異界冒険譚   作:とーふ@毎日なんか書いてる

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第285話『依頼の始まり(ドラゴンへ)8』

 腕にしがみついたフローラ様にどうしたものかと悩んでいると、不意に横から手が伸びてきて、フローラ様をそっと俺から離してくれた。

 そして、どこか驚いた様な顔をしているフローラ様にニッコリと微笑んでから口を開く。

 

「駄目ですよ。フローラ様。立場が上の者が下の者を困らせては」

「む。私は別に困らせてません!」

「そうかもしれないですけど。実際にリョウさんは困っていますからね。フローラ様にその気が無くても」

「え……リョウ様。そうなのですか?」

「あー、いやー。それは……どうでしょうかね」

 

 困らせているか?

 なんて疑問にそうです! なんて言える訳もない。

 こういう時に言えることなんて、どうでしょうか。と誤魔化す事くらいだ。

 

 しかし、なんと答えようとも、俺が困っているのはよく分かる為、フローラ様はやや落ち込んだ顔になってしまった。

 申し訳ない!

 申し訳ない気持ちでいっぱいだ!

 

「フローラ様。確かに、フローラ様が頑張ってリョウさんに迫れば、お願いすれば。リョウさんはフローラ様と結婚してくれるかもしれません」

「……はい」

「でも、愛のない結婚って、寂しいと思いませんか?」

「それは……そうですね」

「エルネスト様は確かにお姫様と結婚されたのですが、それは互いに愛し合っていたからです。まず愛があって、結ばれて、それで結果的に貴族となった。それだけなのですよ」

 

 普段は割と子供っぽいというか。

 元気で明るく、人の好き嫌いをしないで、誰とでもすぐに仲良く壁無く話すタイプのフィオナちゃんが。

 しっとりとした落ち着く笑顔を浮かべながらフローラ様に話しかけている姿は……少し新鮮である。

 

 こういう顔も出来たのだなと、失礼ながら思ってしまった。

 

「では、フィオナさん。私はどうすれば良いのでしょうか」

「うーん。そうですねぇ。リョウさんに関して言うのであれば、正直私も分からないんですよね」

「わ、分からないのですか」

「はい。だってこの人。口を開けば妹、妹。二言目には妹、妹ですもん。恋愛的に好きな人の話なんてたまーにしか聞かないんですよ?」

「まぁ……! お兄様と同じですね」

 

「あら。王太子殿下も同じなんですね。それは苦労されますね」

「そ、そうなのですか?」

「はい。リョウさんったら、妹、妹言ってるので、女性との交流が本当に少ないんですが、じゃあリョウさんの妹的なポジションに行けば良いんじゃないかって思うじゃないですか」

「そうですね。それほどに愛して頂けるのであれば」

「しかし、そこが実は罠でして。一度妹と認識してしまうと、何をどうしようと妹なんです」

「……? それは、良い事なのでは?」

「と、思うじゃないですか。しかし、例えば口づけをしたとするじゃないですか……すると!」

「すると」

 

「『妹が大人の真似事をしていう。そういう時期なんだなぁ』で、のほほんですよ。勇気を出した子は可哀想に、撃沈しました」

「まぁ……!」

 

 何やら話の流れが大きく変わり、俺を責める様な流れに変わっている気がする。

 良いのか? このまま放置して。

 良いのか! 俺!

 

 しかし、止めようと動こうとしたら、腕をガシっと掴まれてしまう。

 フローラ様とフィオナちゃんが話をしている以上、この俺の腕を掴む手の主は一人しか居ない。

 

「駄目ですよ。亮さん」

 

 そう。リリィちゃんである。

 振り払おうと思えば出来るが、妹にそんな事が出来る訳もなく。

 俺はただ、二人の話を見守る事しか出来ないのであった。

 

「そういう訳だから。リョウさんと恋愛関係になるのは非常に、ヒッジョーに、難しいってワケなんですよ」

「そうですね。その様な状態では……」

 

 フィオナちゃんとフローラ様が俺に視線を向けてくるが、乗せられている感情は哀れみ。

 まるで病人を見る様な目であった。

 

 いや、そんな俺を異常者みたいな目で見るのは止めて頂きたいんですが?

 俺は別に異常じゃない。

 俺は普通なんだ。

 

「お話をまとめますと、妹と認識される前に女性として認識されなくてはいけない。という事ですね」

「そういう事です。悲しいかな。私の親友は既に妹と認識されたので、一緒に水浴びをしても、同じベッドで寝ても無反応だったそうで……」

「なんてことでしょう……!」

 

 フィオナちゃんから出た親友という言葉に、俺は隣を見た。

 リリィちゃんは分かりやすく俺から顔を逸らし、口笛を吹けないのに、吹いているふりをしている。

 なんて悪い子だろうか。

 

「リリィちゃん?」

「私は何も悪くないですよ」

「フィオナちゃんに話したんだね? 全部」

「さぁ。何のことか、サッパリ分かりませんね」

「ヤマトでの事はリリィちゃんしか知らないからね? 誤魔化せないよ」

「風の噂で聞いたのかもしれません」

「……まぁ、俺が止める権利は無いから良いけどさ」

 

 俺はひとまず諦めの空気を纏いつつ、フローラ様とフィオナちゃんを見ながら会話を聞く。

 リリィちゃんを責める権利も特に無いし。

 本人が良いと言っているのなら良いのだ。

 

「もしかして、怒ってます?」

「いや? 別に怒ってはいないけど」

「それなら良いんですけど……」

「まぁ、リリィちゃんが旅の思い出をフィオナちゃんに話すのは当然の事だしね」

「そ、そうですよね」

「フィオナちゃんはどうだった?」

「まぁ、頑張れって感じでした」

「そっか」

 

 頬を朱色に染めながら微笑むリリィちゃんに、俺は二人の仲が良くて何よりだと笑みをこぼす。

 ひとまず俺の評価は最悪であるが、フィオナちゃんとリリィちゃんの関係は何も変わらず順調な様だ。

 それだけは良かった。

 

「という訳で。リョウさんは非常に面倒な人だという事です。狙うのなら別の人が良いですよ」

「狙うとか。そういう事では無いんです」

「そうなんですか?」

「はい。私、リョウ様に一目惚れ! というモノをしてしまったのです!」

「あら、まぁ」

 

 フィオナちゃんは精一杯という様な様子で叫んでいるフローラ様から視線を外し、いたずらっ子の様な顔で俺を見やった。

 口には出していないが、どうするんだ? という様な言葉が透けている様に見える。

 

 いや、どうするんだって言われても俺の回答は何も変わらないわけだが。

 

「そう言っていただけるのは嬉しいんですが、俺はそれほど面白くはない男ですよ」

「そう? 私は結構面白い人だと思ってるけど」

「茶化さないの。そういう見てて面白い。みたいな意味じゃなくてさ。女の子が楽しめるかとか、そういう意味でだよ」

「……うーん?」

「デートとかしててさ。そこまで女の子を楽しませたコト無いんだよ。俺は」

「え!?」

「えぇ!?」

 

「何をそんなに驚いてるの」

 

 俺はリリィちゃんとフィオナちゃんに文句をぶつけ、二人は驚いた顔のまま口を開いた。

 

「いやーリョウさんって女の子とデートとかするんだなーって思って。てっきりサクラちゃんにしか興味が無いんだと」

「あ、そうか。桜ちゃんとデートしてたんですね!?」

「いや。違うよ。同じクラス……あー、同じ師匠の元で修行してた時の子」

「そ、その人は、強かったんですか!?」

「いや……別に何も戦う術は持ってなかったから、弱かったと思うけど」

「弱いのに……! デート! 亮さんと!」

「そんなに驚くような話じゃないと思うけどね」

 

 俺はリリィちゃんにツッコミを入れるが、リリィちゃんは特に聞いていない様だった。

 そして、そんなリリィちゃんの混乱に巻き込まれて、フローラ様とフィオナちゃんも混乱の世界に落とされてしまう。

 

「そ、そんな! セオストの常識が……!? リョウさんに普通の恋人が!?」

「これは、喜ぶべきなのでしょうか。しかし悲しむべき?」

「弱いのに……! 強くないのに……!?」

 

「あー。皆さん。少々落ち着かれませんか?」

 

 俺が再度発した声は、やはり届かなかった。

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