異界冒険譚   作:とーふ@毎日なんか書いてる

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第279話『依頼の始まり(ドラゴンへ)2』

 リメディア王国へ来た時と変わらないメンバーで俺たちはドラゴンが現れたという場所へ向かう事になった。

 本当はフローラちゃんだけ安全な場所に居て欲しかったのだが……兄が心配だというのならば断る事は難しいだろう。

 兄想いの妹の願いを叶えなくては、兄として申し訳が立たない。

 

 まぁ、別に俺はフローラちゃんの兄では無いのだけれど。

 誰の兄だろうと、兄は兄なのだ。

 

「また、変な事を考えてますね」

「そんな事はないよ」

「顔に書いてありますよ。妹、妹って」

「さて。何のことやら」

 

 俺は適当に誤魔化しつつリリィちゃんから顔を逸らした。

 恐ろしいほどよく当たる推理である。

 あんまり顔は見せない様にしよう……。

 

「……でも、どうやら私たちの考えすぎだったみたいですね」

「うん? フローラちゃんの事?」

「はい。私たちが考えていたみたいな……何かを企んでいるという事は無さそうですね」

「まぁ、そうだね」

 

 と、リリィちゃんに返事をしつつ俺は前を歩く二人に視線を送る。

 フローラちゃんはフィオナちゃんとすっかり仲良くなったようで、実に楽しそうに話していた。

 まぁ、それだけ見ていると普通の女の子の様に見えるし。何かを企んでいる様には見えない。

 

 先ほどの話し合いでもドラゴンを何とかしたいと心から考えている様だったし。

 お兄さんの事も本当に心配している様であった。

 

 皇帝陛下の意見にも素直に頷いていたし。

 やはり何も企んではいないのだろう。

 そんな風に考える事は出来ると思う。

 

 だが……俺はそれでも拭えない違和感を強く覚えていた。

 俺の中にある兄としての勘が言っているのだ。

 妹が嘘を吐いていると、強く確信している。

 

 だが何の根拠もない為、リリィちゃん達に伝える必要は無いだろうと俺は言葉を飲み込むのだった。

 

 そして、どこまでも広がるのどかな光景を見やった。

 

「このまま何もなく平穏に終われば良いんだけどねぇ」

「そうですね。ドラゴンと対話が出来るかもしれない。なんて考えた事もありませんでした」

「あー。そうだね。俺たちの魔物研究もまた一歩進んだという所かな」

「……進んだのでしょうか?」

「正直何とも言えないな。でも、後退はしてないと思うよ。流石に」

「そうですよね。新発見ですもんね」

「そ。偉大な発見さ。もしかしたらドラゴン以外にも喋る事の出来る魔物が……」

 

 と、途中まで話してから俺はふと思い出していた。

 いや、居たな。

 対話が出来る魔物……では多分ない存在が。

 

「どうしたんですか? 亮さん」

「あー、いや。実はさ。俺、会った事があるんだよね。言葉を話す……たぶん魔物」

「えぇー!? 本当ですか!? って、たぶん?」

「んー。そうなんだよ。魔物というよりは神様みたいな空気の存在に見えてさ。普通の魔物と一緒にしても良いのか悩ましい存在だったね」

「はぁー。神様ですか。それは凄いですねぇ」

 

 リリィちゃんは、「なるほど」なんて呟きながら頷く。

 俺の言葉を素直に信じてくれるリリィちゃんを見て、嬉しく思いながらその特徴を伝えた。

 

「金色の大きな狐でさ。セオストに来てすぐの頃に行った森での依頼で会ったんだよ」

「何か言ってましたか?」

「まぁ、あんまり森を荒らすなよ。みたいな感じの事」

「森の神様ですもんね。やっぱりそういう感じの警告なんですね。子供の頃に聞いた昔話みたいですね」

「神様も人間も、自分の住処を荒らされたら嫌っていうのは変わらないんだねぇ」

「そうですねぇ」

 

 なんだか微妙にほのぼのとしてしまったが……まぁ良いか。

 特に悪意は感じなかったし。

 本当に静かに森で暮らしているだけという感じだった。

 

「あの森の神様を思うと、ドラゴンも案外穏やかで話がしやすい感じなのかもしれない。なんて思っちゃうな」

「そうだと良いですね」

「そうだねぇ」

 

 なんて話していたのだが。

 現実という奴はそれほど容易くは無いらしく。

 

 俺たちは遥か遠方からでも確認出来るその姿を見て、ゴクリと唾を飲み込んだ。

 

 リメディア王国の中心からそれほど歩かずに到着したその場所で、その巨大な魔物は凶暴そうな顔で地面にその大きすぎる体を投げ出していた。

 周囲にあったであろう家々は無惨にも倒壊しており、町の半分くらいを押しつぶしながら寝ているドラゴンに平和的な要素は見えない。

 

 いや、寝ているだけなのだから平和と言えば平和なのだが。

 そのサイズがとにかく規格外であり、セオストの四分の一くらいの大きさである巨大なドラゴンは地面に寝ているだけで周囲の木々をなぎ倒し、街を半壊させていた。

 

 恐ろしい程の存在感だ。

 

「ふむ。どうやらまだ子供のドラゴンの様だな」

「あれで!? 子供なんですか!?」

「あぁ。成体は山よりも巨大だからな。アレはせいぜいが一つの町の半分くらいだろう? まだまだ子供のドラゴンさ」

「そ、そうですか」

 

 そりゃ、そんなのが街に降りてきたら大騒ぎになるし、最悪は国が滅ぶというのもよく分かるという物だ。

 

「だが、子供か。少々難しい事になったな」

「と、言いますと?」

「お前は自分の子供が知らない奴に傷つけられたらどうする?」

「無論、復讐をしますが……あぁ、そういう事ですか。それは厄介ですね」

「そう。子供。アレは子供なのだ。無暗に傷つければこちらもタダではすまない。成体がどこに居るか、分からないのだからな。最悪は全滅する」

「……」

 

 とんでもない話である。

 ドラゴンの子供が現れて、町が半壊しているというのに、そのドラゴンと戦えば成体のドラゴンが現れて街を滅ぼす可能性があるというのだ。

 いや、流石にちょっと待ってくれという様な話だ。

 

「何か手は無いんですか?」

「無いことは無いが……あの子供と話が出来るかどうか、それ次第だな」

「え? でもドラゴンとは対話出来るんですよね?」

「無論出来る。が、まだ生まれて二年、三年くらいの子供とまともに対話する事は出来ないだろう?」

「あぁ、なるほど……それは、確かにそうですね」

 

 言葉が話せるからと言って、会話が出来るとは限らない。

 考えてみれば当たり前の話だ。

 どんな生き物だって、生まれた瞬間から全てが出来るという事は無いだろう。

 少しずつ学んで、出来る様になっていくのだ。

 

 そして、それはドラゴンもまた同じである。という事だ。

 

「しかし、そうなると、試してみないと駄目ですね」

「あぁ。しかし、あのドラゴンに近づくのは中々容易ではないぞ」

「そこはまぁ。何とかなるでしょう。危なかったら逃げるので。ヤバい気配を感じたら皆さんは先に逃げてください」

「そうか。では任せた」

「はい」

 

 アッサリと任せてくれる皇帝陛下に感謝しつつ、俺はドラゴンの元へ向かおうとしたのだが。

 服を誰かに引っ張られてしまう。

 

 いや、まぁ。誰かと言いつつ力の感じから誰かはすぐにわかるのだが。

 

「どうしました? フローラちゃん」

「い、いえ。危ないのではないでしょうか?」

「まぁ、危ないは危ないでしょうね」

「だったら……!」

 

「でも、このままって訳にはいきませんから。大丈夫。俺はこんな所では死にませんよ」

 

 俺はフローラちゃんの前で軽く腰を落として目線を合わせながら笑う。

 いつもの様に。

 何も変わらない。普段通りの姿で。

 

 とは言っても、フローラちゃんは俺の普段など知らないだろうけど。

 こういうのは雰囲気が大事なのだ。

 

「うん。じゃあ後の事は頼んだよ。フィオナちゃん。リリィちゃん」

「うん! リョウさんも気を付けてね!」

「はい! お任せ下さい!」

「よし! 行くか!」

 

 俺は勢いよく地面を蹴り、ドラゴンに向かって駆けだした。

 交渉が出来るくらいには言葉が通じてくれと祈りながら。

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