ミクちゃんと無事合流した俺は、シーメル王国の状況をミクちゃんに確認しつつ、急いで現場に向かおうとしたのだが。
「まだ何も起こっていない?」
「はい」
「でも、さっき何かが壊れる様な音がしてましたけど」
「それは、シーメル王国の城門に仕掛けられていた爆弾が爆発した音だと思います」
「爆弾……!」
思わず俺はその衝撃的な言葉を口にしてしまった。
爆弾。爆弾である。
少なくとも平和的な目的で使われる事は無いだろう。
いや、俺が知らないだけで平和的な使い方もあるかもしれないけど。
獣人の憎しみが渦巻くこの場所では平和よりも憎しみが強いように思う。
「被害は?」
「人的な被害はありませんが、城門が破壊された為、城へ自由に出入り出来る様になりました」
「……それは、最悪ですね。獣人の動きは?」
「それを確認しようと獣人街へと来たのですが、お二人が争っていたので、ひとまずこちらへ降りて来たのです」
「あー、なるほど。それは申し訳ない事をしましたね」
俺はまったく。と文句を言いたそうにしているミクちゃんに謝りつつ、へたりこみながらグズっていた少女へと視線を落とした。
名前はユウキとさっきミクちゃんが言っていた。
「えーっと、ユウキちゃんだっけ。君はどうしてシーメル王国に来たの?」
「ゆーしゃ、だから……ぐずぐず」
「勇者だから?」
よく分からない回答だなと思いながら首を傾げているとミクちゃんが補足してくれた。
「勇者とは、世界に起こる混乱や事件を解決する為に活動する英雄の称号で、ユウキはその称号を受け継いでいるんです」
「なるほど。だから、勇者としてシーメル王国で起こる戦争を止めに来たって事か」
「そ、そうだよ! でも、そしたら、そこの人に誘拐されて……!」
「いや、誘拐をした覚えは無いんだけどね」
「……ジィー」
「そんな目で見ないでくれるかな。ミクちゃん」
俺は両手を上げて降参のポーズをしながらミクちゃんにお願いをする。
だが、ミクちゃんは変わらず胡散臭いな。とでも言う様な顔で俺を見続けるのだった。
信頼というモノをまるで感じない。
犯人を見つけたとでも言う様な視線だ。
「まぁ、誘拐と言うのは間違いだとしても、何をしたんですか? リョウさん」
「何かした事は疑ってないんだね」
「それはそうでしょう。リョウさんには前科が沢山ありますからね。疑うなという方が無理という物です」
「はぁ……まぁ、良いけどさ」
俺はため息を一つ吐いてから事情を順番に話す事にした。
とりあえずミクちゃんと別れてからあった事を順番に、だ。
「ミクちゃんからアリア様を託されて、ひとまずセオストに戻ってから、またシーメル王国の様子を見る為にこっちへ戻って来たんですよ」
「アリア様をお願いしますと言ったのに……」
「ミクちゃんだって放っておけないでしょ? それにアリア様はサクラ達に任せてるから大丈夫ですよ」
「はぁ……分かりました。それで、シーメル王国に戻ってきてからどうしたんですか?」
「それで、ちょうどレオさんを見つけたので、ミクちゃんの場所を聞こうとしたら、他の獣人が現れて、やたら強い少女が居たというので、その子がミクちゃんかと思い、獣人街へ来たら落盤に巻き込まれたのか地下に落ちてたユウキちゃんを見つけた。というワケでございます」
「なるほど」
「落ちてた場所は魔物も出るって話だったし。ユウキちゃんは気絶してたし。とりあえず安全な場所に運ぼうとしてたら、途中でユウキちゃんが起きて、どったんばったん。それでミクちゃんが到着したってワケだね」
「じゃあ、全部ユウキが悪いんじゃないですか」
「えぇー!? だって! 起きたら知らない人が運んでたんだよ!? 誰だって誘拐だー! って思うよ!」
「でも、背負っていたんでしょう? それなら救助の方がありそうな話ですが」
「僕は勇者だよ! 誰かに助けられる事なんて無いもん!」
「でも、気絶してたんですよね?」
「う」
「しかも魔物が出る様な場所で」
「そ、それは……」
「これで勇者とは、涙が出ますね」
「理由があったんだよ! 理由が!」
「ほぅ。理由ですか。あるなら聞きたい物ですね。本当にあるのなら」
必死に叫ぶユウキちゃんにミクちゃんがやや冷たく返す。
そんな冷たいミクちゃんに、ユウキちゃんは少しばかり戸惑いながらおずおずと語り始めた。
「ぼ、僕もさ。シーメル王国で大きな争いが起きるって聞いて、急いで戦争を止めようとここに来たの!」
「それで?」
「それで、戦争を起こそうとしている獣人達が居たから、止めようとして……それで」
「……それで?」
「一気に倒そうと思って地面に向かって飛び蹴りをしたら……その、地面が壊れて、地下に落ちちゃった」
「はぁ」
ミクちゃんは深いため息を吐いて、ユウキちゃんに一つずつ丁寧に説明を始める。
ユウキちゃんはミクちゃんに怒られ慣れているのか、ショボンとした顔をしながらコクコクと頷いていた。
「まず、獣人と人間が戦争を始めるからといって、獣人を止めれば良いという話ではありません」
「え? そうなの?」
「はぁ……少しは、世界の事を学びなさいといつも言っているでしょう? 今回の事件は獣人を人間が長く苦しめていた事が原因です。復讐と言えるかもしれません」
「え? じゃあ、正しいのは獣人ってこと?」
「それもそうとは言えません。彼らは彼らで関係のない人間を巻き込む事に躊躇がありませんから。暴走は止めなくてはいけません」
「んー。うーん。うー!」
「どうしたのですか。ユウキ」
「いや、結局どうすれば良いのか分からなくて……どうなるのが正解なの?」
純粋無垢な顔で首を傾げるユウキちゃんに、ミクちゃんは少し難しい顔をしながらゆっくりと口を開いた。
その姿に先ほどまでの軽快な様子はない。
「分かりません」
「え?」
「私にも……おそらくは誰にも、この事件による正解は分からないのです」
「なら、どうするの?」
「状況を見守りつつ、多くの命を助ける。それがアリア姫様の願いであり、私の考えです」
「なるほど……」
ユウキちゃんはミクちゃんの言葉に何度も頷いて、キラキラと輝く様な笑顔を浮かべた。
「じゃあ、僕もミクと一緒に人助けをすれば良い?」
「そうですね。そうして頂けると助かります」
「おっけー! 任せてよ!」
ユウキちゃんは元気いっぱいに右手をミクちゃんに向けながら笑う。
そんなユウキちゃんに、ミクちゃんは苦笑しながら右手をユウキちゃんの右手に合わせるのだった。
「じゃあ、いこー! いこー!」
そして、ユウキちゃんはミクちゃんの手を握ったまま元気よくシーメル王国の街の方へと行こうとしていたのだが、それをミクちゃんが無理矢理止める。
それによって、前に進もうとしていた体を無理矢理止められてしまったユウキちゃんはバランスを崩して地面に倒れてしまった。
「ちょーっと! もう! 何するんだよぉ!」
「今からシーメル王国に行っても獣人達を警戒させるだけです。そうでなくても貴女は有名なんですから」
「え? 僕って有名? えへ、えへへ」
「別に褒めている訳じゃないんですが……まぁ、良いでしょう」
ミクちゃんは、ハァとため息を吐きながら俺へと視線を向けた。
「リョウさん。おそらくですが、シーメル王国にジーナさんもいらっしゃっているんですよね?」
「えぇ、着てますよ。今はシーメル王国の宿屋に居ます」
「やはり……。ではジーナさんにお願いをして、宿屋に転移しましょう。私もシーメル王国の内部に居ると知られたくないですから」
「分かりました。じゃあ、ジーナちゃんに連絡しますね」
俺はジーナちゃんから渡された通信機を使い、ジーナちゃんに連絡を取るのだった。