怒りのままに神刀を振り上げた俺は勢いよく振り下ろし、街の住人達と俺たちの間に深い溝を作り出した。
……が、まぁ踏み越えようと思えば簡単に踏み越えられる程度の幅しかない溝だ。
だが、俺の意思はハッキリと示している。
「これ以上、俺の家族を傷つけるのであれば、容赦はしない」
「……! でも!」
「俺はシーメル王国の人間を一人でも多く助けたいという姫様の願いを聞いて、ここへ来た。だから俺は殺す為じゃなくて助ける為にここへ来たんだ。だから、お前たちが救う価値の無い人間だとするなら、ここで捨ておく。それだけだ」
噴きあがる様な強い怒りを何とか理性で繋ぎとめて、俺は強く睨みつけながら言葉を叩きつけた。
その言葉に彼女たちは言葉を失ったようで、それ以上何かを言ってくる事はなかったのである。
そして、静かになった事を確認し、俺は住民たちにこれからの行動を告げる。
「これから俺たちは王都を脱出します。獣人の狙いは王族や貴族であると思われます。おそらく王都の外まで襲ってくるという事は無いでしょう」
「……」
「なので、皆さんが助かりたいと願うのなら、黙って付いてきてください。あくまで自力で脱出したいと考えるのも、王都に留まるのも選ぶのは皆さんです。俺は何も強要しません。そして、家族への侮辱をしないのなら、俺から特に言う事はありません」
言うだけ言って、俺はユウキちゃんに向き直った。
ユウキちゃんはどこかボーっとしていたが、俺と視線がぶつかってからハッとした顔になる。
「ど、どど、どうしたの?」
「どうしたの? はこっちのセリフだけど。まぁいいや。これから逃げるから、後ろの方を見て貰っても良い?」
「別に良いけど、お兄さんは?」
「俺は前。勿論逆でも良いけど。どうする?」
「んー。良いよ。僕が一番後ろにつくよ。一番後ろは一番強い人が居る所だからね!」
「そうだね」
そして、意気揚々と後ろに飛んでいくユウキちゃんを見送りながら、俺はジーナちゃんにも視線を向けた。
「ジーナちゃんも一番後ろの方が良い?」
「うん。あの子一人じゃ心配だから」
「分かったよー。仕方ない。ジーナちゃんが見てあげよう」
ジーナちゃんはクスリと笑って、後ろに転移した。
俺の意図を読んでくれて、ココちゃんは残してくれる。
「ココちゃん」
「……うん」
「さっきは遅れてごめん」
「いい。だいじょうぶ。それよりも……」
ココちゃんは俺のすぐ近くに居た二人の小さな少女に駆け寄った。
そして、その体にそっと触れながら微笑んだ。
「こわくないよ」
「っ!」
「お兄ちゃんは、怖い人じゃないの。ココたちを守ってくれる人」
「……まもって、くれる」
「そう。痛い事も、苦しい事もしない」
ココちゃんは言葉を続けながらキュッと二人を抱きしめた。
その姿はまるで桜の様で、姉らしい姿と思えた。
「……うん」
「じゃあ、一緒に逃げよう? お姉ちゃんが一緒に居るから」
「うん」
お姉ちゃんらしい姿で獣人の子シルちゃんの手を握ったココちゃんは俺に振り返って力強く頷く。
二人は自分が見るから大丈夫。
という様な事だろう。
かつて、怯えて震えている事しか出来なかったココちゃんが、自分と同じ様な少女を導き、守ろうとしている。
その姿は何と素晴らしい事であろうか。
俺は感動しつつ、ココちゃんの想いを護りながら傷一つ負わせない様に立ち位置について考えるのだった。
とは言っても、ココちゃんのすぐ後ろから見守るのが一番であるのだが……。
「……お兄ちゃん」
「どうしたの? ココちゃん」
「ココは、どうすれば良い?」
「うーん。そうだなぁ……。ココちゃんはどうしたい?」
「……二人を、守りたい」
「なら、お兄ちゃんと一緒に行こう。俺が前に立つよ」
「うん……!」
俺は小さく頷くココちゃんの頭を撫でて、ココちゃん達の前に出た。
そして、意識の中にココちゃんを置きながら前を見据えるのだった。
「じゃあ、今から王都を脱出するけど、俺から離れちゃ駄目だよ」
「うん。ふたりも、良い?」
「う、うん」
「がんばる!」
「まぁ、凄い急ぐって事は無いから、気を付けながら付いてきてね」
俺は三人にそう告げてゆっくりと歩き始めた。
後ろに居る住人たちは戸惑っている様だったが、知った事じゃない。
別に助ける義理は無いのだ。
ついてくるというのならココちゃん達を助けるついでに助けるが、それだけである。
積極的に何かをしようという気は無かった。
そして、遠くで争っている声や音を聞きながら、俺は道を進み、街壁のすぐ近くまで来た。
大分頑丈そうな壁であるが、持って来たいくつかの道具を使えば十分に破壊する事は出来るだろう。
という訳で、俺はアレクさんが持っていた様な銃を取り出し、銃弾を込める為に銃の一部を外す。
「ココちゃん。耳を塞いでてね。大きな音が出るから。二人も」
「う、うん!」
ココちゃん達は急いで耳を塞ぎ、後ろの方に付いてきていた住人達も身をかがめながら耳を塞いだ様だった。
平然としているのは一番後ろに居るジーナちゃんやユウキちゃんくらいだ。
「じゃあ、行くよ」
そして、俺は手のひらで掴む様な大きな弾薬を一個銃に込めると、壁に向かって銃を構え……すぐに引き金を引いた。
瞬間。
世界が閃光に包まれて、轟音が鳴り響いた。
「……なかなか、激しいな。この武器は」
俺は銃口から煙を上げている銃を見ながら、呆然としてしまう。
何故なら、銃で撃った先の壁が完全に崩壊していたからだ。
とは言っても、壊れた壁が瓦礫になって積み上がっているし、これでは通る事が出来ないので、俺はもう一発……今度は瓦礫の山に向かって銃弾を打ち込んだ。
先ほどと同じ様に轟音と閃光が周囲を包み、瓦礫の山は吹き飛ばされて、地面が大きく削れる事となった。
「よし。これで通れる様になったね」
「……もう、だいじょうぶ?」
「うん。ごめんね。怖かったね。でも、もう外に出られるよ」
両耳をペタリと頭の上に付けて、両手で一生懸命押さえていたココちゃんは不安そうに俺を見上げて尋ねる。
俺はそんなココちゃんを安心させる様に笑いながら頭を撫でた。
そして、ココちゃん達と共に銃で大きく削れた地面を歩いて、王都の外へと脱出するのだった。
しかし、そのまま王都のすぐ近くに居てもしょうがないので、少し離れた場所まで移動する。
「……ここまでくれば大丈夫かな」
シーメル王国を離れ、平原の真ん中で俺はいくつもの黒煙があがるシーメル王国を見やった。
「……どうするかな」
それから、シーメル王国より逃げてくる住民を見ていたのだが、最初に出会った時よりも随分と増えている様な気がする。
おかしいなと思いつつ、一番後ろを歩いてきたジーナちゃん達に聞いてみる事にした。
「ジーナちゃん」
「んー? どしたの。リョウ君」
「いや、何か人が増えたな。と思ってさ」
「あー。それね。何か、途中で増えちゃった」
「増えちゃったって」
ジーナちゃんの適当な返事に俺はユウキちゃんの方へも視線を向けてみる。
そして、ジーナちゃんに聞いた時と同じように聞いてみる事にした。
「ユウキちゃんは、何で人が増えたのか。何か理由分かる?」
「え? いやー。なんか増えたなーって感じ」
俺は二人の発言に天を仰いだ。
一番後ろから色々と見ていたハズの二人から得られた情報は、何か知らんが人が増えたというだけだった。
増えた情報ゼロである。
俺は仕方ないと住民の人に事情とかを聞いてみようと思ったのだが、そんな住民の一人が大きな声を上げた。
「あ、アリア様!」
「姫様!? 姫様だ!」
その声に俺は驚き、振り返った。
そして、桜と一緒に街道の上に立つ少女……アリア姫様を発見するのだった。