ひとまずリメディア王国の人たちにも事情は話せたという事で、俺はフローラ様達と皇帝陛下を探しに行ったのだが。
既に皇帝陛下は多数の帝国臣民によって地上へと降りた後だった。
ミクちゃんは未だに噛みついているが、皇帝陛下は面倒だという表情を一切隠してはいない。
「来たか。リョウ。ではそろそろリメディアの王都に帰るか。次の面倒が来るだろうからな」
「そうですね」
「む? なんですか。その含みを持たせた言い方は!? 何か企んでいるのではないですか!?」
「まだ我々に突っかかっているのか。もう何も無いからさっさと帰れ。お前ならスタンロイツのゲートも使えるだろう?」
「そうやって私を追い返して! 何か企んでいるんじゃないんですか!?」
「……」
話にならないな。
とでも言いたげな顔で皇帝陛下はミクちゃんから視線を外す。
本当に面倒そうだ。
まぁ、ミクちゃんは真面目だからな。
さっきみたいな事を見逃せないのだろう。
面倒な事ではあるけれど。
「ミクちゃん。ひとまずこちらへ」
「なんですか?」
「実はですね。現在リメディア王国とバクーシ帝国が政治的な争いと言いますか。国家間の争いをしてましてね」
「ふむ」
「その関係でドラゴンをリメディア王国の領土内に放たれてしまったのですよ」
「それの証拠は何かありますか?」
「え。証拠?」
「はい。私はあくまで中立的な立場ですから。リメディア王国にもバクーシ帝国にも肩入れは出来ません。あくまで中立的な立場として判断を下します」
それはそうだと思うが。
何ともは悩ましい話である。
おそらく、証拠らしい証拠があるとしても、ジキちゃんは飛び去ってしまったし。
ジキちゃんを攻撃した奴も、バクーシ帝国の者だと言っていたが、彼がやったのはジキちゃんを攻撃する事だけだ。
いくらでも言い訳は出来るだろう。
「ちなみに、リメディア王国の方々の証言というのは」
「証拠としては機能しません。証言として採用されるとしてもリメディア王国とは関係のない国の、しかもある程度立場のある人間の証言だけです」
「フン。役に立たない組織だな」
「むー! なんですか! その言い方は!」
「言葉のまま、事実を言ったまでだ。世界国家連合など、設立当初の理念も理想も消え、ただ不正の温床となっているだけだろうが」
「ぐっ……!」
「力の強い国家に組織が媚びを売り、ただ強国の思うがままに世界を動かす。その為の組織でしかない」
「その様な事は……!」
「ないとでも言うつもりか? ならば聞こうか。災害対策局局長! 何故、闇神教の者達を放置している。連中が世界で行っている事は知っているだろう!?」
「そ、それは……」
「知らぬという事であれば、その何も見えぬ目を恥じろ! 知っていてなお、何も出来ぬという事であれば、組織の愚かさを恥じろ!」
「うっ……! や、闇神教の問題は根深い問題なのです。確かに実行犯は闇神教を名乗っていますが、明確な繋がりは見えず……! ここで闇神教を排斥すれば、それは闇魔法の使い手に対する差別にも繋がりますから」
「無能め」
「……っ!」
「そうやって貴様らは都合の良い言葉ばかりを並べ、水面下で行われている狂気の実験から目を逸らし、惨劇をなかった事とする事しかしない!」
「その様な事はありません! 私達は、ちゃんと調査を!」
「ならばジルスターの件はどうなった」
「それは……!」
「実行犯の名も分かっている! 姿も! そして、未だ世界各地で活動も確認されている! 被害者も増えている!! だというのに、何故貴様らは何もしない」
「……!」
「いや、違うな。何もしないのではないか。何もさせて貰えないのだろう? お飾りの局長殿!」
「わ、わたしは……」
「だから言っただろう。貴様の所属する組織は腐っている。世界国家連合など無くした方がマシだ」
「それでも……私は、どの様な物であれ、世界国家連合に救われた国や人がいる以上……必要だと考えます」
「はぁ……無駄な時間だったな」
皇帝陛下はミクちゃんに背を向けて、スタスタとリメディア王国の王都へ向けて歩き始めた。
そんな背中を見ながら、ミクちゃんはキュッと唇を噛みしめた。
「勇者の仲間として、災厄に立ち向かっていた頃のお前は、輝いていたのだがな。今のお前はくすんでいる」
「……そうでしょうね」
どこか自虐するような言葉を漏らすミクちゃんに、俺はどちらの味方も出来ず、天を仰いだ。
この世界にある問題は、本当に根深い物ばかりなんだな、と。
それから。
何だか微妙に重い空気となってしまったが、皇帝陛下と、スタンロイツ帝国の人たちが先を進み。
俺とフローラ様、フィオナちゃんにリリィちゃん。
ミクちゃんとリンちゃんはのんびりと街道を歩いていた。
少し前にドラゴンが暴れていたとは思えない程にのどかな空気であり、世界は静寂に満ちていた。
そんな中、フローラ様が少し躊躇っている様な様子を見せながらも、ミクちゃんに話しかける。
「あ、あの。ミク様」
「はい? あ……リメディア王国のフローラ様。ですね。私に何か御用でしょうか」
「いえ! その、御用という程では無いのですが」
「はい」
「私は、ミク様に一度救われておりますから。ミク様がスタンロイツ帝国の皇帝陛下が仰る様な人では無いと思っています! 素晴らしい方であると!」
「あー、はは。ありがとうございます。でも、そうですね。一応、これだけは、言っておきますね。エリクさんも別に私が嫌いであぁいう風に言ったワケでは無いんですよ」
「そうなのですか?」
「まぁ、あの人とは古い付き合いですから。言葉は荒いですが……何というか。もっとしっかりしろと言ってくれたんだと思います」
「なるほど……」
なるほど。
と、俺もフローラ様に合わせて頷いていた。
その人たち同士でしか分からない意思疎通というのもあるものな。
「だから……まぁ、私もそろそろ真面目に動く必要があるのかもしれません。失望はされたくないですからね」
「まぁ。ミク様は皇帝陛下がお好きなのですね」
「いえ。それはありません」
「え、ですが……」
「それだけは。ありません」
少しばかり夢見る少女の様な顔でニコニコしながらミクちゃんに向けられたフローラ様の言葉は。
絶対にありえないという様な強固な態度で返された。
それにフローラ様はやや引いてしまったが、まぁ、人には触れてはいけない部分という物があるのだろう。
フローラ様には申し訳ないが、俺は気を付けようと思った。
そして、俺たちは本当にのんびりと街道を歩き、途中で野営をしつつも王都にたどり着いた。
つい数日前に来た筈の場所は、何故か酷く懐かしい場所の様に思える。
「ふ、フローラ様! 大変です!」
「はい。何かありましたか?」
「バクーシ帝国の連中が」
「まさか、攻め込んできたのですか!?」
「いえ。我が国がドラゴンを差し向けたという言いがかりをつけて来まして! 王宮の中で騎士を暴れさせているんです!」
「なんてこと……! それで、お兄様方は」
「王宮の奥の隠し部屋に隠れていますが、それもいつまで持つか……! 我々では、奴らに勝てず、こうして姫様を遠ざける事しか……!」
俺はとりあえず、隣にいるミクちゃんに視線を向けた。
「ミクちゃん」
「はい、なんでしょうか」
「この場合、例えば、偶然近くを通りかかった冒険者が、王族の方を助けようと飛び込んだ場合……何かの罪になるのでしょうか?」
「……本来であればかなり面倒な裁判になりますが。まぁ私がここに居ますからね。証言しますよ」
「なるほどね」
俺は神刀を抜いて、王宮を見据えた。
「ただし! あんまり殺しては駄目ですよ! 全滅したら証言も何も無いですからね!」
「分かってますよ。生きていれば、良いんですよね?」
「いや、それは……!」
俺はそれ以上の言葉を聞かなかった事にして、怒りのままに足を踏み出した。