来たという事か?」

「おそらくはそうだと思われます」

「となると、かなり巨大な個体の可能性があるな……最悪は町がいくつか消えるか」

「はい。なので、ドラゴンを倒す必要があるのですが……」

「そのサイズとなると、倒すにしても準備がかなり必要だな。リョウ。ジーナはこちらへ来ているのか?」

「いえ。今回は来てないですね」

「そうか。アイツが居ると、楽なのだが……」

「呼びましょうか?」

「いや、まだ大丈夫だ。そのドラゴンがどの様な存在か。それが分かるまではまだ手段として残しておこう。対話が出来る個体かもしれないからな」

「ドラゴンと対話出来るのですか!?」

「あぁ。ドラゴンはかなり知能が高いからな。そして、そこまで争いが好きという訳でも無い」

「な、なるほど……だから」

 

 皇帝陛下の言葉に、フローラちゃんは納得した様に頷いた。

 その様子に、俺は軽く口を挟むのだった。

 

「だから、というのは?」

「あ、いえ。ドラゴンが北方の都市に現れてから、大きな動きは見せず、ただそこで寝ているだけだと報告を受けていたので……まさかとは思っていたのですが」

「十分にあり得る話だ。散歩に来た。という可能性もゼロでは無いしな。一番良いのは対話で事件を解決する事だよ」

 

 意外。

 なんて言葉を言っても良いのか分からないが。

 争いよりも、対話を優先する皇帝陛下に、俺は何だか不思議な気持ちになってしまった。

 

 最初に会った時はかなり好戦的な人に思えたけど。

 何だかんだと理性的な部分がかなり大きい様に見える。

 そう考えると、好戦的な時は、そうしなければいけない理由があるからか。

 

 いや、出会い頭にココちゃんを攻撃した意味は全く分からないが?

 どれだけの理由があろうと、それだけは許す気は無いが?

 まぁ、それは良い。

 

 良くは無いけど、今、それを考えて居ても仕方が無いのだ。

 今、大事な事はリメディア王国に居るドラゴンの話である。

 

「しかし、対話であればすぐに解決出来そうですね。現地へ向かいますか?」

「そう焦るな。リョウ。対話が出来ると言ったのはあくまで可能性だ。争いが好きでは無いと言ったが、争いをしないという事では無いのだ」

「では争いの可能性もあると?」

「無論だ。その場合、我らだけでは戦力が足りん。故に、まずは情報を集める必要がある」

「情報……ですか」

 

 俺はふむと考えてからここに居る人間を順番に見渡した。

 俺……は確定として、後はリリィちゃんと……ドラゴンの知識がある人が欲しいな。

 そうなると皇帝陛下か。

 

「では、俺と、リリィちゃんと、皇帝陛下の三人で偵察を行うのが一番でしょうか」

「まぁ、ここに居る者ならばそれが最も良いだろうな」

「はい! 頑張ります!」

 

「えぇ!? 私は!?」

「フィオナちゃんはフローラちゃんの護衛を頼むよ。残してゆくのも心配だし」

「まぁー。そっかぁ。そうだよねぇ」

「うん。フィオナちゃんなら色々と安心だし。何かあったら通信機を渡しておくから呼んで。イザとなったら簡易転移装置にも……「リョウ様!」」

 

 話は決まりだと、フィオナちゃんに通信機を渡しながら説明していた俺であるが……不意にフローラちゃんから声がかかり、そちらへと視線を向けた。

 フローラちゃんはどこか焦った様な顔で俺を見上げており、何だろうかと俺はやや腰を落としながらフローラちゃんに尋ねる。

 

「どうしました?」

「いえ! その……私は。私はどうすれば良いのでしょうか?」

「フローラちゃんはここで待っていて貰えればと思います。護衛にはフィオナちゃんも残りますし。イザとなったら逃げる手段もありますから。安全ですよ」

「それは……! ですが、私は! 私も、一緒に現地へ行きたいです!」

「えぇ!?」

 

 突然何を言い出すのだろうか。このお嬢様は。

 あまりにもあんまりな意見である。

 

 ドラゴンがどの程度危険なのかは現地に行かなければ分からないが……。

 それでも最悪の場合は俺達でも対処できない化け物なワケだ。

 そんな化け物の近くに依頼主を連れて行くなんて、出来る訳がない。

 

「申し訳ございませんが、それは出来ません。現地は非常に危険ですから」

「しかし、リョウ様は私の護衛をして下さると」

「まぁ……色々な要望がありましたからね。依頼としてはそういう形で受けましたが、今は護衛よりもドラゴンの情報を集める方が優先でしょう?」

「それは、そうなのですが……私も、自国の事ですから、しっかりと見守りたいのです。コトの推移を……! それに現地には先にお兄様も向かっておりますから。お兄様の安否も心配で……」

「あー」

 

 別に完全に忘れていた訳では無いが。

 そういえばお兄さんお件もあるんだったと俺は思い出していた。

 

 しかし、そうであったとしても危険地帯にわざわざ連れて行くというのは、正直反対である。

 フローラちゃんのお兄さんだって、兄であるのなら、妹の事が心配だろう。

 安全な場所に置いて来た筈の妹が、危険地帯に来ると知ったら、正気ではいられない筈だ。

 少なくとも俺はそうだ。

 

 であるなら、ここは断る方が良いのだが……。

 

 両手を胸の前で握り合わせながら祈る様な顔で俺を見るフローラちゃんに、俺はそんな厳しい事が言える筈もなく。

 

「分かりました。では、近くまで。危険だと判断したらすぐにフィオナちゃんと一緒に下がって貰いますよ」

「はい! 大丈夫です! ありがとうございます!」

 

 元気よく返事をするフローラちゃんに、何だかなぁと思いながら、俺は軽く視線を皇帝陛下に向けた。

 皇帝陛下はこうなることが分かっていた様で、特に大きな反応を見せず、小さく頷くだけだった。

 

 フィオナちゃんとリリィちゃんは……まぁ、何か酷く呆れた様な顔をしているが……俺は悪くない。

 いや、だって断れないだろう!? こんなの!

 桜みたいに可愛い子が、頼んできているんだぞ!?

 兄……では無いけれど、小さい子の願いは踏みにじれないのだ。

 

「亮さん」

「分かってるから……全部言わなくても分かってるから」

「もー。本当にリョウさんって小さい子が好きだよねー」

「言い方には気を付けて欲しいな。フィオナちゃん。俺は別にそういう趣味じゃないから」

「そうだよ。フィオナ。亮さんは妹が好きすぎて、おかしな行動をしちゃうだけの人だから」

「それはそれで酷い誤解を生みそうだから許してもらえるかな? リリィちゃん」

 

 俺は二人に言い訳を続けたが、最後まで受け入れられる事は無かった。

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