アリア様を背負いながらユウキちゃんと共にシーメル王国の王城へと侵入した俺であったが、内部は未だ激しい争いの中にあった。
様々な場所で騎士と獣人が殺し合いをしている。
「っ! アリア様! ご無事でしたか! すぐにこの不届き者共を排除しますのでお待ちください!」
「姫様か! ここはあぶねぇぜ! 国の外に行ってなぁ!」
騎士も獣人もアリア様を気に掛けている様な言葉を発してはいるが、争いを止めるつもりは無いらしい。
どうしたものかとアリア様へ意識を向けると、アリア様は特に動揺した様子もなく言葉を発するのだった。
「皆さん。争いを止めて下さい。これ以上の争いは無意味です。互いに傷つけあっても、得られるものはありません」
「アリア様! ご安心を! すぐにこいつらは排除いたします!」
「へっ! もう少し綺麗にしてやるよ! 人間どもを掃除してなぁ!」
「……はぁ、駄目ですね。やはり」
「アリア様。無理矢理止める事も出来ますが」
「お願いします」
俺はアリア様を下ろし神刀を抜いてから一気に踏み込んだ。
そして彼らの間に飛び込んで、騎士の剣を砕きながら獣人の体を切り裂く。
それから騎士たちを蹴りつけて、神刀を向けた。
「アリア姫様のご命令だ。戦いを、止めろ」
「っ! 貴様!」
「……はぁ」
俺は騎士を斬りつけてから、傷を負いつつも襲ってきた獣人に更なる深手を負わせる。
リンちゃんがシーメル王国に来ているんだし。多少の傷は問題ないだろう。
死んでないのなら無傷という奴だ。
「……こんなモンか」
俺は神刀を納刀しながら一応生きているが、おそらく戦闘は出来ないであろう騎士と獣人を見据えた。
元気になれば、また戦いを始めそうだが、武器がない以上、そこまで凄惨な争いにはならない筈である。
一応動く事は出来る訳だし、新手が来ても逃げる事くらいは出来るだろうという考えもある。
「ありがとうございます。リョウ様」
「いえ。むしろだいぶ乱暴な手段になってしまい、申し訳ないです」
「いえ……言葉だけで憎しみを止める事は難しいですから。仕方ないと思います」
アリア様は酷く辛そうな顔で獣人と人間の騎士を見据えた。
しかし、小さく息を吐いてから気持ちを切り替えたのか、俺とユウキちゃんに向き直り、「急ぎましょう」と言うのだった。
それから。
何度か似たような事をやって争いを止め、俺たちはひたすらに王城の中を突き進んだ。
どこもかしこも、戦闘の跡、戦闘で傷ついた人、または命をおとした人で溢れていた。
だが、それでも争いは止まっていない。
戦争は続いている。
そして、俺たちは戦いを続ける者達の中を駆け抜けて、遂に玉座の間へとたどり着いた。
そこには、傷ついた大勢の騎士たちと、怯えた様に玉座に居る王族と思われる人々が居た。
その正面にはレオさんをはじめとする、あの裏通りで出会った獣人達が居た。
流石にあれだけの数を相手にするのは難しいな……。
「っ! 姫様」
「おいおい。あの人間野郎。こんな所に姫様を連れてきやがって。まだ来るのが早いぜ!」
「だから人間は信用できないんだ」
「アリア!? アリアか! こいつらはお前のペットだろう!? 早く追い返してくれ!」
「そうよ! 貴女がこんな汚い物を城に招き入れたんでしょう!? 早く何とかしなさい!」
「下等な獣が、我ら人間に逆らうなど……! 許される事ではない! そこの冒険者! アリアなど、そいつらにくれてやれ! ここまでアリアを守りながら無傷で来る事が出来たのだろう!? ならば相当な腕の冒険者であると見受けた! アリアからの依頼金の倍を出そう! 私を守れ!」
ギャアギャアと本当に元気な事だな、と思う。
が、アリア様はどうするのだろうか?
王族や貴族は諦めるという様な事を言っていた気がするが……。
と俺はアリア様の様子を伺った。
「お父様、お母様、お兄様。王城を彼らに引き渡しては下さいませんか?」
「何を言うの! この子は!」
「この様な下賤な者達に、城を明け渡せだなんて!」
「レオ。皆さん。皆さんが必要な物は平等。そして安全に生きられる場所と私は考えています。命を奪わずとも、辺境の地で静かに暮らす事を罰とする事は出来ませんか」
「アリア!」
「この裏切者が!」
「お前の様な者は王族の恥さらしだ!」
同胞である人間に……家族に罵られながらもアリア様はレオさん達に頭を下げた。
無論、そうしなければ彼らは皆、死んでしまうから……なのだが、現実が見えていないのか、彼らはアリア様を罵るばかりだ。
いや、王族で……今まで戦いから遠い場所に居たのなら、この状況が正確に理解出来なくてもしょうがないか。
レオさんと同じくらい獣人が数人いて、守らなきゃいけない人間が四人。
こんな状況では、エドワルド・エルネストさんくらいの化け物でなければどうにも出来ない。
もしくはジーナちゃんでも呼んで来るか……だが、そんな事をしている余裕はないだろう。
助けられるとしても一人だが、彼らが追撃という選択を取った瞬間、死闘が始まるし、その上でも複数の獣人相手に助けられる保証はない。
「で? どうすんだよ。姫様。俺らとしては別にこんなゴミの命、捨て置いても良いけどよ」
「何だと貴様!? 獣の分際で!」
「いっそ哀れだしな。状況も正確に理解出来ない様じゃあ……どうせ遠くない未来に死ぬぜ?」
彼の言っている事は正論だと思う。
これだけ獣人に対して激しい怒りを持っているのならば、反攻作戦か何か分からないが、いずれ争いを起こして……今度こそ死ぬだろう。
ならば余計な面倒を掛けない為にも、ここで終わりにした方が、アリア様としても良いと思う。
が、それでも。
「罪には罰が必要です。彼らには生きていて貰わなくては困ります」
「……はぁ。分かったよ。そういう訳だが、お前らも良いか?」
「無論」
「姫様が言うんなら、まぁ良いぜ。こんなゴミ。今更どうって事も無いからな」
「目的は果たした。それが全てだろう」
獣人達は納得した様で、ロープを取り出すと、王族たちを捕まえようとした。
だが、その瞬間……彼らの影から黒いナニカが噴き上がった。
それは……つい先日リメディア王国で見たばかりの物であり、俺は神刀を抜いて周囲を警戒しながら立つ。
そして、そんな俺の隣にはユウキちゃんが、鋭い目をしながら例の剣を握り、構えていた。
「警戒して。お兄さん。アイツ等が来る」
「アイツ等?」
「闇神教の連中だよ」
その酷く聞きなれた名前に、俺はミラーという男を思い出していた。
リメディア王国に巨大なドラゴンもどきを呼び寄せた男……!
「やぁやぁ。これはこれは。随分と予想外な事になっているじゃあないか!」
そして、俺は王族の闇から飛び出してきた一人の男へと注意を向けた。
その男は道化師の仮面を付けながら、玉座に座り、仮面の付いていない口の部分を歪ませながら笑う。
「おかしいなぁ。僕の聞いた情報じゃあ、獣人と人間が戦争をやってるってだけの話だったのに……勇者様に、新時代の英雄様までいるじゃあ無いか。しかも、なーんで僕にそんな敵意を向けてるのかなぁ」
その男はミラーでは無かった。
無かったが、ミラーと同じ様な狂気の匂いを漂わせた危険人物であると思われる。
最悪だ。
この状況でドラゴンを呼ばれてしまえば、王都に生き残っていた人々も皆、死ぬ。
「まったく。怖い怖い。そんな事では……思わずドラゴンに助けを求めたくなるじゃないか」
ニヤリという音が出そうな嫌な笑みを浮かべた男に俺は神刀を構えたまま一気に駆けだした。
そして、ユウキちゃんも俺と同じ様に駆けだし、剣を振るおうとしている。
だが、間に合わない。
俺達と奴の間にある絶望的な距離が……!
届かない……。
「いつまでも、貴方方の好きにさせるつもりはありませんよ」
「なに!?」
驚き驚愕する男の背後に現れたミクちゃんは鋭い目で右手を男に向けて……魔術を放った。