リメディア王国の王太子及び、第一王女殿下の自己紹介により、リリィちゃんとフィオナちゃんは正気を失った。
訳ではないが、まぁまぁな大混乱をしており、あわあわと意味のない言葉を繰り返している。
大丈夫だろうか……。
しかし、やはりというべきか。
スタンロイツ帝国の皇帝陛下はお二人の事をご存じだった様で、何も驚く様子はなく落ち着いていた。
まぁ、それはそうだろうけれども。
普通に考えれば国のトップ。
現在のスタンロイツ帝国を治めている人間だ。
他国の王族くらいは把握しているだろう。
「ふむ。なかなか盛り上がっているな」
「そうですね。しかし、ご存じだったのであれば、教えて下されば良かったのに」
「他国の王族が隠している事を、私が明かすワケにはいかないだろう?」
「……ごもっともです」
ぐうの音も出ない程の正論だ。
俺はそれ以上何もいう事が出来ず、小さく息を吐いてから二人に落ち着く様に言った。
そして、王太子殿下の話の続きを聞く事にするのだった。
そもそもまだ何の話も聞いては居ないのだ。
まだ話の入り口である。
「わたわたと申し訳ございません。話の続きを伺ってもよろしいでしょうか」
「あぁ。こちらこそすまぬ。この様な混乱を招く事は分かっていた事なのだから、早めに開示するべきであった」
「いえいえ。セオストで開示していたら、それはそれで大問題でしたから。よき決断であったと思います」
「そうか。そう言ってくれると助かる」
エリック王太子殿下はコホンと咳ばらいをしてから話の本題を語り始めた。
そう。ドラゴンの話だ。
「そもそも、何故ドラゴンが我が国に来たのか。全てはバクーシ帝国の横暴な要求から始まった」
「……バクーシ帝国」
「英雄殿はどこかで聞いたことのある名前なのか?」
「あ、英雄ではなくリョウとお呼びください。と、そうですね。どこかで聞いたことがある様な気がするんですよね」
「姫様がお話してくれたからじゃないですか? 地図で教えてくれたじゃないですか」
「いや、その時にも何か引っかかってたんだよね。どこかで……もっと前に聞いたことがある様な」
どこかで聞いたことがある名前だな。と思いつつ俺はその名前が思い出せずに居た。
うーんと腕を組みながら考えて居ると、俺を見ていたスタンロイツ帝国の皇帝陛下がおかしそうに笑いながら俺に指摘する。
「なんだ。覚えていないのか? リョウ」
「と言いますと?」
「私と初めて会った時、国連会議の場でお前がアリア姫を護り戦っていただろう」
「あぁ、そういえばそんな事もありましたね」
「その時、戦っていたのがバクーシ帝国の皇帝と、その近衛兵だ」
「あぁ! あの人たちですか!」
俺は雷鳴の様に、ひらめきで当時の記憶を思い出した。
ココちゃんに攻撃した皇帝陛下の方が強く記憶に焼き付いていて忘れていたが!
確かに最初あの場所でアリア姫様に不敬な事をぶつけてきたのは、汚い笑い方をした汚い男であった。
「アレですか」
「王族をアレ呼ばわりとはな。面倒を起こすぞ」
「最悪の場合は家族とセオストを離れ、別の場所へ行くので」
「その時はスタンロイツ帝国へ来い。セオストよりも報酬は高いぞ」
「いや……それは」
「たまにはジーナを里帰りさせてやりたいとは思わないか?」
「嫌な言い方ですね。と、話が逸れてますよ。それで、そのバクーシ帝国の皇帝が何をやらかしたんですか? 王太子殿下」
「あ、あぁ……それがな。フローラを寄越せと」
「……はぁ。やっぱりあの時、首を落としていれば良かったですね」
「そう言うな。それはそれで面倒な問題が起こる」
「でも、ここでの問題は起きなかったでは無いですか。なら、そちらの方が幸せだったのでは?」
「いや、バクーシは、父親も大概だが第一王子も中々な愚物でな。アレが王になってまともになるとは思えん」
「王族は皆殺しの方が良いという事ですか」
「ふむ。確かにそういう考えもある。だが、あそこは王族も数が多い。中にはまともな者も居るかもしれん」
「それは……また厄介ですね」
俺はため息と共に過去の悔やみを吐き出した。
あの時、あぁすれば良かった。
みたいな話に意味はないが、今回はそれを強く感じてしまう。
「それで、妹は渡せぬと断った所……ドラゴンを向けられた。と、そういう事か?」
「あぁ。その通りだ。しかもバクーシ帝国の仕業と分からぬよう、スムディス王国の領地からな」
「そういう事ばかり上手いな。あの国は……まぁ、だからこそ『帝国』であるのだが」
「帝国、ですか?」
「そう。帝国の本領は軍事力を高め、その高めた軍事力で他国を侵略・支配する事にある。今回のフローラ嬢の件はその一環だろう」
「しかし、であるならば何故ドラゴンを送り付ける様な回りくどい真似をする」
「決まっているだろう。反撃を待っているのさ。もしくは救助の妖精かな」
「……!」
「リメディア王国はスタンロイツとも関係が深いからな。大した理由もなく攻め込めば、我らが介入してくる事は目に見えている。だから我々が介入出来ない理由を作る為に、ドラゴンを送り込んでみたのだろう」
「なるほど……!」
何とも面倒な国だなと思いつつ、俺は解決策を頭の中で模索する。
向こうはあくまで表立っては敵対していないのだろう。
あくまで裏側。
バレない様に動いている。
もし、リメディア王国が何かコトを起こしても被害者の様な顔が出来る様に。
なら……。
「リョウ。暗殺などはするなよ」
「いやしませんよ」
「大丈夫? リョウさん。抑えていられる?」
「フィオナちゃん。君は俺の事を何だと思っているのかな?」
「でも、亮さんなら選択肢の中に出ているんじゃないですか? 王族を全員始末すれば良いか。みたいな」
「……リリィちゃん。俺はそこまで血に飢えた人間じゃないんだよ」
「じゃあ、どういう解決策を考えていたのですか?」
「そりゃあ……ドラゴンをうまい事追い立てて、バクーシ帝国に送り返すとかさ」
「十分血に飢えてるじゃないですか」
「でもやり返すのなら、一番分かりやすい方法だろう?」
「やりすぎです! 王族の人が悪い人でも、国民は関係ないんですよ」
「まぁ、確かに。それはそうだね。せっかくだから現地で親ドラゴンも呼べば良いんじゃないかと思ったけど、こう軽く傷つけてさ」
「うわ……」
「リョウさん……流石にそれは人としての大事な物をどこかに置いてきちゃってるよ」
「たぶん、お母さんお腹の中だよ。フィオナ」
「あー。やっぱり?」
「やっぱりじゃなーい!」
ヒソヒソと目の前で話をしているリリィちゃんとフィオナちゃんに怒るが、二人はきゃーと言いながら小走りに逃げるのだった。
まったく!
「ふ、ふふ」
「うん? フローラ様?」
「あ、申し訳ございません。真剣に考えて下さっているのに」
「いえ。それは問題ないのですが……何かおかしな事でもありましたか?」
「そうですね。皆さんに依頼をして良かったと。今、心から思っております」
「そうだな」
「えっ!? 実は皆さんはリョウさんの血生臭い解決法を望んでいるのでしょうか……?」
「あ! 違います違います! そうでは無くてですね。ただ、ドラゴンが居ると知っても、敵が帝国であると知っても、逃げず、解決する為の作戦を考えて下さる事は……本当に嬉しいんです」
目じりに涙を浮かべながら笑うフローラ様に俺は、目を細めた。
その姿に、これまで彼女が抱えてきた苦労が見えるかのようだ。
断られてきたのだろう。
逃げられてきたのだろう。
そして、希望を繋ぐためにセオストへ来た。
ならば……。
「えぇ。解決は任せて下さい。最悪は色々な手段がありますからね」
「やはり暗殺か!」
「ドラゴンでバクーシ帝国を血祭り?」
「ちがーう! ジーナちゃんとかを呼んで、平和的にドラゴンを返すとかだよ!」
まったく、言いたい放題だな。
しかし、表情は誰も引いてはいない。
戦うのだとハッキリ言っていた。
ならば、一番良い解決策を考えるだけである。
と、俺は宣言するのだった。