やるべき事がザックリとではあるが決まった為、俺はより細かいことを決めようと口を開こうとしたのだが。
そんな俺の言葉に被せる様に、外から轟音が鳴り響いた。
「なんだ!?」
「まさか!」
俺は急いで宿屋の窓に向かい、外を見て目を見開いた。
そこに広がっていたのは、何かから逃げ惑う人々だ。
何か事件が起きたのだという事が分かった俺は窓を開き外へ飛び出すと、宿屋の屋根に上ってどこで何が起きているのかと周囲を見渡した。
「どうですか!?」
「向こうの方。セオストへ行く街道に繋がる門で火の手が上がっています。他にも、いくつかの場所で」
「これは……」
俺の隣に来たミクちゃんは難しい顔をしながら周囲を見渡した。
それもそうだろう。
今火の手が上がっている場所は何処も外へと繋がる門の所なのだから。
目的は酷くシンプルだ。
この街からは一人も逃がさないという意思表示だろう。
後は……混乱を引き起こして戦いやすくする為か。
「ミクちゃん。どうやらまともな手段では住民を逃がす事は出来そうにないですね」
「……はい。どうやらその様ですね」
「最悪の場合、街壁を破壊する事になりそうですが、その辺りは大丈夫ですか?」
「問題ありません。人命を何よりも優先してください」
「分かりました!」
俺は急ぎ部屋に戻って、ジーナちゃんにココちゃんをお願いする。
本当は俺も一緒に居たいが、そうも言っていられない状況だ。
「ココちゃん。外は本当に危険な状態になった。何かあったらすぐジーナちゃんと一緒に逃げて」
「お、お兄ちゃんは」
「お兄ちゃんは一人でも多くの人間と獣人を助ける。このまま全てが無くなるっていうのは悲しすぎるからね」
「ココも……!」
「駄目だよ。ココちゃんは駄目だ。お願いだ。危ない事をしないで欲しい。ココちゃんが傷付くのは何よりも悲しい事なんだよ」
俺はココちゃんを抱きしめて想いを伝える。
そして、ジーナちゃんに目配せをして、頷いた。
「ジーナちゃん。後は頼む」
「分かったよ。ジーナちゃんにお任せ!」
「ありがたい。助かるよ。じゃあ、俺は行くよ!」
「あ! 待って待って! 僕も行く!」
俺は窓から飛び降りながら、地面に躓いて転んでしまった少女に巨大な拳を振り下ろそうとしている獣人を見つける。
そして、神刀を空中で抜くと、獣人を傷つけない様にしながら、その腕を受け止めるのだった。
「なっ!?」
「それくらいにしておけ!」
「邪魔を! するなぁ!」
腕を振り回して俺を弾き飛ばそうとする獣人の力をそのまま引き受けて、背後にいた少女を抱き上げながら俺はやや離れた場所に着地した。
「お前らの望みは、こうやって自分よりも小さく弱い物を襲う事か?」
「なにぃ!?」
「仲間を助けるという大義名分の元に、こうやって弱者をいたぶるのがお前たちの本質かと聞いている!」
「違う! 俺たちは恨みを晴らしているだけだ! 殺された家族の仇を討っているだけだ!」
「だとしたら見当違いだ! こんな少女が何か出来る物かよ! 力なき者を狙うお前は、お前の家族を痛めつけた奴と同じだ!」
「くっ!」
「やるなら相手を見誤るな!」
俺は瞬きの間に神刀を抜き、少女を襲おうとしていた獣人の頬を浅く斬る。
無論それでどうにかなる事は無いだろうが、少なくとも俺が容易く獣人を斬る事が出来ると理解したのだろう。
獣人はやや怯えた様に後ずさった。
「お前たちが正当な復讐をする。同族を解放したいだけだというのなら俺は邪魔をしない。だが、弱者を狙うのならば、お前たちの敵となる。覚えておけ!」
俺は少女を抱きかかえて獣人に宣言をした。
獣人は説得に応じてくれたのか。俺が塞いだ道ではなく、別の道へと走っていくのだった。
それを見て、俺は深く息を吐きながら背後に振り返った。
どうやらここには女性や子供しか居ないらしく、あの獣人が狙う様な貴族でも無かった様だ。
「あ、あの……! 助けて頂いてありがとうございます!」
「いえ。ただ、まだここは無事とは言えませんので、避難をしましょう」
「私たち、平民だからって、騎士様にも見捨てられて! 何とか逃げて来たんですが! 獣人に殺されそうになって!」
「分かります。怖かったんですよね。街の城壁の外までお連れしますから、安心してください」
何とか言葉を並べて、恐怖に震える人々を説得した。
それで落ち着いた人々を見ながら、どうやって逃げようか考えていた俺だったが、不意に服がクイクイっと引っ張られた。
「……おにいちゃん」
「ん? どうしたの?」
「お友達が、家に居るの」
「お友達か。分かった一緒に行こう。家は?」
「すぐそこ」
俺は少女が指さした方を見てから、ユウキちゃんに振り返る。
そして、ユウキちゃんに街の人たちをお願いして少女の家に走った。
だが、そこに居たお友達は驚くべきものだった。
「これは……」
「この子ね。サラのお友達なの。シル。一緒に逃げよ」
「う……うん」
そこに居たのは獣人の少女であり、首には首輪があり、地面に打ち込まれた杭と鎖で繋がっていた。
しかも、酷い扱いをされていた様で、全身に小さな傷がいくつも付いていた。
「んー! うーん!」
少女は一生懸命杭を抜こうとしているが、それは少女の力で抜ける様な物では無いらしくびくともしていなかった。
だから、俺は少女に下がっている様に言って、獣人の少女の首輪に神刀を向けた。
「っ! い、いじめないで……!」
「シルをイジメちゃダメ!」
「大丈夫。イジメないよ。首輪を斬るんだ。俺を信じて」
「……!」
少女達は俺に怯えたような目を向けていたが、あまり時間もかけてられないという事でサッと首輪を斬り、納刀した。
俺が神刀を納刀した事で少女たちは不思議そうな顔をしていたが、重そうな首輪が少女の首から外れた事で、シルという名の獣人の少女は目を大きく見開いて涙を溜めた。
そんな少女に、サラと呼ばれた人間の少女は獣人の少女を抱きしめて首は大丈夫かと確認しているのだった。
どうやらかなり仲良しらしく、怪我が無いことを確認してからサラと呼ばれた少女は何度も俺に礼を言っていた。
そして、シルという少女も遅れながら何度も礼を言う。
「大した事はしてないよ。むしろ来るのが遅れてごめんね。さ。こんな怖い場所は早く離れて、安全な場所に逃げよう」
俺はシルちゃんとサラちゃんを抱き上げて家から外へと出た。
外にはちょうどユウキちゃんがおり、少し困った様な顔をしていたが、俺を見つけるとサッと駆け寄ってきた。
「お兄さん。大変だよ!」
「大変?」
「そう。お兄ちゃんと一緒にいた獣人の子がね」
「ココちゃんが?」
「なんか、さっき助けた人間に襲われてる」
俺は言葉の途中で駆けだしていた。
大きな道に出て先ほど助けた人々がいる場所を見れば、そこにはココちゃんとジーナちゃんがおり、何やらシーメル王国の住民に囲まれている。
俺はユウキちゃんにシルちゃん達を託し、地面を削りながら駆けだすと、神刀を抜いて住民の前に立って、ココちゃんとジーナちゃんを背に庇った。
「何をやっている!」
「お、お兄ちゃん」
「リョウ君! 遅いよ!」
「ごめん。それで……」
「あ、あんた! ここにも獣人が居たんだよ! 早く殺しておくれよ!」
「は?」
「アンタ、獣人を殺す為にここに来たんだろ!? 早く!」
「この子は俺の家族だ。殺すなんて……傷つけることなどあり得ない」
「何言ってんだい! 獣人が家族だなんて! そんな汚い生き物が家族な訳無いだろ!」
「そうだよ! せっかく飼ってやってたのに! こんな事をやって!」
俺は深いため息を吐きながら暴言をぶつける連中を見やる。
そうか。
これか。
この戦争の根本は……。
俺はシーメル王国の現状を強く理解し、神刀を上に構えるのだった。