ミラーと名乗った男は姿を消したがそれでも再度襲撃される可能性がある。
俺はドラゴン退治の事も考えて、フローラ様をフィオナちゃんに預けた。
「フィオナちゃん。フローラ様とエリック様をお願い」
「えっ!? あ、はい! でも、リョウさんは!」
「俺はあいつを倒す!」
俺はリメディア王国の城を破壊しながら空に咆哮しているドラゴンを見据えた。
そして、視線を皆に戻す。
「リリィちゃん。フィオナちゃん達をお願い」
「でも、亮さんは……?」
「まさか、一人で行くとは言わないですよね? リョウさん」
リリィちゃんの不安そうな声にすぐ答えたのはミクちゃんで、先ほどまでふわふわと寝ていたジーナちゃんも笑いながら頷いている。
「とーぜん。ジーナちゃんも行くよ! 退屈してたからね!」
「ふむ。これが冒険か。では私も行こう。冒険者としての活動という奴だな」
「えぇ!? 皇帝陛下も行くんですか!?」
「当然だ。ドラゴンの件で何も出来なかったから。私にも戦わせろ」
何とも断りにくい事を言われ、俺はしょうがないかと頷く事にした。
戦力としては十分すぎるくらい十分だ。
「じゃあ、俺とジーナちゃんとミクちゃん、皇帝陛下の四人で戦うとして……ドラゴンってどういう攻撃が有効か分かる人は居ます? 首を落とさないと駄目、とか?」
「いえ。アレはドラゴンではありませんので首を狙う必要はありません……というよりも、首を落としても死にません」
「そうなんですか?」
「はい。あれば以前ヴェルクモント王国に現れた個体と同じものです」
「というと、例の聖女の力を使って生み出したという……?」
「えぇ。ですので、アレはドラゴンに見えますが、ドラゴンではありません。その形を模した影の様な存在です」
なるほど、と俺は未だ城を熱心に破壊しているドラゴンを見据えた。
確かに言われてみれば、ジキちゃんやそのお母さんとは似ていない。
どこか歪というか……生物といて不自然な形をしていた。
「では、どの様にして倒せば?」
「体の中心部にある核を破壊する事です。しかし、体は魔力を集めて作られていますから、魔術では通らないでしょう」
「魔法なら?」
「通るとは思いますが、大規模な物になる場合リメディア王国への被害が大きすぎます」
「ちぇー」
「要するに、例のセオストに現れた魔物と同じ倒し方をすれば良いって話ですよね?」
「それは、そうですが……って、まさか!?」
「隙を作って貰えれば、俺が斬ります」
俺は神刀を構えながら、三人にそう宣言した。
やることが同じならば、同じやり方で倒せば良い。ただそれだけである。
「……はぁ、今はパッと思いつく作戦がありませんね」
「では決まりだな。我らはドラゴンの隙を作る」
「その隙に、リョウ君がズバーッとやるって事ね。オッケー! じゃ、とりあえずドラゴンの近くに行こうか!」
ジーナちゃんは元気に宣言をしながら地面に魔法陣を描いた。
その魔法陣は極大の光を放ちながら俺たちをドラゴンのすぐ近くまで転移させ、俺はそのまま地面に向かって落ちてゆく。
「じゃあ、俺は足元からアイツの胴体を目指します!」
「分かった! 我らは隙を作る! そこを狙え!」
「はい!」
そして、自由落下の中で体勢を直し、地面にスッと降り立った。
「行くか……!」
そのまま上空から聞こえてくる攻撃の声や音を聞きながら崩れ始めている城内を走り、俺は上へ上へと急いだ。
ドラゴンの胴体にあるという核を斬る為にはそれなりに高い場所へと行かなくてはいけないからだ。
「っ!」
その道中で、何度か暴れているドラゴンもどきが城を崩し、天井が落ちてきたりしていたが、うまくかわしながらとにかく上層階を目指すのだった。
そして、リメディア王国王城の屋上まで来た俺は、二本立っている塔の様な物を見つけ、そこを登る。
どうやら皇帝陛下達の攻撃がかなり激しいらしく、ドラゴンもどきは俺には一切気付かず、皇帝陛下たちと戦っていた。
特に皇帝陛下の攻撃はすさまじく、ドラゴンもどきの腕くらいある巨大な氷柱を連続でドラゴンもどきに向かって打ち出しているのだった。
いや、その影響で城がだいぶ崩れてますけれども。
リメディア王国を護るのではなかったのか……? という疑問は残るが、まぁ良い。
本当は良くないけど、建物は後で直せばいい!
だから今は……!
「……!」
俺はドラゴンの背後にある塔の上からドラゴンを見据えた。
高さはこちらの方が上である。
こうして見ても、ジキちゃんよりもだいぶ小さい事が分かった。
ここなら……やれる!
「……! いくぞ! リョウ! 奴の体の光る場所を探せ!」
「……応」
皇帝陛下は今までの中で最も大きな氷柱を作り出すと、それをドラゴンもどきに向かって打ち出した。
それはドラゴンもどきの胴体を貫き、そのまま塔にドラゴンもどきごと、ぶつかる。
その影響で塔は崩れ始めるが、俺は崩れてゆく塔の中で静かに神刀を構えた。
そして……皇帝陛下の言う、ドラゴンもどきの中を見据え、光を探した。
おそらくは偽りの体に命を与えているであろう生命の光を……!
「……! 見つけた!」
俺は崩れてゆく塔を足場にしながら下へ向かって勢いよく走り出した。
俺が走っている分、ただ落下していくだけの塔の破片が俺の邪魔をするが、それを足場として更に加速する。
そして――!
「そこだ!」
俺は空気を切り割きながら神刀を振り下ろした。
普段よりもずっと重い神刀が、ドラゴンもどきの体に触れた瞬間からさらに重くなるが、それでも気にせず雄叫びと共に振り下ろし続ける。
俺の視線の先、刃の先にある光る球体を切り割く為に。
そして、俺は光る球体を切り割いて、その中にある命を空に解放した。
「……なるほど」
「っ!?」
光る球体を切り割いてから、周囲にあった黒い何かが薄らいで消えていく。
そんな中を俺は落ちていたのだが……落下してゆく俺の前に、ミラーと名乗った男が現れた。
腕を組みながらジッと俺を見つめる。
「どうやら貴方は、神の世界から来た方の様だ……! これは我らの祈りが神に届いたのか。愚劣なる者たちがまた道を開いたのか」
「……」
「いえ。どちらにせよ関係はありませんね。世界は動き始めたという事なのだから……!」
ミラーと名乗った男はニヤリと笑ってから姿を消した。
俺はそのまま落ちて行ったのだが、途中でジーナちゃんに助けられて空に飛ぶ。
「もう、リョウ君! 危ないよ? ちゃんと落ちても大丈夫な様にしないと」
「あぁ……」
「……? どうしたの?」
「いや、どうもしないよ……本当に、どうもしないんだ」
何でも無い事、俺には理解出来ない事を言われただけだというのに。
何故か俺は酷く早い鼓動の音を感じながら、ギュッと胸の前で拳を握りしめるのだった。
手の震えを止める為に。
「うむ。一件落着だな」
「何が一件落着ですか! ちゃんと指示したのに、バカバカ! バカみたいに打って! 城がボロボロじゃないですか!」
「いや、冒険者なのだから、派手にやった方が良いかと思ってな」
「そんなワケ無いでしょう!? 冒険者の方の方が慎重に攻撃しますよ!」
「そうなのか?」
「当たり前でしょう!?」
俺は怒りながら降りてくるミクちゃんと、飄々としながら、どこか満足げな顔で笑みを浮かべている皇帝陛下が降りてくるのを見ながら、落ち着きを取り戻す。
感じてしまった、見つけてしまった不安を踏み消す様に。
何でも無い事なのだと、自分に言い聞かせるようにしながら、俺は皆に声を掛けるのだった。
「まぁまぁ。ひとまずドラゴンもどきは倒しましたし。良かったという事にしましょう!」
そうしなければ、俺は背後に迫る闇に……飲み込まれてしまう様な気がしていたから。