あっという間の出来事であったが、リメディア王国で起こったドラゴン事件はひとまず解決したと思われる。
しかし、ジキちゃんが起こした事、バクーシ帝国が攻め込んできた事、ドラゴンもどきが王都で暴れた事。
三つの事件で、それぞれ少なくない犠牲や被害が出ているし。
事件が解決したからと言って、万事良かったともいかないのが難しい所だ。
「しかし、そう悪い事ばかりでもない」
「そうなのですか?」
「あぁ。城内にはバクーシ帝国の連中の死体が大量に転がってるからな。それに、ドラゴンを模した魔物を出現させたという疑いもある。これを元にバクーシを叩く事も可能だ」
「なるほど」
損害賠償的な話だろうなと思いつつ、俺は皇帝陛下の言葉に頷いた。
これまで聞いたり見たりした話ではバクーシ帝国が強気に出そうな気もするが、そこは皇帝陛下が前に出てくれるのだろう。
おそらく。たぶん。きっと。
「では、そちらの事は皇帝陛下にお任せしても?」
「あぁ。まぁ、私以外にも適任な者は居るがな……さて、どうだろうか」
皇帝陛下は俺の投げた話をさっと横に繋げると、言葉と一緒に視線をミクちゃんに投げる。
その視線と言葉に気づいたミクちゃんはなんて事もなく、普通に受け止めると小さく頷くのだった。
「えぇ。私の方で受けますよ。問題ありません。この様な蛮行。見過ごす事は出来ませんから」
「それは頼もしい事だな」
おそらく嫌味ではなく、スタンロイツ帝国の皇帝陛下は真っすぐにミクちゃんの言葉を受け止めて、返した。
何だかんだと思う所があるのだろうか。
分からないけれども。
「すまない。スタンロイツ皇帝。それにミク殿」
「構わんさ。同盟国だと言っただろう? 何かあれば私を頼れ」
「私は世界国家連合の人間ですから。何か国家間のトラブルがあれば仰ってください。全ての事象で味方が出来るか、それは分かりませんが……ドラゴンが現れるなどは災害対策局として対応出来ますし。騎士が攻めてきたという話であれば確認する事で対処が出来ます」
「相変わらず融通が利かない組織だな」
「組織である以上は、どちらか一方に肩入れする事は出来ないんです!」
「どちらが悪であるかなど、見てすぐ分かる事だろうに」
「そういう思い込みが、また新しい争いを呼ぶ事になるんですよ!」
相変わらずというか、何というか。
ミクちゃんと皇帝陛下は再び言い争いを始め、俺達をそのままに言葉をぶつけ合っているのだった。
俺はそんな二人を放置しつつ、エリック様とフローラ様に話しかける。
「ひとまず依頼としてはこれで終わりとなると思うんですが……」
「あぁ、色々と苦労を掛けたな。依頼はこれで終わりだ。また何かあれば相談しようとは思うが」
「あー、いえ。フローラ様の事で少々気になる事がありまして」
「フローラのこと?」
「私の事ですか?」
「はい。ミラーという名の男……奴は明確にフローラ様を狙っていました。もしかしたら、これからも狙ってくるかもしれません。出来れば警戒をと思いまして」
「「っ!?」」
「そ、それは、真実なのか!?」
「はい。少なくとも私の目にはそう見えました。奴は明確にフローラ様を狙っていました」
「だが、フローラが狙われる理由とは何だ?」
「正直、私には分かりません……ミクちゃんなら、何か分かったりしますか?」
「うーん。そうですねぇ」
ミクちゃんはうーんと唸りながら腕を組んで、フローラ様を見ながら考える。
だが良い答えは見つからなかった様で、静かに首を振った。
「ちょっと私には分からないですね」
「一時的に亮さんの意識を引きたくて狙ったという事は考えられないですか?」
「その可能性も無いとは言えないけど……そういう風な感じには見えなかったんだよなぁ」
俺はミラーの動きを思い出しながらそんな事を呟いたが、確かに言われてみるとそこまで確証はない。
偶然だったのだろうか。
うーむ。
「それほど心配なのであれば……ジーナ」
「んー? どしたの、エリク君」
「フローラ姫に『魔術』を使ってやれ。何か危険がその身に迫ったら、リョウの元へ転移する魔術だ」
「まさか! その様な魔術は聞いたことが無いが!?」
「まぁ、ジーナの魔術は特別でね。そういう事も出来るのだ。そうだな? ジーナ」
「まーねー。んじゃ、ひょひょいっとやりますかー!」
ジーナちゃんはふわふわとフローラ様の近くまで浮遊すると、フローラ様に何らかの『魔法』を使った。
キラキラと光る魔法は、フローラ様の体を包み込み、軽く発光させる。
「これは……」
「さっき言ってたヤツ。貴女に何かあったらリョウ君の所に移動するよ。例えば、何か魔術で攻撃を受けても、悪意ある人間に触られても転移するから。まぁー多分大丈夫じゃない?」
「そんな凄い魔術……!」
「何から何まですまないな。リョウ殿」
「いえいえ。この魔術はジーナちゃんがやってくれた事ですし。提案してくれたのも皇帝陛下ですから」
「そうであったな。助かった。スタンロイツ帝国皇帝、それにジーナ殿」
「構わん」
「あーい」
おざなりな返事をする二人に、やや呆れながら俺は任務完了の印を貰い、スタンロイツ帝国の皇帝陛下達と共にリメディア王国を去る事にした。
ドラゴンを運ぶためにと皇帝陛下が連れて来た人材は、そのままリメディア王国の再建を手伝うらしい。
「では帰ろうか!」
「そうですね」
そんなわけで、ノンビリト歩いて帰ろうかと歩き始めたのだが、ジーナちゃんはさっさと帰りたいとリンちゃんとフィオナちゃん、リリィちゃんを連れて転移してしまい。
俺は何とかギリギリ依頼完了の報告書だけフィオナちゃんに手渡して、現地に残る事となった。
そんなジーナちゃんの行動にミクちゃんは深いため息を吐いた。
「まったく……あの人は」
「まぁまぁ良いじゃないですか。たまにはノンビリ歩きましょう」
「良いですけどね。急に呼びつけておいて。何もなしとか! こうして放置するとか! 良いですけどね!」
「まぁまぁ」
憤慨するミクちゃんをなだめつつ、俺は皇帝陛下とミクちゃんとの三人旅を始めた。
とは言っても、リメディア王国の王都からスタンロイツ帝国まではそれなりに早く到着し、皇帝陛下とはそこでお別れとなった。
「うむ。中々面白い旅であったな」
「それは何よりです」
「また何かあったら私を呼べ。手伝ってやろう」
「それが起こらない事を祈るばかりですがね……陛下をお呼びするという事は、かなりの大事件ですし」
「まぁ、そうだろうな。だが、それが冒険という物でもある」
「そうですね」
そして、皇帝陛下に別れを告げ、俺はミクちゃんと二人でセオストへと戻ろうとしたのだが、それにミクちゃんが待ったをかける。
ここに来るまで何かを考えている様子だったから、その関係だろうか。
「リョウさん。少しばかり寄りたい所があるのですが……良いでしょうか?」
「それは構いませんけれど……どちらへ?」
「シーメル王国です」
「シーメル王国ですか……」
ふむと俺はミクちゃんの言葉に頷きながら少し考える。
シーメル王国と言えば、まぁ、あまり良い思い出はない。
ミクちゃんと出会う前の話だが、ココちゃんをはじめ、獣人という種族が酷い扱いを受けていたり。
それに対して、シーメル王国のお姫様であるアリア様が酷く心を痛めていたりと、嫌な思い出が盛りだくさんの国だ。
だが、まぁだとしても、俺が断る理由もないため、俺は小さくミクちゃんに頷く。
「ありがとうございます。ただ、シーメル王国ではリョウさんが心を痛める様な光景があるかもしれません」
「あぁ、大丈夫ですよ。以前行ったことがありますから。何となく状況は知っています」
「そうでしたか……であれば、申し訳ございませんが、付き添いをよろしくお願いいたします」
「はい……」
まぁ、ミクちゃんの頼みであれば付いていくが……あまり良い予感がしないというのは確かであった。