異界冒険譚   作:とーふ@毎日なんか書いてる

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第306話『シーメル王国事変(はじまる争い)6』

 シーメル王国で情報を調べていた俺は、裏路地で酷く懐かしい人と再会した。

 

「お久しぶりですね。レオさん」

「お前は……いつぞやの冒険者か」

 

 レオさんは以前会った時と何も変わってない様に見える。

 が、その身に纏う殺気は以前とは比べ物にならない程に大きい。

 何があったか、など考えるまでも無い。

 

 シーメル王国でこれから起きようとしている戦争は、レオさんが仕掛けようとしているのだ。

 

「やっぱり、レオさんは戦争を仕掛けるつもりなんですね」

「やはりという事は、知っていたか」

「えぇ。アリア様に聞きました」

「そうか。それで? 姫様は?」

「今はセオストに居ます」

「……そうか」

 

 レオさんは安心したとでも言う様な顔で小さく息を吐いた。

 まるで、アリア様の無事を安堵しているかの様な姿である。

 

「ならば、お前はセオストへ戻れ」

「戦争を止めるつもりは無いんですか?」

「ない。人は死ぬべきだ。死ななくてはならない」

 

 レオさんはハッキリと俺に殺意を向けながらそう言った。

 しかし、アリア様への態度を見ていれば、その言葉がそのままレオさんの考えとも思えない。

 全てが全て、そういう考えでは無いだろう。

 

「では、アリア様も、死ぬべきだと、そう思っているんですか?」

「あぁ」

「……そんな見え見えの嘘。意味が無いですよ。レオさん」

「嘘だと……?」

「えぇ。少なくとも俺にはそう見えますね!」

 

 俺はハッキリとレオさんにそう告げて、少し離れた。

 これだけ張り詰めた殺気を出している状況では、何かの拍子に攻撃される可能背もあるからだ。

 

 しかし、レオさんは自らの手を見つめたまま動かなくなってしまうのだった。

 動揺……という訳では無いように見えるが、何を考えているのだろうか。

 

「お前は……姫様をどう思っている?」

「アリア様を……? どうというのは?」

「愛しているのか」

「は!?」

 

 突然何の話だと俺は動揺しながら妙な声を上げてしまった。

 意味が分からない。

 

 突然なんでそんな話になるんだ!?

 

「なんだ貴様は。遊び半分で姫様に手を出したのか」

「いやいやいや! 待って下さいよ! 俺はアリア様に邪な感情を抱いたことなんかありませんよ!? 今回の事だってミクちゃんに頼まれたから!」

「ミクちゃん……?」

「えっと、世界国家連合議会の災害対策局の局長、という役職の人だったと記憶してます」

「なるほど。あの少女か」

 

 レオさんは納得してくれたのかふむと頷いていた。

 しかし、それでも俺に向ける目はどこか冷たい。

 何なんなんだ……。この人に何かやったか?

 

「あの?」

「まぁ良い。お前が何を考えていようとも姫様はその企みを全て打ち壊すだろう」

「いや、本当に。何も企んでないんですけどね?」

 

「まぁ、そうか」

 

 まるで何も信じていないという様な顔でレオさんは頷いた。

 何故ここまで信用が無いのか。

 

 いや、今大事な事はそれじゃないか。

 今一番大事な事はシーメル王国の事と、アリア様の事なのだから。

 

「ひとまず話を戻しても良いでしょうか? シーメル王国の事と、アリア様の事」

「お前に話すことなど何もない。先ほども言ったが、セオストに帰れ」

「アリア様の願いは戦争を止めることですよ」

「無駄な事だ。我らの怒りはもはや止まらん。今日まで冷静でいた事が奇跡に近いのだ」

 

 ハッキリと、強い意思でレオさんは俺にそう告げた。

 そこには変わらぬ想いと、強い拒絶があった。

 

 そして、彼との問答をしている間に、いくつかの気配がこちらへ近づいてきている事に気付いた。

 

「っ!」

「どうやら来たようだな。逃げるなら今の内に逃げた方が良いぞ。彼らは俺の様に大人しくはない」

「その様ですね」

 

 俺は荒々しい殺気に目を細めた。

 しかし、彼らの動きは人間を遥かに超越しており、今から逃げてもおそらく逃げられないだろうという事がよく分かった。

 

「おう! レオ。随分と来るのがおせぇじゃねぇか。何やってたんだ?」

「あぁ、姫様を探していてな」

「なに? 行方不明なのか?」

「いや、どうやらそこの人間が自分の住処に連れて行ったらしい」

「なにぃ?」

 

 クマの様に巨大なその男は、俺を上からグイっと見下ろすと、強く睨みつけた。

 かなりの威圧感があり、ともすれば逃げ出してしまいそうな程の恐怖があった。

 下手をすると、その辺りの魔物よりも威圧感がある。

 

「おい! お前! そこのお前だ! 姫様に傷一つでも付けてみろ! お前の首と胴体が別れる事になるぜ!?」

「……」

「聞いてんのかぁ!? あぁん!?」

 

 クマの様な姿の獣人は俺を威圧するが、俺はここで怯むのもなんだか悔しい為、静かに見つめ返す。

 だが、そんな俺の姿が気に入らないのか、周囲の獣人達は俺を囲んで威圧するのだった。

 

「やめておけ。その男はそれほど容易く倒せる人間ではない」

「へぇ。そんなにやるのかよ。コイツ」

「見たところ、それほど強そうには見えねぇがな」

「見てみろよ。この腕! ちょっと撫でたら折れちまいそうだぜ!」

 

 街で出会ったチンピラの様に。

 獣人達は俺を囲んでゲラゲラと笑う。

 

 一見すれば、街のどこにでもいるチンピラの様な姿であるが、その身に秘めた戦闘力は並大抵の物ではない。

 ともすれば、俺の命など容易く消せてしまうだろう。

 

 しかし、俺もただで負けるつもりはない。

 戦いとなるならば、それなりに抵抗をするつもりだ。

 

「はぁ……お前たちはエドワルド・エルネストを忘れたのか?」

「うっ!」

「なんだと!? あの男が来ているのか!?」

「来てはいない。だが、あの男の様に、人間の中には信じられない程強いものが居るのだ。見た目は関係なく……な。だから、見た目で人間の戦闘力を判断するのは止めろ」

「チッ」

「分かったよ」

 

 酷く不満そうな顔をしているが、獣人の彼らはレオさんの言葉にひとまず頷いた様だった。

 そして、俺を囲むのは止めて、それぞれ少し離れた場所へと移動する。

 

「まぁ、そこの人間は良い。それよりも……だ。計画はどうなっている」

「順調だ。途中に妙な邪魔が入ったが、人間の小娘一人に負ける俺達じゃねぇ」

「妙に強ぇ小娘だったがな」

 

 人間の小娘という言葉に、俺は一人の女の子を思い出し、口を開いていた。

 アリア様の願いを受けて、獣人戦争の被害を減らそうと奮闘していた少女。

 ミクちゃん。

 

 もしや、彼女が傷つけられたのでは!? という疑惑だ。

 

「その小娘というのは!? まさかミクちゃんの事か!?」

「ミクちゃん? 知らねぇよ。名前は名乗ってなかったからな」

「姿も隠してたし。どこの誰かも分からねぇよ」

 

「では、その子は今どこに!? まさか、殺したのか!?」

「いや? 獣人街の地下に落ちてそのまま消えちまったよ。まぁ下は魔物もいるからな。無事じゃねぇだろう」

「その場所は!」

「向こうの方だが……地面が大きく陥没してるから分かるだろ……っておい! お前は姫様の護衛を!!」

 

 俺は獣人の言葉を背に流しながら、急いでミクちゃんと思われる子が落ちたという場所へと向かった。

 ミクちゃんかどうかは分からない。

 でも、少なくとも俺は、人間の少女で獣人が強いと表現する様な子はミクちゃんしか知らない。

 

 だから、急いで獣人街を駆けて、遠くからでも分かる大穴を見つけ、その中に飛び込んだ。

 まだ崩落してそれほど時間が経っていないらしく、周囲には土煙が立ち込めていた。

 そして、その中心部辺りで倒れている少女が一人。

 

 俺は近くに駆け寄って……大穴の上から差し込む光の中で横たわる少女に近づいた。

 

「ミクちゃ……!? ん? 誰だ?」

「ん……んん……」

 

 そこに居たのは騎士の様な鎧を体に付けた金色の短い髪の少女。

 その元気そうな顔立ちの少女は手に何やら光る剣を握っており、どう見てもミクちゃんではない子だった。

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