一回戦目の相手は……まぁ、色々とアレであったが、ひとまず一回戦目に勝利した事で二回戦目に進む事が出来た。
アレを戦いとカウントするのは非常に不本意であるのだが……まぁ戦いは戦いだ。
選り好みはせず、そういうモノだと受け入れよう。
でなければ、二回戦目の相手に心が折れてしまいそうだからだ……。
「おう! 相手はお前さんか! 戦争の時は世話になったな! 妻と娘を逃がしてくれたと聞いた! 感謝してるぜ」
「いえ……」
「だが戦いは非情だ。姫様をお守りする為には、俺の様な覚悟が居る! 長くシーメル王国で姫様を見守りながら、この時を待っていた俺の様な……な」
「なるほど」
何でも良いからさっさとやろう。
と言いそうになって俺は口を塞ぐ。
俺以外の人はアリアちゃんに色々と想いがあってここに居るのだ。
それの邪魔をするのは良くない事だろう。
「確かにお前さんは強い! それは俺も認めている! だが、戦いで重要なのは腕だけじゃねぇ! 武器さ! 己の力を最大限に発揮できる武器があってこそ戦いに勝利できる」
「それは、まぁ、そうですね」
「という事はだ! お前さんと俺の間にどれだけの実力差があろうと武器の強さで、まだ勝敗は分からないって訳さ」
まぁ、確かに。
オジサンの言うとおりである。
何も間違えた事は言っていない。
だから、それだけ自信があるオジサンに対抗する為、俺も自分の出せる最大の攻撃力を放つ事にした。
どれだけ強大な武器が出てこようと……それを両断する為の力を持つ!
瞬さんが言っていた。
俺たちが未熟でも神刀は応えてくれる。
だが、俺たちがより強い力を発揮する事が出来れば、神刀は刀という限界を超えてどこまでも強くなるのだと。
雲を割き、空を両断した瞬さんは俺にそう言っていた。
だから……俺も空を両断する為の力を溜め込んだ。
「俺の武器は! この槍さ! どうだい? 俺の身長くらいの長さがあるだろう!? これなら、お前さんの武器が届く前にお前さんを攻撃出来るって訳さ。お前さんがどれだけ強かろうと届かなければ意味はない! ふふふ。卑怯とは言うまいな!?」
「えぇ……」
むしろありがたいとすら思う。
何故なら斬撃は飛ぶからだ。
瞬さんなら、どれだけ相手との間に距離があろうと切り伏せるだろう。
それが出来る。
そして瞬さんに出来るのなら、俺にも出来るはずだ。
手が……届くはずだ。
「さぁ、お前さんの武器を抜きな!」
「いえ。俺はこのままで良いですよ」
「いや、良いって事はねぇだろうよ。恥ずかしがってんのかい?」
「何も」
俺は神刀を握ったまま静かに首を振った。
そして、腰を軽く落として、いつでも抜ける様にと静寂の中で己の力を高める。
「では! 試合始め!」
「はぁ、ったくしょうがねぇな。痛い思いしても怒るなよ」
「えぇ」
オジサンは槍を構えたまま開始の合図で俺の方へ走り出して来た。
その構えは……まぁ、素人という感じであるが、熱意は感じる。
そして、彼が言うように、武器はかなり丁寧に手入れがされている様で、先ほど戦った貴族よりは良い武器である事が分かった。
だが……。
「おらぁぁあああ」
それだけだ。
俺は右足に力を入れて踏み込み、神刀を滑らせて振り抜いた。
瞬さんの様な速度と威力には程遠いが、まぁ居合としては十分だろうと思う。
そして、その十分な斬撃はオジサンの持っていた槍を真ん中あたりで両断する事に成功していた。
「は」
「……終わりですね」
「はぁぁあああ!? 俺の、俺の自慢の獲物が! 斬られてるぅ!? これは夢か!? 幻か!」
「現実ですよ。ですが……続けますか?」
「いや……武器が無くなっちゃあ、俺はただの武器屋のオヤジよ……。俺の負けだ」
オヤジさんは素直に負けを認めてくれた為、俺の勝利が確定した。
が、さっきもそうだが、これが戦いなのかと考えると非常に複雑だ。
微妙な気持ちになる。
こんな戦いが何度も続いたら、流石にしんどそうだ。
いくら金を貰っているとはいえ限度がある。
が……どうやらそんな俺の杞憂は気にしなくても良い様だった。
「フン! どいつもコイツも! 人間なんてのは大した事のない奴ばかりだな!」
「……ん?」
「話にならねぇぜ! やっぱり、姫様は俺たちの国に来るべきだ。人間なんていう脆弱な連中は捨てて、な!」
「随分と威勢がいいな」
「へっ! お前は雑魚ばかり相手にして気分が良いみたいじゃねぇか!」
「そう見えるんなら、その目玉は何の役にも立たないから捨てた方が良いな」
「口ばかりよく回るぜ! お前らはよ! だが、それもここまでだ」
「というと?」
「お前の次の相手は、この俺だ!」
「おぉ……」
俺は思わず声を漏らしながらアリア様の方を見た。
アリア様はニッコリと微笑まれており、隣に立っているレオさんは頷いていた。
どうやら二人が用意してくれた対戦らしい。
なんと良い人たちなのだろう。
これでようやく『戦い』になる
俺は思わず笑みがこぼれてしまうのを感じながら神刀を握りしめた。
長い長い待ちの時間があったが、ようやくまともな戦いが出来る。
こんなに嬉しい事は無いだろう。
という訳で、ワクワクとした気持ちを抱えたまま俺は戦いへと向かった。
相手は当然ながら獣人のデールである。
「よぅ。よく逃げずに来たじゃねぇか。褒めてやるぜ」
「そっちこそな」
「チッ! イチイチ苛立つ奴だ!」
「そりゃ、ご苦労さんな事だ」
俺は神刀を納刀したまま構え、スッと腰を落とす。
「おいおい。武器の抜き方も忘れちまったのか?」
「さて、どうかな」
「まぁどっちでもいいけどな! だが、先に謝っておくぜ」
「謝る?」
「俺は手加減って奴が苦手でな! 大けがしても許してくれよって話だ! まぁ、姫様のご友人の聖女がいるらしいからな。死ななきゃ大丈夫だろ!」
「あぁ……確かにな」
遠慮はいらないかと俺は考えながら気合を入れる。
後ろの方でリンちゃんが怒っている様な気配を感じるが、まぁ今は気にしない様にしよう。
言い出したのは向こうだし。
確かに俺も頷いたけど、会話の流れを気にして頷いただけだから。
決してリンちゃんを便利な人扱いしている訳では無いのだ。
「では! 試合開始!」
「ハッハー! 行くぞ! 人間!」
「あぁ。言わなくても分かってるよ……獣人」
俺は人間離れした速さで、真正面から突っ込んでくる獣人デールに応え、奴が振り上げた右腕に神刀を滑らせながら抜き、斬り上げた。
煌めく様な一閃。
とまではいかなかったが、まぁまぁそれなりに見せられる技だったのでは無いだろうかと思う。
そして、俺は懐から取り出した布で神刀を拭きながら納刀し、膝をついているデールを見た。
「さて、どうする?」
「て、てめぇ……」
「俺は続けても良いし、止めても良い。決めるのはお前さ」
右腕があった場所からボタボタと血を流し、呻いているデールは未だ消えぬ闘志を瞳に宿しながら俺を睨みつけた。
片腕を失ってもなお、戦う意思を消していないのは流石というべきか。
だが、この状態で負けてやる気は無いし……終わらせるとしよう。
俺は神刀を真っすぐにデールへと向けて口を開いた。
「お前の負けだ。分かるだろう? このままじゃ死ぬぞ」
「人間ごときに負けるくらいなら死んだ方がマシだ!」
「へぇへぇ。そうですか」
話にならないな。と俺は神刀を振り上げた。
が、デールは何も恐れず、変わらず俺を睨みつけ、左腕でカウンターをしようとしていた。
例え死ぬとしても、俺へと反撃したいという事だろう。
まったく。
死ぬ必要のない場所で命をかけるとはな……。
「そこまで」
「……」
「ひ、姫様! ここは危ないぜ!」
「デールさん」
「っ!」
「私は、ここで貴方を失っては困ってしまうのです」
「……!」
「誰しも負ける事はあります。ですが、生きていれば、また勝つ事が出来るでしょう?」
アリア様の説得は、デールの思考を容易く曲げる事が出来、デールは大人しく敗北を受け入れたのだった。