しばし少女たちの混乱を静かに眺めていた俺であったが。
ようやく彼女たちが落ち着いてきた事で、俺も再び口を開いた。
「落ち着いた?」
「う、うん。そうね。少し落ち着いた。うん。あんまりにも予想外な事を言われちゃったから」
「そんなに驚くような事だったかな」
「まぁー。凄く驚くような事だったと思うよ? 正直。セオストの人が聞いたらみんな驚くんじゃない?」
それほどか。
と、俺はフィオナちゃんの言葉に少しばかりショックを受けてしまった。
しかし、落ち込んでいても名誉は回復出来ない。という事で俺はひとまず口を開く。
「ビックリするかもしれないけど。俺も普通の人間だったって事だね」
「ふ、つうの人間? 亮さんが? 普通?」
「そんなに驚くような事でも無いと思うんだけど、ね。どう思う? リリィちゃん」
「驚くような事だと思います!」
「そ、そう……」
何故かハッキリと正面から言われてしまい、俺はうーんと困ってしまった。
どう言ったもんかね。この状況は。
「まぁ、俺も普通の人間なんだよ。納得できないかもしれないけど」
「えと、リョウ様」
「はい。なんでございましょう」
「……その方は年下の方だったのですか?」
「いえ。同じ年でしたね」
「そ、そうなのですね」
「まぁ、俺は別に年下の子が特に好きという事では無いですからね」
「なるほど?」
イマイチ納得出来ていないかの様なフローラ様が首を傾げるが。
これは真実である。
「では、リョウ様は年下の子は、どのくらい好きなのでしょうか」
「どのくらい……?」
不意にフローラ様から、かなり難しい質問を投げかけられてしまった。
いや、本当に難しいな。
本音を言うと、年下は恋愛的な好みから大きく外れているから。
どれくらいも何も、年下というだけで申し訳ないです。という空気になる。
しかし、それをそのまま伝える事など出来る訳がない。
フローラ様はまだ子供なのだ。
子供というのは夢を見ていても良い年頃の事だ。
ならば夢を壊す様な事は言えないだろう。
という訳で、俺はひとまずフローラ様に、それらしい事を言うコトにした。
夢を壊さない程度にね。
「あー、っとですね」
「……はい!」
「俺の年齢を境にして年下、年上と選んでいる訳では無くて、ですね」
「はい!」
「こう、ある程度の年齢よりも上の方にとても魅力を感じています」
「なるほど! では私も成長すればリョウ様の好みになるという事ですね」
「……まぁ、そういう事かもしれないですね」
俺は諦めて適当な答えをフローラ様にお返しした。
もはや何も浮かばなかったのだ。仕方あるまい。
それに、ある程度時が過ぎれば俺の事なんか忘れて別の男を好きになるだろう。
と、すっかりフィオナちゃんと仲良くなり、頑張ります! なんて笑っているフローラ様を見ながら思うのだった。
しかし、どこか安堵していた空気は、背後から現れた刺客がその細く長い指で背中をツンツンする事で破られた。
「うっ」
「良いんですか? あんな事言って」
「良いも悪いも。今ここで現実の話をする訳にはいかないでしょ。俺は年下には興味が無いから、多分一生無理ですよ。みたいな話」
「それは、そうかもしれないですけど。女の子って、結構長いですからね」
「……長いっていうのは」
「恋したら、ずっとその気持ちを大事にするって事です」
「いや……でも、ほら。もっと好きな人が現れたら、ね?」
「でも思い出って美化されるじゃないですか」
「……確かにね」
「しかも子供の頃の思い出なんて、原形がなくなるくらいまで美化されますから」
「……たまに会いに来るか」
「いつも会いに来てくれる……! 好き……! ってなるんじゃないですか? というか、そんなにちょくちょく来てたら、あぁ、もう二人はそういう仲なんだ。って思われるだけですよ」
「逃げ場が無いじゃないか」
「だから、そう言ってるじゃないですか」
思っていたよりもやばい状況に俺は頭を抱えてしまった。
何も考えず、俺は何をやらかしているんだ! と叫びたい衝動に駆られた……が、まぁやってしまった事はしょうがない。
もっといい男が現れる事を祈ろう。
神様のお仕事に期待である。
「私は知りませんからね。どうなっても」
「……そう言いつつも、イザとなったら助けてくれるって信じてるよ」
「フン。だ。私はそんなに甘くないですよ」
リリィちゃんはそっけなくそう言って、フィオナちゃん達の方へ走って行ってしまうのだった。
救いは無い。
俺の問題は俺が解決するしか無いのだ。
まぁ、当たり前の話ではあるのだが。
そんなこんなで、俺たちは時間を過ごし。
しばらくしてから皇帝陛下が多くの人を連れて戻って来た。
ざっと見ただけで百人くらいは居そうだが……。
実際これで運べるのか。という点は謎である。
「うむ。見張りご苦労」
「まぁ、何もやってませんが」
「そう言うな。リョウがここで座り、暇そうにしている事で皆も安心して作業ができるという物だ」
「そういう物ですか」
「そういう物だ。何か作業をする時に意識がそがれてしまうと効率も落ちる。しかし、リョウがドラゴンを見ているのだから、と彼らは何も気にせず作業が出来るのだ。もっと堂々とだらけていろ」
「はぁ……そういう事でしたら」
俺はとりあえず地面に座りこみ、周囲を観察してみた。
周囲の人々は俺の方をチラチラと見ながら、俺が座っている事で安心したのかホッと息を吐いていた。
どうやら皇帝陛下と二人で話をしていた事で、やや緊張していたらしい。
だが、話が終わり、俺が座り始めたから何でもないのか。と落ち着いたようだ。
なるほど、こういう事か。
「どうだ? 分かったか?」
「えぇ。納得しました」
「ではフローラ嬢を傍に置き、退屈そうな顔をしていろ。それが今のお前の仕事だ」
「そういう事でしたら……って、フローラ様も一緒に?」
「それはそうだろう。冒険者だけで居るよりも、どう考えても弱いフローラ嬢が一緒に居る方がより安全そうに見えるという物だ」
「なるほど」
「そういう事でしたら! 私はリョウ様のお隣に!」
「じゃー私もリョウさんの反対側に!」
ピタッとくっついてくるフローラ様とフィオナちゃんに俺は逃げ場を完全に失った。
いや、フローラ様はまだ分かるけど、フィオナちゃんはどうした。
と、フィオナちゃんの方を見たらニヤニヤと笑っていた。
この子……! 面白がっているな!?
「いや、二人とも。これじゃ動けないから。何かあった時に対処出来ないでしょ」
「しかし、何もないのだと証明する為には、こういう風にしているのが良いのではないのですか?」
「それはそうかもしれないですけど、イザという時に動けないと別の問題が発生しますから。はい。フローラ様は少し離れて下さい。近くには居ますから」
「あーん。残念です」
俺はフローラ様を軽く抱えて、近くに座らせた。
そして、フィオナちゃんの方を見ると、何故かニコニコと笑いながら両手を上げている。
「どうしたのかな? フィオナちゃん」
「え? 私も運んでくれるんじゃないの?」
「甘えるんじゃありません。ていっ!」
「きゃー」
フィオナちゃんの額を軽く小突くと、フィオナちゃんは笑いながらコロコロと転がって行った。
まぁ楽しそうで何よりだけれども。
しかし、こういう時間が誰かの助けになるのなら良いか。
どれくらいの間、こうやっていれば良いのか分からないけれども。
「あの? ちなみに皇帝陛下。いつまでこうやっていれば」
「さてな。私には分からんよ」
「え」
「全ての準備が終わるまで、二日か、三日か……まぁすぐに終わる事は無いからゆっくりしていれば良い」
皇帝陛下は軽く笑いながらそんな言葉を落としてこの場から去ってゆくのだった。
それは、あまりにも残酷な一言であった。