無事。
と言っても良いのか分からないが、俺たちはシーメル王国の入国証を手に入れる事が出来た。
俺はこれ以上の長居は無用と、冒険者組合を去ろうとしたのだが、受付のお姉さんに引き留められてしまう。
「あ、あの! リョウさん!」
「……何か?」
これ以上、ココちゃんを傷つける様な発言は許さないぞと、俺は神刀に手をかけながら問い返した。
そんな俺に、受付のお姉さんはゴクリと唾を飲み込んでから、口を開く。
「あの。先ほどのやり取りについてなのですが」
「問題があるという事でしたら、俺はいつでも冒険者を止めますよ。スタンロイツ帝国からも誘いは受けていますし」
「そ! それは!?」
「俺はセオストに何かこだわりがある訳じゃない。家族をバカにされて、ここに留まる理由は無いですよ」
「その件は、申し訳ございません! 私が代わりに謝罪をしますので!」
「貴女は関係ないでしょう? これは俺の問題だ。謝ったからなんだという話でもあります」
「いえ。その! この件に関しましては、組合長にも連絡をしまして」
「申し訳ないんですが、時間が無いので。話なら後にしてください」
「あ……! っ! お気を、つけて」
「はい」
俺はため息と共にココちゃんを抱き上げて冒険者組合の建物を出る。
苛立ちは消えないが、ココちゃんを怖がらせるわけにもいかないし。
何とか自分の中に閉じ込めてゆく。
「お兄ちゃん……」
「あぁ、ごめんね。ココちゃん。怖い目に遭わせちゃって」
「ううん。良いの。それよりも、お兄ちゃん……いたくない?」
「痛い?」
「うん。胸の辺りがね。きゅうって痛くなっちゃうの。ない?」
「あぁ。無いよ。ココちゃんが心配してくれたから全部消えちゃった」
「そう、なんだ……なら良かった」
冒険者組合の前でココちゃんを抱き上げたまま、俺はココちゃんと気持ちを交わす。
そして、落ち着いたし、そろそろシーメル王国へ行こうとしたのだが、そんな俺たちの前に一人の男が現れた。
「む? むむ? おいおい。路上でイチャイチャしてんじゃねぇぞ。リョウ」
「何の用だ。サラス」
「用事が無きゃ話しかけちゃいかんのかー? 英雄様はよぉ」
「別にそういう訳じゃないが」
「なら良いじゃねぇの。俺もな、一仕事終えてよ。金が入ったから食堂でフィオナちゃんとリリィちゃんに食事を作って貰おうと思ってな」
「二人なら今日は多分一日家にいると思うぞ」
「なにぃー!? くそぅ。なら、オッサンの飯で我慢するかぁ。リョウ。付き合えよ」
「悪いが、俺はこれから用事があるんだ」
と、言ってから先ほどの事を思い出し、失敗したかとココちゃんを抱き上げている手とは逆の手に持っていたシーメル王国の入国証を隠そうとした。
だが、サラスは無駄に良い目で俺の持っていた紙を見ると、俺をジトっとした目で見やった。
「なんだ、お前」
まだふざけた事を言われるのかと俺は身構えた。
が。
「ココちゃん連れてシーメルに行くだと!? デリカシーってもんがねぇのか!」
「……は?」
「は、じゃねぇよ。は。じゃよ。お前、シーメルでの獣人の扱いを知らんのか? ココちゃんが傷付いてからじゃ遅いんだぞ!」
俺は怒りを向けてくるサラスに、フッと吹き出してから、大笑いをした。
しかし、サラスは俺が笑う意味が分からず怒り狂っている。
バカにされていると感じているのだろう。
「おい!」
「いや、悪い悪い。笑ったのはバカにしたからじゃないんだ。お前は良い奴だなと思ってな」
「あん?」
「帰ってきたら飯を奢るよ」
「まぁ、良いけどよ。それで? いつ帰ってくるんだ」
「さぁ? 今から依頼だからな。終わったらだよ」
「なんだか分からねぇけどよ。帰ってきたら教えろよ!」
「あぁ」
俺はサラスに別れを告げて、自宅へを急いだ。
その道中、ジーナちゃんやココちゃんに色々と突っ込まれてしまったが、恥ずかしいので黙秘だ。
という訳で。
家で待っていたリンちゃん、モモちゃんと合流して、俺たちはセオストの外へ出た。
そして、以前と同じ様にジーナちゃんにお願いしてシーメル王国の近くまで転移して貰う。
「まだ……何も起きてないみたいだね」
「ねー」
「うん。どれくらいで何が起きるか分からないけど、ひとまず国の中で潜伏しようか。ミクちゃんも見つけないといけないし」
ココちゃんがフードで頭をすっぽりと隠してる事を確認し、ココちゃんを隠す様に前に立った。
そしてジーナちゃんがココちゃんの手を握りながらいつでも転移が出来る様に立つ。
リンちゃんとモモちゃんはさりげなくココちゃんの両側に立って、軽く周囲を警戒していた。
「じゃ、行くよ」
「うん」
それから俺はかなり警戒しつつ国内へと入り、街の外へすぐ逃げる事が出来る場所に宿を取った。
ひとまず、特に疑われる様な事も、何か事件が起きる事もなく、俺は安堵の息を吐いた。
「とりあえず国の中は静か、というか落ち着いているみたいだね。今すぐ何かが起きるって事は無さそうなのかな」
「しかし、戦争は急に始まるものですからね……」
「それもそうか」
「今は状況が知りたいですね。獣人さん達が何を考えて、どう動くつもりなのか……」
「うん」
俺はリンちゃんの言葉に頷きつつ、どちらにせよまずはミクちゃんと合流するべきだろうと考える。
しかし、問題はミクちゃんが今、どこに居るのか分からないという事であるが。
「まずはミクちゃんと合流したいんだけど、ミクちゃんがどういう所に行きそうか分かる?」
「んー。正直、こういう時のミクはあんまり読めないのよね。王族の所に行ってるかもしれないし、獣人の方に行ってるかもしれないし。街の中に何か仕掛けてるかもしれないし」
「それは、何とも困ったもんだなぁ」
「だから確実に合流するのなら、やっぱりコトが起こってからかなって気がする」
だろうなと思いつつ、それで間に合うのか? という疑問もある。
いや、でもやれる事をやるしかないか。
「じゃあ、ひとまず街の色々な場所を見て回るよ。何か見つかるかもしれないし。もしかしたら獣人の計画も分かるかもしれない」
「お、お兄ちゃん」
「うん? どうしたの? ココちゃん」
「ココは、何をすれば、良い?」
「ココちゃんは、ここでジーナちゃんと一緒に一人でも多くの友達を助ける準備をお願い」
「お友達を、助ける」
「そう。ジーナちゃん。お願いできる?」
「うん。要するに簡易的な転移の魔導具を作ってれば良いんでしょ?」
「そうだね。街の外に逃げられるくらいで良いと思うよ。そこは多分安全だから」
「おっけー」
「がんばる」
という訳で、俺はジーナちゃんにココちゃんの事を任せて宿の外へと出た。
何かあるかと宿屋の近くを歩いてみるが、特にコレというモノは無いらしい。
街は平和そのもので、以前来た時と変わらず獣人が虐げられている……おそらくはこの街でいつも行われている日常の光景だ。
「こういうモノを見ていると……いっそ壊れてしまった方が、良いのかもしれないなんて思ってしまうな」
それによって多くの人が死ぬのだとしても。
虐げられ続けた彼らの事を思えば。
なんて、考えながら歩いていた俺は、ふと裏路地に入っていく大きな影を見つけた。
俺よりも高い身長やガッシリとした見た目には覚えがある。
「……!」
俺は思わず彼を追いかけて路地裏へと急いだ。
そして、人の目線が消えた瞬間に……彼と武器を突きつけ合う事になった。
獣人である彼は獣の物となり肥大化した手と爪を。
俺は神刀を抜刀し、彼へと向ける。
「む?」
「お久しぶりですね。レオさん」
「お前は……いつぞやの冒険者か」
やや驚いた様なレオさんの言葉を受けながら、俺はニコリと笑うのだった。