さて。
無事とは言い難いが、戦争は終わった。
廃墟と化したシーメル王国の王城であるが、一応跡地は残っている為、アリア様はそこに人を集める。
王都の危機とそれぞれの領地から駆けつけてきた貴族や、王都で生き残っていた貴族、騎士。そして獣人の方々。
戦いは終わったと言うのに、場の空気は最悪であった。
まぁ、何一つ物事は解決していないのだから、当然と言えば当然の結果であるワケなのだが。
「なるほど……アリア様を除き、王族は皆闇神教に堕ちておりました。嘆かわしい事です」
「……はい」
「しかし、やはりと言いますか。流石と言いますか。アリア様が光の下にいらっしゃったというのは幸いでありました。アリア様であればシーメル王国をよりよい国とする事が出来るでしょう。我々も変わらぬ忠誠を」
「ありがとうございます」
王都で見て来た者達とは違い、領地から来たという貴族の代表は礼儀正しく、アリア様に対しても礼儀を欠いていない様だった。
忠誠と言っていた言葉にも嘘は見えないし。本当に心からアリア様を信頼している様に見える。
というか、どこかすがすがしい顔をしているから、前の王様よりもアリア様が王様になって嬉しいという様な気持ちが見える様だ。
しかし……。
「と、ここまでは我々『人間』の話として納得できるものであります」
「獣人の方々の問題ですね?」
「はい。前王の施策で獣人を奴隷として扱っていた件について、アリア様が王となり廃止とする事に関しては理解出来ます。彼らに十分な補償を。というのも理解出来る話です。しかし、彼らと共存など……認める事は出来ません」
「ナッケン侯爵……」
「アリア様の慈悲は分かります。しかし、限度という物がある。そして世界には暗黙の了解という物もある。獣と人は同じ場所で暮らす事は出来ないのです。悪い事は言いません。彼らは彼らの住処へお返しなさい。獣に知性や理性はありません。いずれ事件を起こします」
「んだと!? テメェ!」
ナッケン侯爵なる人の言葉に、強い怒りを感じたのだろう。
獣人の一人が飛び出してナッケン侯爵の胸倉を掴んだ。
しかし、ナッケン侯爵は冷たい目を獣人に向けるばかりで抵抗らしい抵抗をしなかった。
「何ですか? 暴力ですか? やはり獣は獣。人間は言葉を交わして相互理解を図る。その意義が理解出来ませんか?」
「テメェ……! ゴチャゴチャ、ゴチャゴチャと!」
「止めろ。デール」
「でもよぉ。レオさん!」
「今ここでソイツを殺しても、何も生まれない。……止めろ」
「……わ、分かったよ」
「まったく」
レオさんの言葉でナッケン侯爵は解放され、服の汚れを直してからアリア様へと向き直った。
「御覧いただけたでしょう? これが獣人です」
「……仰りたい事は分かります。しかし、今のはナッケン侯爵の挑発が原因かと思います。騎士団の詰め所や酒場で同じ様に騎士を挑発すれば同じ事になったでしょう?」
「ふむ。一理ありますね」
「必要なのは敬意です。人間であれ獣人であれ、貴族であれ平民であれ、それは変わりません。敬意がなければ関係は破綻し、争いを呼ぶだけでしょう」
「なるほど。ではアリア様のご意見が正しいとして……彼らはどの様な働きが出来、そしてどの様に我らは彼らに敬意を持てば良いのでしょうか? 貴族は国を管理し、騎士は外敵から国を守る。そして平民は国の基盤を支える。では、彼らは? 獣らしく森で狩りでもさせるおつもりですか?」
「いえ。彼らには特殊部隊をお願いしようと考えています。無論全ての獣人さんが……ではありませんが」
「特殊部隊?」
「そうです。特殊強襲部隊。彼らの身体能力があれば夜闇の中でも問題なく活動出来ますし。人では通ることが出来ない難道も通る事が出来ます。そして、魔術を防ぐ魔導具を装備すれば、彼らを止める事はどの様な国であっても不可能でしょう」
「……国? まさかアリア様は戦争を始めるおつもりなのですか?」
「私から始めるつもりはありません……ですが、遠くない未来にシーメル王国は戦争に巻き込まれる事になるでしょう」
「……アリア様にはその未来が視えているというのですか?」
「はい。戦争は起こります。十年以内であれば確実に。最も早ければ今年か、来年にも起こるでしょう」
確信を持って語るアリア様の言葉に、貴族たちはざわざわと言葉を交わす。
が、特に誰もアリア様の言葉を疑っている者は居ない様だった。
疑ってはいない。
が、その上で、その未来が来る時にどうすれば良いのかを話しているのだ。
当然の様に。
「な、なるほど……アリア様のお考え、理解しました。その上で彼らが必要という話も分かります。戦争となればシーメルは弱い。スタンロイツ帝国に攻め込まれれば三日と持たないでしょう。そう考えれば彼らは存在だけで抑止力になる」
「はい。だからこそ、私達は共に生きねばならない。生き残る為に」
「……アリア様」
「なんでしょうか。ナッケン侯爵」
「アリア様のお考えはよく理解しました。しかし、私は未だ彼らを信用できません」
「当然かと思います。人間であれ獣人であれ、知らない人を信じるというのは難しい事です」
「はい。ですから……私はアリア様に近衛騎士を持っていただきたく……献言させていただければ」
「近衛騎士ですか?」
「はい。誰よりも強く、アリア様をお助け出来る、人間の騎士でございます」
「レオでは不満だと?」
「その男が獣人の代表であればこそ、人間の騎士も同様に必要であると考えております」
「確かに。平等という観点から考えれば正しいですね」
「はい」
アリア様は少しばかり考える様な仕草をしてからジッと彼女に付き従うものを見る。
端から順番に。
そして、何故か彼らを遠くから見ていた俺の所で視線が止まった。
「……?」
それからアリア様はニッコリと微笑まれて……。
「リョウ様」
「おぉ! 此度の戦争でアリア様をお守りした者ですな! それであれば力は問題ありますまい。後は、政治に関しては」
「ちょ! ちょーっとお待ちください! 俺はアリア様の騎士にはなれませんよ!」
凄い勢いで転がり始めた話に、俺は必死で待ったをかけたのだが、そんな俺の言葉に貴族や獣人の中からザワザワと不満そうな声が広がる。
明らかに俺が拒絶している事への不満が高まっていた。
「アリア様のご指名だぞ?」
「何が不満だと言うのだ」
「不敬では無いか?」
「アイツ。姫様の誘いを断ったぞ? 信じられない事をやってるな」
「姫様よりも優先する事なんかあるか? ねぇだろ」
「よし。ちょっと待ってろ。俺がアイツを頷かせてきてやる」
ちょっと待って欲しい。
俺は飛び掛かってきそうな獣人の気配を感じて神刀に手をかけながら抵抗しようとした。
しかし、そんな空気を壊す様にアリア様が再び声を上げる。
「皆さん。落ち着いてください。私はただあの御方の名前を呼んだだけです。騎士になって欲しいとは言っていません」
「……確かに。そうでしたな」
アリア様のお言葉に皆、ひとまずの落ち着きを取り戻す。
「冒険者であるリョウ様は自由であるべきです。どの様な道に進むのか。それはリョウ様自身が決める事。私達が強要してはいけません」
「そうですな。しかし、であれば何故かの者の名を?」
「はい。実はリョウ様に選抜試験をしていただこうかと考えておりまして」
「「選抜試験?」」
「そうです。私の近衛騎士をやりたいと願う方々を集め、リョウ様にその実力を見て貰おうかと考えておりました」
「なるほど。であれば、すぐにでも騎士を集めましょう! アリア様の近衛騎士になりたい者は山の様におりますからな! 少々お待ちください! 皆の者! 準備をするぞ!」
「ではお願いします。それから手の空いている方は王都の復興をお手伝い下さい」
「「ハッ!」」
俺もせっかくだし王都の復興でも手伝うかとアリア様の元へ行こうとして、クイクイっと服を引っ張られた。
引っ張ったのはミクちゃんだ。
「どうしたの? ミクちゃん」
「危ない所でしたね」
「……?」
「先ほどのアリア様。多分、本気でリョウさんを指名するつもりでしたよ」
「あぁ……まぁ、そんな気はしたよ」
「ふふ。何だかんだと理由を付けて指名するつもりかもしれません。頑張って、下さいね」
クスクスと笑いながらミクちゃんはアリア様の方へ駆けて行った。
まったく。とんだいたずらっ子だよ。まったく。