血なまぐさい手段を使わず事態を解決する!
と宣言したは良いが、言うは易く行うは難しという奴である。
言うだけなら誰にでも出来るのだ。
問題はどうやってそれを実行するのか。という話である。
「と、まぁ宣言したものの策は無いんだけどね」
「まぁ、あればもう言ってますもんね」
「そういう事だね」
リリィちゃんの言葉に頷きつつ、俺は早速何も浮かんでませんよと白旗を上げた。
そして、みんなで考えましょうと再びリメディア王国の王族方に返すのだった。
「ふふ。では皆さんで考えましょうか」
「そうだな」
「……ふむ」
「どうしたんですか? 皇帝陛下」
「いや、アレが寝ているのであれば、やはりジーナに転移させるのが一番確実かと思ってな」
「確かに、そうですね」
「しかし、問題点が二つある」
スタンロイツ帝国の皇帝陛下は指を二本立てながら一つずつ問題を語る。
「まず一つ。転移魔術を使うと膨大な魔力が術者に集まる訳だが……その魔力に反応してドラゴンが目覚める可能性がある」
「えっ」
「あり得る事だ。リスクとしては十分にある」
「……なるほど」
「そしてもう一つ。ジーナはドラゴンをペットか何かだと思っている所があってな。ドラゴンを見つけると……遊ぶかもしれん」
皇帝陛下の『遊ぶ』という言葉に、俺は何も言えず黙り込んでしまった。
ジーナちゃんだ。
ジーナちゃんである。
前もゲームを買う時にドラゴンで遊ぶゲームを買いたがっていた。
かなり信憑性のある話だと思われる。
つまり、ジーナちゃんはドラゴンで遊ぶ可能性があるのだ。
そうなればどうなる?
魔法使いとドラゴンの戦いだ。最悪はリメディア王国が滅ぶ事になるだろう。
何ならジーナちゃんを呼んだ方が事態が悪化する可能性すらある。
というよりも高そうだ。
「別の案にしましょうか」
「うむ。その方が賢明だろうな」
皇帝陛下も同じ意見である様で、俺の言葉に頷いていた。
まぁ、それはそうだ。
ジーナちゃんは何でも出来る代わりに、何をしでかすか分からない子なのだから。
「一応の確認であったが、やはりジーナは使えんな。使うにしても最後の手段とする方が良いだろう」
「そうですね。最悪リメディア王国が滅んでしまいますし」
「あぁ。という訳で次の手だが……ドラゴンを眠らせたままどこかに運んでしまうという手だ」
「それなら我らも考えていた」
「だろうな。それで? どの程度準備が出来ている?」
「眠らせる為の餌を準備させている。定期的に食べさせる用だな」
「ふむ。ではあと何が足りない」
「人手だ。ドラゴンが暴れた際の対処はリョウ殿達に任せるとしても、ドラゴンを運ぶ者が足りん」
「そうか。では我が国から人員を呼ぼう。他は?」
「運ぶ場所だな」
「そうだな。バクーシに運ぶわけにもいかんし。他の国も難しいか……」
皇帝陛下はふむ、と腕を組みながら考えている様だった。
そして、少ししてから一つの答えを提示する。
「ならば、我がスタンロイツの領土に運べば良い」
「良いのか!?」
「無論だ。私がそう提案しているのだからな。反対する者など居るはずもない」
「それなら良いが……」
どこか不安げな様子で王太子殿下は呟いた。
その言葉に皇帝陛下はニヤリと笑いながら応える。
「そこもバクーシの狙いであったのだろう。ドラゴンをどこかに運ばねばならない。だが、リメディアと隣接するどの国へドラゴンを運んでも……その国との関係は最悪となり、戦争状態となる。そうなればバクーシが介入しやすい状況が出来上がる」
「くっ……」
「だが、そうさせない為にスタンロイツへとドラゴンを運ぶのだ」
「……しかし、それをして貴国に何のメリットがある」
「まぁ、一番大きな所は貴国へ恩を売る事が出来る事だな。例えばこの先、貴国の食料生産量が減ったとしても、我が国はこれまで通りの量が輸入出来る様に交渉できる、とかな」
「……」
どこか納得できないという様に顔をしかめる王太子殿下。
まぁ、気持ちは分かるけれども。
「しかし、皇帝陛下」
「なんだ? リョウ」
「その輸入やら何やらの問題で、隣国との関係が悪化する可能性があるのなら、あまり意味が無いのでは?」
「ふむ……まぁ、確かにな」
俺の言葉に王太子殿下は少しだけ喜びを顔に出しながら俺に軽く目線を向けた。
そして小さく頷く。
良かった。
一応王太子殿下的にもありがたい発言であったらしい。
「ならば……同盟でも結ぶか? エリック・リューン・リメディア」
「っ! 同盟、だと……!?」
「そうだ。我が国としても貴国が妙な事に巻き込まれるのは困るのだ。先ほども言ったが、食糧問題があるのでな。出来る事なら下らぬ争いになど巻き込まれず、ただ食料生産を続けて欲しいと考えている」
「……我が国は貴国の食糧庫では無いのだがな」
「無論理解はしている。だから、貴国の事にあまり多くは介入しないさ。だから同盟と言っただろう? 貴国を我が国の配下に置くつもりはない」
「信じられるか! その様なこと!」
「信用されないというのは悲しいものだな」
とは言ってはいるが、皇帝陛下は余裕の笑みを崩さないまま話をしている為、非常に胡散臭い。
本当に信用しても良いのか? と疑問になってしまうのも仕方が無いだろう。
しかし、皇帝陛下の話を聞いて、以前行ったスタンロイツ帝国の状況。
ジーナちゃんから聞いたスタンロイツ帝国の話を思い出すと……皇帝陛下の言いたいことはよく分かる。
「お話し中失礼。私も意見しても良いですか?」
「許す」
「あぁ。許そう」
「何となく外から見てるとですね。互いにすれ違っている部分があるんじゃないかなって思ってまして」
「すれ違い?」
「はい」
「まず、皇帝陛下の方なんですが」
「あぁ」
「リメディア王国の方々は、スタンロイツ帝国が怖いんですよ」
「ふむ」
「軍事力とか国土とか色々理由はあると思うんですけど、対等な立場で同盟なんてありえないと考えているんじゃないかって」
「だから……何か裏があるのではあないか? と」
「はい。そして、リメディア王国のお二人」
「は、はい!」
「あぁ」
「お二人が思っている以上にスタンロイツ帝国の食糧事情は厳しいと私は考えています」
「……それほどか? しかし魔物が出て、それを十分に狩る事が出来るのであれば、食料は足りているだろう。現にスタンロイツは他国に魔物の肉や素材を多数輸出しているではないか」
「んー。それはそうなんですけど」
「バランスだ。エリック・リューン・リメディア」
「バランス……?」
「実は、200年ほど前に我が国である病が流行ってな。その原因を調査した所、食事の偏りに問題があると出たのだ」
「なんと……!」
「今では当たり前の様に様々な食事を口にしているがな。以前はそうではなく、その時はそれはもう大問題であったのだ」
「……なるほど」
「そんな我が国の問題に、快く手を差し出したのが、初代リメディア国王であった。彼らは農作物が我が国では多く取れぬと知ってからは、それを我が国から輸出すれば良いと、それまであった軍事施設を全て破壊し、全て農地としたのさ。素晴らしき王であったよ」
「……」
「ゆえに、あの時から我が国は貴国へ向かう魔物は全て排除し、帰国へ魔物の素材を送る代わりに、我が国は農作物を受け取るという関係が出来たのだ。まぁ、かの王より四代程後の王に、同盟は破棄され、あくまで輸入、輸出だけの関係となったが……その辺りは貴国でも伝わっているだろう?」
「あぁ。少し話は違うがな」
「伝承とはそういう物だ。しかし、こうして身の内を明かしたのだから、また同盟を結びたい物だがな」
と、皇帝陛下は手を差し出しながら言葉を向けるのだった。