意識を失ったままのアリア様をリビングへと運び、お茶を貰いながらミクちゃんから聞いた話を桜達に伝える。
「セオストの北側にシーメル王国っていう国があるんだけどな。ミクちゃんとアリア様の話じゃあ、その国が戦争になるらしい。向こうは戦争の準備をしてるっていうんで、アリア様だけ避難させてほしいって言われたんだよ」
「戦争って、相手はどこの国? スタンロイツ帝国? 皇帝さん、良い人に見えたけど。ね? リリィ」
「うん。そうだね。リメディア王国の事も助けてくれたし。そんな酷い事をする人には見えなかった」
つい少し前までスタンロイツ帝国の皇帝陛下と接していた二人は首を傾げながら疑問を投げかけ。
ジーナちゃんもうんうんと二人の話に頷いていたのだが、途中でアッと言いながら何かに気づいた顔をした。
「戦争を仕掛けてきたのって、もしかして、獣人?」
「そう。ジーナちゃんの言う通り、戦争を仕掛けるのは獣人だよ」
俺の言葉に、ココちゃんとフィオナちゃんは顔を青ざめさせた。
そして、リリィちゃんと桜はそんな二人を見やる。
「そう……遂に起こるのね」
「遂にって事は、モモちゃんは何か知ってるのかな」
「えぇ。まぁ、そうね。私とリンは色々な国を旅してきたし。獣人の人たちとも接していたから。戦争の話は聞いていたわ」
「そうなんだ」
「まぁ、私たちには関わってくれるなって言ってたし。当分はシーメル王国に近づくなって言ってたから、そろそろ起こるのかもしれないとは思ってたけど」
「でも、知ってたのなら、何で止めなかったの? モモちゃんとリンちゃんって偉い人なんでしょ?」
純粋な目でグサリと刺す様な事を言う桜にモモちゃんは苦笑する。
そして、苦笑しながら言葉を返した。
「確かに私もリンも偉い人だけどさ。世界を同行する力は無いんだよ。出来る事はこの手で出来る事だけ」
「戦争を止める事は確かに可能だったと思います。ですが、獣人の方々の怒りも理解出来る物でしたから。止める事は出来ませんでした」
「そうなんだ……じゃあ、人間の方をどうにかすれば、まだ何か出来るんじゃない?」
「いや、アリア様の話じゃあ、シーメル王国の王族やら貴族やらは楽観視していて話を聞かないらしい。戦争なんか起こるはずがないって思っているみたいだ」
「なるほど。それは、確かに難しいかもね」
どこか他人事の様な顔で桜は呟いた。
まぁ、実際にセオストは関係が無いから他人事といえば他人事なワケだが……。
桜は、何故かそんな他人事の様な事を言ってから俺を見やった。
「でも、じゃあどうする? お兄ちゃん」
「どうするっていうのは?」
「このままってワケにはいかないでしょ。見てるだけなんて出来ない。私はそう思うけどね」
「桜は介入した方が良いって考えてるのか?」
「え? そうだけど。お兄ちゃんは違うの?」
「いや……俺も介入するつもりだったが……桜がそう思ってたのが意外で」
「はー? いやいや。まさかまさか」
桜は呆れた様な顔で手を横に振った。
何言ってんだと言いたげな顔である。
「我が家にはさ。ココちゃんが居るんだよ? 私とお兄ちゃんの妹の! ココちゃんがさ。それで見なかったフリは出来ないでしょ。もしかしたらココちゃんのお友達が巻き込まれるかもしれないんだよ?」
「……そうだな。桜の言う通りだ。俺たちが見捨てる事は出来ないよな」
「お兄ちゃん……お姉ちゃん……」
先ほどまで青い顔をしながらキュッと両手を握っていたココちゃんが不安そうに瞳を揺らしながら俺と桜を交互に見る。
そんなココちゃんに俺たちは安心してくれと笑いかけるのだった。
「で、シーメル王国に行くのは決まりとして。メンバーはどうするの? お兄ちゃん隊長」
「ん-。そうだねぇ。じゃあ俺一人で」
「あれあれー? よく聞こえなかったけど」
「いや、これから戦場になるって場所に連れて行く事は出来ないでしょ」
「でもお兄ちゃんは一人で行こうとしてるんでしょ? 私たちの不安はどうするんですかねー」
「それは、まぁ。待ってて貰えれば?」
「怒るよ。お兄ちゃん」
真っすぐに苛立ちを顔に出しながら桜は怖い顔と声でそう言った。
そんな桜に落ち着いて欲しいと返しながら、俺はどうしたモンかと考える。
桜たちを連れて行きたくない気持ちは確かなのだが、それでは嫌なのだという。
しかしなぁ……後連れて行っても良い子と言ったら。
「んー。後は、リリィちゃん……くらい?」
「はい! お供します!」
「ちょっと、ちょっと! リョウさん? そんな危ない場所にリリィを連れて行くつもり!? 危ないじゃない!」
「あー、いや、まぁ、そうなんだけどね」
「リョウさんが前衛だから魔術使える人が良いのは分かるけどさ。いつもの冒険とは違うんでしょ?」
「ごもっともです」
リリィちゃんが真実を打ち明けていない状態でリリィちゃんを指名するべきでは無かった。
俺は明らかな選択ミスに落ち込みつつ、再度どうしたものかと考え、戦闘力だけで考えれば安全な人を指名する事にした。
「じゃあ、ジーナちゃん。頼める?」
「いいよー。ま、いざとなったらジーナちゃんがパッと転移すれば安全だしね」
「それは確かに。じゃあ二人で行こうか」
「リョウさん!」
「ん?」
「私も行きます! 戦場になるという事は多くの人が傷つくという事です。そうなれば私の出番かと」
「あー、リンちゃんの力か……確かにそうか。でも良いの?」
「はい。戦争を止められない代わりに、一人でも多くの命を救いたいと思います」
ハッキリと、強く俺を見据えながら放たれたリンちゃんの言葉に俺は分かったと頷いた。
そして、これでメンバーも決まりだと俺は大きく頷いたのだが。
それに不満を示す子が一人。
何となく察してはいたが……まぁ、ココちゃんである。
「ココも……行きたい」
「いや、でもなぁ」
「ココも! 行きたい!」
強い視線で俺を貫くココちゃんに、俺はどうしたものかと考える。
無論連れて行くだけなら簡単である。
俺が傍にいる限り、ココちゃんに何かをする人間は居ないだろうし。
何か危機的状況になったとしても、ココちゃんをすぐに逃がすだけで良い。
だが、それでは駄目だ。
それではココちゃんは納得しないだろう。
「ココちゃん」
「……っ! お兄ちゃん」
「残念だけど……」
「良いじゃん」
ココちゃんに諦めて貰おうと言葉を投げようとしていた俺に、被せる様にしてジーナちゃんが口を挟む。
俺は少し強めの視線を向けるが、ジーナちゃんは一切怯まなかった。
「ジーナちゃんは良いと思うよ。別に連れて行ってもさ」
「ジーナちゃん……!」
「そう怖い顔しないでよ。だってココちゃんが行きたいって思ったんでしょ? なら行くも行かないもココちゃんの自由じゃない?」
「でも、現地で何が起きるか分からないんだよ」
「そんなのセオストに居ても同じだよ。いつどこで何が起きるかなんて誰にも分からない」
「傷つくかもしれない」
「リョウ君。ココちゃんは、リョウ君が思っている程子供じゃないよ。ちゃんと分かってる。分かった上で行くって言ってるんだ」
ジーナちゃんの言葉に、俺は強い戸惑いを感じて、ココちゃんを見やった。
ココちゃんは強い目で俺を見ながら頷いている。
「凄く怖い物を見るかもしれないんだよ?」
「だいじょうぶ」
「お友達が、傷ついてる姿を見るかもしれない」
「それでも、ココは……それでも行きたいの。ココは、あの場所で生まれて、生きてきたから」
「そうか……」
俺はもはや何も言えないと小さく息を吐いた。
言葉を重ねればココちゃんを止める事も出来るかもしれないが。
多分それは無粋なのだろう。
「分かったよ」
「……! お兄ちゃん」
「一緒に行こう。ココちゃん」
「ありがとう」
そして、ココちゃんも一緒に行くことになり、ココちゃんが行くならとモモちゃんも一緒に行ってくれる事になった。
俺たちはこれよりシーメル王国へと向かう。
戦争に、介入する為に。