ジキちゃんの親と思われるドラゴンが放った暴風により、俺はジキちゃんの肩から転げ落ちた。
何とか崖を蹴りながら減速しようとしたが、それも叶わず、俺はそのまま遥か下の木々の密集地へと向かう。
俺は落ちてゆく中で、崖を蹴り、やや下降の勢いを落としながら、下にある木の枝に降りようとする。
だが、その枝は折れてしまい、更にその下の枝、更にその下の枝と踏み砕きながら降りてゆくのだった。
そして、大量にある大木の枝でブレーキを掛けながら、遂に地面へと降り立った。
「っ! ……何とか助かったか」
俺は地面に降りながらふぅ、と息を吐いて上を見上げた。
が、当然と言えば当然であるが、大木が邪魔をして上の景色がどうなっているかは分からない。
「とりあえず上に上がるか」
俺はため息を吐きながら今度は落ちてきた時とは逆に上を目指して駆けあがろうとした。
しかし、俺が落ちてきた場所は枝も折れているし、崖も大きく削れている。
ココを戻る事は難しいだろう。
「仕方ない。別の場所に行くか」
森の中を歩きながら、俺は登れる場所を探し、崖の上に上がれそうな場所を見つけて、そこを駆け上がるのだった。
そしてジキちゃんがどこにいるのかなと周囲を見渡すと、どうやら俺が落ちた時と同じ場所でキョロキョロと何かを探しているらしい。
まぁ、何か……というか、俺だろう。
「もう、ままぁ! だめだよぉ。人間は弱いんだから」
「それは知ってるけれど。なんで人間なんかと一緒にいたの」
「おともだちになったんだよ!」
「あなた。騙されているんじゃないの?」
「そんな事ないよ! だって、リョウは色々教えてくれたし」
「それが騙されているって事よ」
どうやらジキちゃんはお母さんに色々と言われている様だ。
しかし、このままでは俺の……というよりも人間の評価が落ちてしまう。
そのまま去っていくだけならいいが、これで復讐だ! って街を焼かれちゃたまらない。
だから、俺は急いでジキちゃんとそのお母さんの元へ向かって事情を説明することにした。
「ジキちゃん!」
「あー! りょう! 無事だったんだー!」
「あぁ。それで……!」
「お前か。ジキタニスを騙したのは!」
「違っ! 俺は!」
と言葉を返そうとしたが、母ドラゴンは俺の言う事など聞かず、勢いよく俺に右手を振り上げて、下ろした。
そんな見え見えの攻撃に当たる事は無いが……それでも巨大な腕が生み出す風圧はとんでもない。
俺は先ほどと同じ様に風で飛ばされそうになるが、何とか地面に神刀を鞘ごと突き刺して吹き飛ばされそうになる体をこの場に維持する。
そして、羽ばたきながらこちらに向かってくるドラゴンを真っすぐに見据えた。
本当は争いを避けたかったのだが、こうなった以上、争うしか無いようだ。
「俺は話がしたいんだがな!」
「人間は信用できない! お前たちはいつも嘘ばかりを吐いてきた!」
「それでも、もう一度だけ信じて欲しい!」
「ならば!」
「……! ならば!?」
「この一撃を受けてみろ! それで! 耐えられたら! 考えてやる!」
母ドラゴンは大きく息を吸い込んで、止まる。
その行動が何を意味するか分かった俺は神刀を抜き、正面に構えた。
俺が受けきれば、信用してくれるというのなら!
耐えきるしかない!
「来い!」
「良い覚悟だ……! ならば……! 受けてみろ!!」
そして、母ドラゴンは俺に向かってジキちゃんのブレスとは比べ物にならない程巨大なブレスを吐き出した。
炎の塊というよりは、太陽がそのまま向かってくるかの様な存在感だ。
このまま直撃したらまず間違いなく助からない。
しかし、一応神刀で炎を切り裂く事は出来る……!
だが、切り裂いたとして、今存在するエネルギーは消えないだろう。
その時、俺が助かるか……それは分からないのだ。
それでも、俺は逃げる事は出来ないと、神刀を真っすぐに振り下ろした!
「っ! うぉぉおおおお!!」
炎の海を越え、炎の世界となったその場所で、俺の周囲にある地面や崖の岩壁を破壊しながら俺に向かって突き進んでくる。
既に、俺の感じている熱はとんでもない事になっているが、それでも逃げるには既に遅い。
だから、この炎を切り割き、進むしか無いのだ!
と、俺は神刀で炎を切り割いてゆく……。
炎の世界のその先を見る為に!
「そこ、だ!!」
そして、俺は全ての炎を切り割いて、輝く様な青空を再び取り戻した。
「バカな!」
「どうだ? 逃げずに立ち向かったぞ。話を聞いてくれても良いんじゃないか?」
「……しかし」
「しかし?」
「信用は出来ん」
「……駄目か」
まぁ、そうだろうなと思いつつ、俺はここからどうやって説得するか考えていた。
どの道、信用されるとは思っていなかった。
このやり方では俺の力しか保証されていないからな。
「なぁ、ジキちゃんのお母さん!」
「……なんだ、人間」
「俺の事は信じなくても良い! だが、このままここで戦うと人間の住んでいる町が大変な事になるんだ」
「だからどうした。そんな事は私たちには関係ない」
「わかっている。だが、そうなれば、俺たちはアンタたちを殺さないといけなくなるんだ」
「……」
「だから、どうか、自分たちの住処に帰ってくれないか!?」
俺は足場の安定しない崖の上で頭を下げた。
自分勝手な要求をこちらがしている分、礼儀は尽くさなくてはいけないからだ。
「……ジキちゃんがこちらの、人間の世界に来てしまったのは、俺たち人間同士の争いが原因だ。自分勝手な事を言っているのは分かっている。だが、それでも……! 俺はジキちゃんと友達になったから、ジキちゃんに傷付いて欲しくないんだ!」
「本当に、お前たち人間は自分勝手だな」
「あぁ、分かってる」
「ジキタニスを攫っておいて、本当に勝手な奴らだ」
「俺も、そう思うよ」
俺は素直に、ジキちゃんのお母さんにそう告げた。
ジキちゃんのお母さんは俺をジッと見つめていたが、はぁと溜息を吐いて、ジキちゃんの方へ振り向いた。
「ジキタニス……どこか怪我はしていない?」
「うん。げんきだよ!」
「そう……それなら良かったわ。じゃあ帰りましょうか」
「うん。でも」
「でも?」
「ぼく、もうちょっとリョウと遊びたいなー」
「駄目よ。人間は危ないんだから……! 遊ぶならお家の近くにしなさい」
「えー」
「なら! ジキちゃん! 俺、行くよ! いつになるか分からないけど! ジキちゃんの家に遊びに行く!」
「ほんとに!?」
「あぁ」
「ジキちゃんの家の近くなら、家族も安心だろうしさ! そこでまた色々遊ぼう!」
俺は大きく手を振りながらジキちゃんにそう告げた。
セオストに戻ればジーナちゃんにお願い出来るし。
そうすれば遊びに行く事も可能だろう。
無論、ジーナちゃんにはドラゴン『で』遊ばない様にちゃんと言わないといけないが。
それでも、ジーナちゃんは本当は優しい子だから、きっと大丈夫だ。
「だから、また会おう!」
「うん! また……っ!?」
「っ!?」
「ジキちゃん!!!」
俺の目の前で、ニコニコと嬉しそうな声で話していたジキちゃんがグラリと傾いた。
そして、その背中にはいくつもの氷柱が刺さっているのが見えた。
それは明らかに人の使う魔術であり、この場に俺が居る以上、ジキちゃんのお母さんには、人間が何かをした様に見えるだろう。
そして、それはすぐに怒りへと繋がり、咆哮となった。
パッと見ただけでジキちゃんが重傷なのはわかる。
そうなれば、どうなるか。
「……人間!!」
人間へと、怒りをぶつけるだけだ。
だが……俺は何も失わない為に、最後の切り札を使うのだった。
懐から取り出した通信機を使い、彼女を呼ぶ。
「ジーナちゃん。緊急事態だ!」
「はいはーい! ジーナちゃん! 参上!!」
まだ、何も終わっちゃいないのだから。