ジキちゃんが何者かに攻撃され、ジキちゃんのお母さんドラゴンが怒りのままに大空へと飛び上がってしまった。
お母さんドラゴンは人間に対して強い怒りの感情を向けており、このままでは戦争となってしまう。
そうなれば最悪だ。
だから、俺はそうなる前に、通信機でセオストにいるジーナちゃんへと連絡を取った。
そして、ジーナちゃんは即座にこちらへ転移してきてくれる。
「それで、緊急事態って、どうしたの?」
「細かい話は後でするんだけど、まずはリンちゃんを呼んで欲しいんだ!」
「おっけー!」
ジーナちゃんは俺の言葉に頷いて、パッと消えた後、すぐにリンちゃんを連れて戻って来た。
俺は突然の事でキョロキョロしているリンちゃんを抱きかかえて、一気に崖を滑り降りた。
「え? あれ? ここは……?」
「悪いね。リンちゃん。ちょっと失礼するよ!」
「え? きゃっ、あぁぁあああ!! お、落ちてますよ!?」
「ちょっと、急いでるから!」
悲鳴を上げるリンちゃんをそのままに、俺は急いでリンちゃんをジキちゃんの所へ連れて行った。
そして、事情をサラッと説明する。
「ちょっと今、色々とあったんだけど、このジキちゃんっていうドラゴンの子が魔術で攻撃されちゃったんだ。リンちゃん、治せる!?」
「え? あ、はい。えと、はい。倒れてはいますが、元気そうですし。少し時間はかかりますが、治せますよ」
「分かった! ありがとね! じゃあ、ジーナちゃん! 俺たちは空へ!」
「良いけど。ジーナちゃんは何するの?」
「この子供ドラゴンのお母さんが今、空の上で暴れてるんだ。それを止める!」
「なるほどねー。じゃ、一応リンちゃんの護衛を連れてくるねー」
ジーナちゃんは事情を聞いて、またパッと消えてから今度はミクちゃんを連れて戻って来た。
「は? えっと?」
「じゃ、おチビさんはリンちゃんを護ってね」
「いや、何の話ですか!? 事情を説明してください!」
「時間がないのー! じゃ、リョウ君、行こ!」
「待ちなさい! ジーナさん! コラ!」
ジーナちゃんは下から聞こえてくるミクちゃんの声を無視し、俺と共に浮かび上がった。
そして、大空を飛びながらお母さんドラゴンの姿を探す。
「んー。見えないなぁー。どこに居るんだろう?」
「そこまで遠くへは行ってないと思うんだけど」
「じゃ、見つけてみようか!」
空を自在に飛び回っていたジーナちゃんは大空の真ん中で止まると、右手を高く空に掲げた。
そして、笑ったまま薄い青色の何かを大空の彼方まで波紋の様に広げる。
「何を?」
「薄くね、魔力を世界に向けて放ったの。何か障害物があればそこで止まるから、それで大きさとかが分かるって感じ」
「……なるほど」
「んで、見つけたよ!」
ジーナちゃんはジーナちゃんの力で空を飛んでいた俺の腕を掴むとすぐに転移の魔法を使った。
転移により俺の見ていた景色は一瞬で変わり、目の前には先ほど飛び上がったお母さんドラゴンが大きく息を吸い込んでいるのが見えた。
おそらくはブレスを下に向けて放とうとしているのだろう。
俺はそれを止めるべく声を掛ける。
「ジキちゃんのお母さん!」
しかし、ジキちゃんのお母さんは俺の声が聞こえたのか。
俺とジーナちゃんの方へとブレスを放ってくるのだった。
地上で受けたブレスよりも遥かに巨大で熱量を持ったそれに、周囲にあった雲は全て吹き飛んで消え去った。
そして、避ける事も受ける事も出来ないソレは真っすぐにこちらへと飛んできていたのだが、ジーナちゃんがジキちゃんのお母さんドラゴンのすぐ後ろに転移する事で影響範囲から逃れる事ができたのだった。
「話を聞いてくれ!」
「今更何も話す事なんかないだろう!」
「ジキちゃんは今治してる! まだ死んでない!」
「だからどうした! お前たち人間が傷つけた事に変わりは無いだろう!」
「人間も全てが同じ意思で動いている訳じゃないんだ!」
「知った事か!」
ジキちゃんのお母さんドラゴンは俺の話など聞きたくないと俺たちに向かって巨大な腕を振り回す。
先ほどまではその腕が生み出す暴風に翻弄されていたが、ジーナちゃんの魔法で飛んでいるからか、安定して姿勢を維持し続ける事ができているのだった。
しかし、だとしても対話が出来なければ何の意味もない。
何か方法は無いかと俺は思考するが、ドラゴンという存在にそこまで詳しくない俺では説得する為の言葉は何も思いつかなかった。
「リョウ君。こういう時にお話は無駄だよ」
「ジーナちゃん?」
「まずは叩き落とす! それからお話! だよ!」
ジーナちゃんはニッコリと笑いながらそんな事を言って、パッと転移した。
そして、俺よりも、ジキちゃんのお母さんドラゴンよりも遥か上空に転移すると、流星の様な勢いでジキちゃんのお母さんドラゴンに向かって落ちてきた。
「ジーナちゃん!! きぃぃぃぃいいいいっく!!」
「っ! ぐぁああああ!!」
ジキちゃんのお母さんドラゴンに足を突き出したままぶつかったジーナちゃんは、その勢いのまま地面に向かってジキちゃんのお母さんドラゴンと共に落ちてゆく。
そして、俺たちが先ほどまで居た崖の一部を破壊しながら地面にクレーターを作って止まった。
「やることが無茶苦茶だよ!」
俺は文句を言いながらも、ジーナちゃんに意思を伝えて、クレーターの元へと向かわせて貰う。
かなり安定した飛行をしながら俺は大きく出来たクレーターの上に降り立って、ジーナちゃんに声をかけた。
「ジーナちゃん!」
「あ。リョウ君。やほー」
「やほー。じゃないよ。殺してないよね?」
「うん。ドラゴンはこの程度じゃ死なないから大丈夫だよ」
「なら良いけど……あ、いや、良くはないけど。それで、これからどうするの?」
「お話するんでしょ?」
「あぁ、ここからは俺の役目なのね」
俺は困ったなぁと思いながらも地面に埋まってしまったジキちゃんのお母さんドラゴンの元へと向かった。
そして、地面を掘り起こしながらジキちゃんのお母さんドラゴンの顔の辺りを探す。
「見つけた! ジキちゃんのお母さん! 生きてますか!?」
「……うっ、ぐぅ……まじょ、め」
「良かった。ひとまず生きているみたいですね。無事では無いみたいですが」
「とーぜんだよ。その辺りの調整は完璧!」
半分以上意識が飛んでいる上に、体を動かす事も出来ない状態だというのに、完璧と言われても困るのだが……今、それを気にしてもしょうがないか。
全ては終わった事である。
俺はジーナちゃんの暴挙に溜息を吐きながら、再びジキちゃんのお母さんに話しかける。
「ジキちゃんのお母さん。こんな事をしておいて申し訳ないんですけど。本当に俺は話がしたいだけなんです」
「……いまさら、話なんて」
「そう思うのはもっともだと思うんですけど。それでも話を聞いてくださいませんか?」
「そうそう。聞かないなら、もう一回どーんってやっちゃうから」
「だから、それは駄目だって!」
「えー」
「えーじゃありません!」
俺がジーナちゃんにツッコミを入れていると、ジキちゃんのお母さんはズズズと地面の中にあった体を動かして、軽く起き上がった。
それに合わせて俺とジーナちゃんの体もふわりと上がり、ジキちゃんのお母さんの顔当たりの高さまで浮かび上がる。
「話を聞いて欲しい」
「……聞いてどうなるっていうんだ」
「このまま平和的に解決したいと願ってる」
「平和的……? お前たちがジキタニスを攫い、傷つけたというのに?」
「確かに、俺たち人間がジキちゃんにした事は許される事じゃない。けど、人間全てが悪いわけじゃないんだ」
「……」
「それだけは信じて欲しい」
俺は誠心誠意、想いと共に言葉を重ねる。
その想いが伝わったのか、ジキちゃんのお母さんは少ししてからコクリと小さく頷いてくれるのだった。